2.985プロジェクト

(1) 概要

 「985プロジェクト」は世界一流の大学および国際的に高い知名度を有する一群のハイレベルの研究型大学の構築を目指した国家プロジェクトである。1998年5月4日の北京大学創立100周年大会で、当時の国家主席の江沢民が行った現代化の実現のために中国は世界先進レベルの一流大学を持つべきであるとの提言を契機として取り組みが開始したことから「985プロジェクト」と名付けられた。教育部は提言を受け「21世紀に向けた教育振興行動計画」を策定し、一部の優秀大学に対して重点的な支援をすることを通じて世界の一流大学およびハイレベルの研究型大学の構築を目指すことになった。

(2) 背景および実施経緯

 21世紀の到来を間近に控え、グローバル競争の進展に伴って知識経済が重視される時代となり、中国社会においても知識、情報、技術などが社会経済の発展に及ぼす影響の重要性が認識されるようになった。こうした中で江沢民国家主席(当時)は、社会経済の発展のためにハイレベルな研究型の大学を整備することは国家の重要な基盤づくりであるとしたうえで、一流大学とはイノベーション型の知識人材を育成する機関でなければならず、将来を見据えて客観的な真理を追求し、社会の諸問題を解決するための科学的根拠を提供する役割が求められるとの考えを示した。

 江沢民国家主席はまた、知識イノベーションや科学技術を実際の生産活動に応用するための重要な手段として高等教育機関を活用する必要があるとするとともに、大学は中国の特色ある文化を世界の先進文明と交流させるための懸け橋となることが期待されると述べ、世界一流大学を構築することを宣言した。

 これを受けて教育部は「21世紀に向けた教育振興行動計画」を策定し、1999年1月13日に国務院の承認を得て、国家予算を集中的に投入して中国の高等教育機関の質的向上を推進する政策方針を示した。具体的には、国内の著名大学や既に世界先進レベルに比較的近い条件を備えている学科を優先して重点的に整備することになり、北京大学清華大学等の中国のトップクラス大学が世界一流レベルを目指して取り組みを強化することとなった。

(3) 実施状況および成果

①第1期(1999~2003年)

 「21世紀に向けた教育振興行動計画」は1999年から2003年までの5年間を「985プロジェクト」の第1期として設定し、北京大学清華大学を始めとする34校が第1期の支援対象として指定された。第1期は、中国に世界一流大学とハイレベル研究型大学を構築するために、各種の経験を蓄積して高等教育機関の学術レベル発展のための一定の基盤を確立することを目標とした。具体的には、大学の新しい管理体制と運営制度を導入し、また国家や地方等の資源を集中して重点的な投資を行い、各大学の特色を鮮明にして優位性を発揮しながら、科学技術イノベーション能力と国際競争力を高めて中国らしい特色ある世界一流大学を構築するとの方針が示された。

 「985プロジェクト」は国家財政による資金投入の面からみると、「211プロジェクト」以上に集中的な投資が行われた。「211プロジェクト」が100余りの大学を指定して支援を行ったのに対して、「985プロジェクト」の第1期ではさらに厳選して34校が指定された。その大部分は「211プロジェクト」で国家の支援を受けてハイレベル大学への取り組みの実践を先行して経験した重点大学であった。

 「211プロジェクト」では1996年から2005年までの第1期と第2期を通して10年間で87億5000万元が中央政府の財政から支出されたが、「985プロジェクト」では第1期の5年間だけで255億元が投資され、このうち142億元が政府資金から支出された。一例として北京大学では「211プロジェクト」の第1期中に獲得した建設資金は1億2500万元であったのに対して、「985プロジェクト」の第1期では18億元に達した。中央政府の財政資金から投入された金額の「211プロジェクト」と「985プロジェクト」の比較を以下に示す。

第2-1-3表「211」及び「985」プロジェクトの中央財政支出規模の比較
プロジェクト実施期間 中央資金(億元)
「985プロジェクト」第1期(1999~2003年) 142
「985プロジェクト」第2期(2004~2007年) 191
 合 計 333
「211プロジェクト」第1期(1996~2000年) 27.5
「211プロジェクト」第2期(2001~2005年) 60
合 計 87.5
出典:教育部ホームページ 「985プロジェクト建設」

②第2期(2004~2007年)

 国務院は2004年3月3日、21世紀に向けて中国が目指すべき教育改革と発展の方向性を示す基本方針として教育部が新たに策定した「2003-2007年教育振興行動計画」を承認した。同計画では、高等教育機関の発展に関して、中国が世界一流大学と一群の国際的に著名なハイレベルの研究型大学の構築を目指す「985プロジェクト」を継続して実施していく方針が改めて確認された。

 「2003-2007年教育振興行動計画」の国務院の承認を受け、教育部と財政部は2004年6月2日、共同で「985プロジェクトの継続推進に関する意見」を発表し、「985プロジェクト」の第2期の内容を明らかにした。同意見は、第1期に取得した基礎的な成果を基盤として着実な前進を積み重ね、一部の学科を国際的な一流水準に到達させるかもしくは接近させ、さらに努力を継続して複数の世界一流大学の構築を目指すことを第2期の目標として確認した。

 また、世界一流レベルの学科の形成を促進するために、世界トップレベルの学術指導者や研究チームの招聘を行うことや、国家革新システムの整備に合わせて「985プロジェクト技術イノベーションプラットフォーム」と「985プロジェクト哲学社会科学イノベーション基地」の建設を重点的に進めることも第2期の目標として掲げられた。

