1.百人計画

(1)概要

 「百人計画」は、中国科学院が主導して1994年に開始された中国で最初の科学技術分野の優秀人材の招致、育成政策である。計画立案の当初、20世紀末までに国内外の優秀な若手学術リーダーを100人抜擢することを目標として掲げたことから「百人計画」と名付けられた。「百人計画」は施策の展開とともに招致人材の規模を広げ「海外傑出人材計画」、「海外有名学者計画」、「国内百人計画」の3つのプロジェクトに発展した。

(2)背景および実施経緯

 改革開放から1990年代初頭まで中国の高等教育は急速な発展を遂げ、中国の科学分野における研究は規模と質の両面で顕著な向上が図られた。しかしながら世界水準との比較においては、国際的に一定の知名度を有する真に一流といえる若手の科学者はほとんどいなかった。

 中国では1966年から始まった文化大革命の約10年間に高等教育制度の発展が実質的に停止したため、学術的に科学技術分野をけん引するリーダー層の人材育成が断絶した状況が生じていた。このため、国内外の優秀な人材を呼び集め国家の特別の資金援助等によって育成支援を行い、21世紀の中国の科学技術の発展に貢献する若手高等人材を育成することが1990年代の中国科学院の重要任務とされ、「百人計画」がスタートした。

 1994年に「百人計画」が開始した時には20世紀末までに国内外から100人の科学技術分野の若手リーダーを招致、養成する目標が掲げられたが、中国の社会経済の急速な発展とそれに伴う諸課題を解決するための科学技術研究を先導する高度専門人材に対するニーズが高まったことを背景に、計画の見直しと拡大が順次行われた。

 まず、1997年に「百人計画」は人材の招致規模を拡大するために部分的な調整が行われ、中国科学院の主管で実施されていた「国家傑出青年基金」の助成金獲得者を招致対象として「百人計画」の人材育成プログラムに組み込んだ。

 次いで1998年には党中央と国務院の承認を経て、中国科学院が主導する「知識イノベーション導入プロジェクト」(「知識創新工程試点工作」)の試行実施が始まったことから、勢いを増す科学研究人材の需用増加に対応するために「百人計画」の招致規模を再び見直して、1998年から「海外傑出人材導入計画」が「百人計画」に追加された。1998年から2000年の3年間に毎年100人の海外からの傑出人材を中国へ招致することが目標とされ、同時に国内からの科学技術分野の学術リーダーの招致も継続された。 

 「知識イノベーション導入プロジェクト」は、中国の科学技術イノベーション力の強化プロジェクトで、1997年12月に中国科学院が中央政府に対して提出した「知識経済におけるイノベーション国家体系の建設」と題する報告書が契機となった。中国科学院は同報告書の中で、世界が21世紀の知識経済の段階を迎える中にあって、中国は新時代に挑戦するための戦略として国家組織による知識イノベーション・プロジェクトを立ち上げるべきであるとした。

 同報告書は、1998年6月に国務院の承認を受け、中国科学院を国家イノベーション建設体系の推進拠点として、1998年から2000年を始動期間、2001年から2005年を全面推進段階、2006年から2010年を完成段階として3段階によるプロジェクトが動き出した。中国科学院が主導する「知識イノベーション導入プロジェクト」による科学技術分野の研究人材に対するニーズの増大が「百人計画」の人材招致、育成の取り組みを加速させることになった。

 2001年に同プロジェクトが全面推進の段階に入ると、更なる人材ニーズに対応して「百人計画」は再度の調整が行われ、2001年から2005年までに毎年100人ずつ、5年で500人の海外傑出人材を招致する目標が新たに示され、また国内からは別途毎年30人を招致することになった。

 これにより中国で初めての科学技術分野の優秀人材の招致、養成政策として1994年にスタートした「百人計画」は助成経費の負担部門と金額条件等の区分によって「海外傑出人材計画」、「海外有名学者計画」、「国内百人計画」の3部分から構成されることになった。

