2.大学の運営体制

(1)経緯

 中国の大学の運営は、中央政府・共産党による統一的な管理の下で行われてきた。1949年の新中国成立後、中国政府は公有制と計画経済を基盤とする社会主義経済体制の建設を目指す政策を打ち出し、高等教育制度および運営体制についても、旧ソ連の制度をモデルとして、高度集権的な計画経済に対応する教育体系が志向された。

 新中国成立の翌年の1950年7月、政務院(当時)は「大学の指導関係問題に関する決定」を公表し、中国全土の大学の運営は、中央人民政府教育部による統一的指導を原則とする方針を強調した。大学の人事、財産、物資の配分等はすべて政府の主管部門が一元的な管理を行い、学生の募集計画や卒業生の就職先の配属、また専攻科目の設置や変更に至るまで、政府の教育主管部門が審査、決定した。

 「文化大革命」の期間を経て教育部は1978年10月、「全国重点大学暫定活動条例の実施案」を公表した。同条例は、大学の管理指導は共産党委員会とその指導下にある学長との分業責任制で行われると定め、大学の運営管理について、学長は独立した職権を持たず、共産党委員会の指導の下にあると明確に位置付けた。

 1980年代に入ると改革開放の流れを背景として、高度集権的な計画経済を前提とした大学の管理運営体制の問題点が顕在化してきた。張天保・元教育部副部長は、当時の状況について、大学の管理権限が中央政府に過度に集中し、大学の自主権がほとんど認められておらず、学科や専攻の設置も社会経済のニーズの変化に適合していない状況となっていたと、2009年9月4日付「中国教育新聞網」への寄稿文の中で指摘している。

 こうした状況に対応するため中国共産党中央委員会は1985年、「教育体制改革に関する党中央の決定」を公表した。同決定では高等教育事業の問題点として、中央政府が大学の管理を強化しすぎており、大学が本来もつべき活力を失わせているとの総括を行ったうえで、各大学の運営管理における自主権を拡大する方向性が示された。

 具体的には、共産党委員会の主導による学長との分業責任制から、学長の独立した職権を認める「学長責任制」へ段階的に移行し、また学長が主宰する「校務委員会」が大学運営の決定機関となるとともに、副学長やその他学校幹部の任免に関する学長の人事権を認める方針が決定された。また教師を中心とした大学職員による「教職員代表大会」の設置が認められ、大学の民主的な運営体制が容認され、中央政府および地方の教育部門は高等教育事業のマクロ的な管理と指導を行う方向性が示された。

(2)現行高等教育法の大学運営体制

 1998年8月29日に公布された「中華人民共和国高等教育法」は、1985年に「教育体制改革に関する党中央の決定」によって示された、大学の自主権を拡大する基本方針に基づいて制定された。大学は設置承認を受けた日から法人格を取得することが初めて明記され、学長がその法定代表者となることが規定された。これにより大学は、設置者が拠出した財産や政府の支出による財政資金、寄付等を自主的に管理し使用する民事法上の地位が保障された。

 また、社会のニーズによって専攻学科を新たに設置、調整したり、教材を自主的に選択すること、また募集する学生の学科ごとの人数を調整する等の教育活動計画における自主権が認められるようになった。

 その一方で、国が設置する大学では、共産党委員会が党の規約に基づいて大学の運営管理を統一的に指導し、学長は各大学に組織される共産党委員会の指導の下で職務を遂行する体制が改めて規定された。「教育体制改革に関する党中央の決定」(1985年)で示された学長の独立した職権を認める学長責任制は採用されていない。南京大学教育科学研究院の龔教授は、1985年から1989年初めにかけて中国各地の大学で学長責任制の実験が広まり、200校近くが本制度を実施したが、1989年の春から夏にかけての政治的風波(天安門事件)がこの流れを変えたと指摘している。

 「中華人民共和国高等教育法」に規定された大学運営の組織と活動の概要を第3-1-6表に示す。

第3-1-6表「中華人民共和国高等教育法」に規定される大学運営組織と活動
組織 活動
共産党委員会 中国共産党の末端組織として大学ごとに設置され、党中央の規約に基づいて大学の運営管理を統一的に指導する。学長は、共産党委員会の指導と支持の下で職権の行使に当たり主要な職責は次のとおり。
  • 中国共産党の方針、政策を執行し社会主義建設のための大学運営を堅持する。
  • 中国共産党の方針に基づき大学の政治思想を管理し、道徳教育を指導する。
  • 学校内部組織の設置と内部組織の責任者の人事を検討し決定する。
  • 学校の改革、発展と基本管理制度等の重大事項を検討し決定する。
校務委員会 学長の主宰により、大学の教育と科学研究、その他大学の運営管理の学長の職務事項を処理する。
  • 大学の発展計画を策定し、具体的な年度計画と規定を作成する。
  • 教育と科学研究活動、思想
  • 道徳教育を推進する。
  • 大学内組織の設置管理、副学長および内部組織の責任者の人事管理。
  • 教師の招聘および学生の学籍管理。
  • 大学の年度予算の執行および学校資産の維持管理。
  • 大学管理規定に定めるその他の職権事項。
学術委員会 専攻学科の設置・変更、教育・科学研究計画の策定、教育活動の評価、研究成果等の学術に関する事項を検討し決定する。
教職員代表大会 教師を主体とした教職員の代表者によって構成され、大学の運営管理に教職員が参加して民主的な管理と監督により教職員の合法的な権益が保障されることを目的とする。
出典:「中華人民共和国高等教育法」

 大学の共産党委員会の組織は一般に、党書記、常務委員会、規律委員会、共産党青年団等から構成され、下部組織として党務事務室、組織部、宣伝部、労働組合等がある。

 学長が党委員会の書記を兼任する場合もあるが、学長が共産党委員会の指導の下にあり、党中央の規約に基づいて大学の運営管理が統一的に実施されることが「高等教育法」に定められているため、大学の運営方針には党の意向が反映されることとなる。

 大学の運営管理の事務遂行に関しては、学長が職務権限を持っており、具体的には、学校内の人事、内部組織の設置、教育計画の策定、学生の学籍管理等のほか、年間経費予算の執行や、大学の資産を管理し、学校の合法的権益を維持する職権と責任がある。

 第3-3-1図に、中国の大学の運営組織の例として、上海交通大学の組織図を示す。党委員会の指導の下に、学長が各種の専門委員会を設置して具体的な事業を運営管理する組織体制となっている。

 政治思想・道徳教育を担当する精神文明建設委員会、学術委員会、学位評定委員会などの学術管理系の委員会の他、各学部・研究所の教育研究事業を担当する各種専門事業管理委員長、および校務委員会が学長の職権の下に設置されており、附属の中等教育学校や校弁企業も組織内に有している。

第3-1-1図 上海交通大学の組織図

第3-1-1図 上海交通大学の組織図

出典:上海交通大学ホームページ


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