 「985プロジェクト」の第2期では第1期の指定校に加えて新たに中国農業大学、国防科技大学、中央民族大学、北西農林科技大学、華東師範大学の5校が追加指定され、2006年までに「985プロジェクト」指定大学は第1期と第2期を合わせて39校となった。

 第1-2-4表に2009年10月現在の「985プロジェクト」指定の重点大学(39校)を指定の時期とともに示す。

第2-1-4表「985プロジェクト」指定大学リスト(2009年10月現在)
  所在地域 大学名称 第1期 第2期
1 北京市 北京大学  
2 北京市 中国人民大学  
3 北京市 清華大学  
4 北京市 北京航空航天大学  
5 北京市 北京理工大学  
6 北京市 中国農業大学  
7 北京市 北京師範大学  
8 北京市 中央民族大学  
9 天津市 南開大学  
10 天津市 天津大学  
11 遼寧省 大連理工大学  
12 遼寧省 東北大学  
13 吉林省 吉林大学  
14 黒竜江省 ハルピン工業大学  
15 上海市 復旦大学  
16 上海市 同済大学  
17 上海市 上海交通大学  
18 上海市 華東師範大学  
19 江蘇省 南京大学  
20 江蘇省 東南大学  
21 浙江省

浙江大学

 
22 安徽省 中国科学技術大学  
23 福建省 厦門大学  
24 山東省 山東大学  
25 山東省 中国海洋大学  
26 湖北省 武漢大学  
27 湖北省 華中科技大学  
28 湖南省 中南大学  
29 湖南省 湖南大学  
30 広東省 中山大学  
31 広東省 華南理工大学  
32 重慶市 重慶大学  
33 四川省 四川大学  
34 四川省 電子科技大学  
35 陝西省 西安交通大学  
36 陝西省 西北工業大学  
37 陝西省 西北農林科技大学  
38 甘粛省 蘭州大学  
39 湖南省 中国人民解放軍国防科学技術大学  
出典:教育部ホームページ 「985工程大学リスト」

 「985プロジェクト」の第2期では426億元が投入され、このうち191億元が中央政府の資金として支出された。第1期の中央政府の財政支出規模の142億元に比較して34.5%増となった。

 「985プロジェクトの継続推進に関する意見」の中で第2期の重点目標として設定された「985プロジェクト技術イノベーションプラットフォーム」と「985プロジェクト哲学社会科学イノベーション基地」の建設は、全部で372のプラットフォームおよび基地の建設が実施された。その内訳を見ると、国家実験室の設置を目標とするⅠ類科技プラットフォームが86、Ⅰ類哲学社会科学イノベーション基地が76、国家重点実験室、国家工程研究中心等の設置を目標とするⅡ類科技プラットフォームが172、Ⅱ類哲学社会科学イノベーション基地が38となっている。

③成果

 1999年に「985プロジェクト」が正式にスタートしてから、各重点整備大学の総合力が引き上げられ、世界の一流大学との差は着実に縮小した。中国を代表する理工系大学の清華大学と米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)の1995年と2005年のデータ比較を見ると、1995年時点では学校総経費、科学研究経費、博士学位取得者数、論文発表数、特許取得数のすべての項目について清華大学が下回っていたが、2005年の時点では博士学位取得者数で清華大学がMITを上回り、特許取得ではMITの4倍強の取得件数となっている。特許取得件数の大幅な増加は「985プロジェクト」による国家投資を通じて、大学の科学技術研究の成果を実際の産業化へとつなげる中国政府の重点方針が反映されている。なお、清華大学はハイテク産業の集積する清華大学ハイテクパークを有しており数多くのIT企業群を傘下に持っている。

 学校総経費や科学研究総経費、論文発表数や被引用数等の学問的な研究成果ではまだ大きな差があるものの、1995年時点から見ると着実なキャッチアップが図られている。

第2-1-5表 清華大学とMITの主要データ比較
指標 1995年 2005年
清華大学 MIT 清華大学 MIT
学校総経費 0.54億ドル 13億ドル 4.4億ドル 20.4億ドル
科学研究総経費 0.3億ドル 3.7億ドル 1.74億ドル 5.4億ドル
博士学位取得者数 177 522 646 467
SCI論文発表数 231 3151 2915 4348
SCI論文被引用回数 330 10423 7184 13498
特許取得数 48 104 521 127
原典:李玉蘭 『「211プロジェクト」中国の大学を世界に認めさせよう』『光明日報』2008年3月26日第005版
出典:JST Science Portal China世界一流大学~中国人の世紀の夢~をもとに作成

 教育部の郝平介副部長は2009年9月28日、「新中国成立60周年教育衛生事業発展成就」の記者発表において「985プロジェクト」の成果に関して言及し、1998年当時に中国の大学の平均研究経費は約1億元と非常に少なかったが、2007年には7億元へと増加し、また条件の整った一部の大学では12億元に達しており、これは米国大学協会に属する大学の平均にほぼ匹敵するレベルであると指摘した。

 同副部長は、学科の研究レベルを示す論文発表に関して、1998年の中国の大学のSCI(Science Citation Indicators)論文発表数は学校平均200編に過ぎず、中国のすべての大学の論文を合計してもハーバード大学1校よりもわずかに多いレベルであったものの、2007年には大学平均で約1000編のSCI論文が発表されており5倍に増加したことを明らかにした。また北京大学清華大学浙江大学上海交通大学では年間約2300編のSCI論文が発表されており、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、エール大学などの年間2700編のレベルに接近していると強調した。


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