(3)実施状況および成果

①「百人計画」の招致人材の条件

 「百人計画」の人材育成の対象となる招致条件を第2-2-1表に示す。

第2-2-1表 百人計画の招致人材の条件
海外傑出人材
  • 中国籍のある公民、または外国国籍を自ら放棄し、中国に定住する専門家・学者。
  • 博士号取得後、海外で2年間以上の研究経験を持ち、助理教授(assistant professor)またはそれに相当するポストに就いた者。
  • 課題研究プロジェクトに単独または主要メンバーとして参加し、顕著な成果を挙げた者。
  • 国内外の学会で一定の影響力を持つ者。具体的には、当該分野の動向を把握し、将来の戦略構想を持ち、チームを率いて科学最先端で研究に従事し、国際レベルの成果を挙げた者。
  • 当該分野に造詣が深い者。具体的には、国際レベルの研究成果を上げ、重要論文誌に3本以上インパクトのある論文を載せ、SCIまたはEIに収録された者。あるいは重大発明・特許を持ち、当該領域でハイテク技術を産業化できるキーテクノロジーを保有している者。
海外有名学者
  • 海外で助教授以上またはそれに相当するポストに就いた者、当該学科分野に造詣が深く、国際的にも高い知名度と重要な影響力を持つ者。分野の進む方向を把握でき、新しい構想を打ち出せる者。
  • チームを率いて国際的にも先進レベルの成果を上げられる者
  • 国際的にも同分野の学者に認知された重要な研究成果を持ち、当該分野の権威ある論文誌でいくつかの論文を掲載した者。または、重要発明・特許を持ち、ハイテク技術の産業化を引き起こすキーテクノロジーを保有する者。
  • 年間4か月以上中国で就業する者。
国内百人計画
中国科学院外部から)
  • 全職で研究員(教授)として勤めた者。
  • 当該専門分野で影響力のある成果を挙げた者。
国内百人計画
中国科学院内部から)
  • 「国家傑出青年科学基金」の助成金の獲得者。
出典:「中国科学院の国外傑出人材導入に関する管理法」から抜粋

 「国内百人計画」の対象となる「国家傑出青年科学基金」は、中国国内における若い科学技術人材の成長と海外学者の帰国促進を目的として、国家自然科学基金委員会が実施管理している。自然科学の基礎研究と応用基礎研究を助成対象分野とし、助成対象となる者は博士号取得者あるいは助教授以上のポストを持つ45歳以下で、国内外で認められた顕著な成果を挙げた研究者である。また中国国籍を持ち、中国国内の拠点となる研究機関に所属するとともに、資金助成を受ける期間中は年間6ヵ月以上中国国内で研究に従事することが条件となっている。

 1993年から2006年までの「国家傑出青年科学基金」の助成金獲得者の高等教育機関上位ランキングを第2-2-3表に示す。北京大学清華大学が毎年10名前後の基金助成の獲得者を輩出して合計人数で突出しており、この2校が中国の高等教育機関の自然科学分野の研究において先進的な地位にある。

第2-2-3表「国家傑出青年科学基金」の助成獲得状況(1993~2006年)   (単位:人数)
順位 学校名 1993-2004年 2005年 2006年 合計
1 北京大学 89 12 9 110
2 清華大学 78 9 13 100
3 南京大学 51 2 5 58
4 浙江大学 41 6 5 52
5 復旦大学 36 8 7 51
6 中国科学技術大学 32 3 5 40
7 中山大学 24 7 3 34
8 華中科技大学 20 3 1 24
9 中国農業大学 22 1 1 24
10 吉林大学 18 2 3 23
10 上海交通大学 19 2 2 23
出典:中国教育部科技発展中心ホームページ

②招致人材の待遇

 「百人計画」プロジェクトの人材選定条件に合致して中国政府からの招致が認められると、国家による資金助成を受けて3年間の任期で中国内の各研究機関に所属する形で研究に従事することができる。

 主な助成の内容は、海外傑出人材と中国科学院外部からの中国人材には200万元の研究費が与えられるほか、受け入れ先組織の規定に基づく給与、手当、医療保険等の福利厚生の適用が認められる。また、海外有名学者と中国科学院内部からの人材には100万元の研究費が支給される。

③成果

 2008年12月31日付、人民網が伝えた「科学時報」によると、1994年の「百人計画」の実施以来、累計で1569人が中国政府の招致を受け、資金助成を獲得した。このうち1998年から「百人計画」に組み込まれた「海外傑出人材導入計画」と「海外有名学者計画」による研究人材が1122人、「国内百人計画」による中国内優秀人材が243人、国家傑出青年科学基金を獲得して「百人計画」の対象となった人材が204人となっている。

 中国科学院はこれらの優秀人材に対して研究資金等の援助を通じて育成支援を行い、トップレベルの科学研究者を養成するとともに、中国の科学技術イノベーション能力の増強を図った。「科学時報」によると、「百人計画」によって招致された優秀研究者の平均年齢は37.1歳で、45歳以下が全体の80.8%と大部分を占めた。

 また、中国科学院のイノベーション研究室に在籍する932人が「海外傑出人材導入計画」に入選して中国へ帰国した海外人材であり、中国科学院の高級研究職の17.7%を占める。

 「海外有名学者計画」では国内外の研究者による70の国際研究チームが形成された。中国国内から599人、海外から495人の優秀学者が共同研究チームに参加し、海外人材のうち283人が「海外有名学者計画」により帰国した優秀人材である。

 中国科学院が主導する「百人計画」の実施により、学術界に平均年齢30歳台の若い研究チームが数多く形成され、研究リーダー人材の育成、学術研究成果の創出、学科の新たな発展と学科体系の合理化が促進された。


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