3.学生支援制度

(1)概要

 1949年の新中国成立以来、高等教育はごく少数の国家運営の幹部を養成するエリート教育段階から発展を始めたため、大学の学費は基本的に国が全額負担していた。中国政府は1989年に「普通大学の学費および宿舎費の徴収に関する規定」を公表し、普通大学の本科および専科課程の新入生に対して学費を徴収することを決定した。1989年の大学進学率は3%に達したレベルであり、1985年の「中国共産党の教育体制改革に関する決定」に示された大学教育の普及規模を拡大して大衆教育化を目指す高等教育制度の改革の一環としての政策措置であった。

 1989年に学費徴収が導入された当時の年間の学費標準は一般地区の学生が100元、高収入地区の学生が300元であったが、その後上昇を続け、大学進学率の上昇と大衆教育化の進展とともに学費負担が困難な苦学生の問題が社会的な関心を集めるとこととなった。

 北京師範大学元副学長の顧明遠教授は、「改革開放30年中国教育記録」(人民出版社、2008年)の中で、大学の授業料は年間5000元から1万元が一般的となっており、1989年当時に比較して25倍から50倍に増加したが、その間の都市部住民の物価上昇要因を差し引いた所得の増加率は2.3倍であり、大学の学費負担が急速に増大したことを指摘している。

 2009年8月7日付「新華網」によると、2008年の全国の国公立と私立を含めた全日制普通大学の在学生総数は2103万2700人で、このうち家庭が経済的に困難な学生は473万9600人で在学生全体の22.5%を占め、さらに経済状況がとりわけ困難な困窮学生は158万3200人で同じく7.5%を占め、これらを合計すると在学生全体の30%に達する。

 中国では奨学金や学生向けローンの提供、アルバイトの斡旋、学費の減免等の方式により、貧困家庭の大学生に資金援助を提供している。教育部学生司の林蕙青司長は、中国政府による資金援助は、経済的に困難な家庭の大学生を支援する重要な施策であり、各種の制度の導入が始まった1999年から2008年までの間に約240万人の申請が受理され、承認された学費援助の総額は300億元に達したことを明らかにした。

(2)国家励志奨学金

 国家励志奨学金は、普通大学の本科と専科課程、および職業大学の学生を対象とする奨学金制度で、所定の条件を満たす学生に対して毎年最高5000元の奨学金が与えられる。品行が優れ、成績優良かつ身体強健であり、学費の支払いが経済的に困難と認められる学生の勉学を助けることを目的としている。

 中国国務院は2006年、「普通大学および職業大学の経済的に困難な学生に対する資金援助政策に関する意見」を公表し、学生に対する経済的援助を実施する政策方針を示した。この方針に基づいて2007年6月27日に「普通大学および職業大学の国家励志奨学金の管理暫定実施法」(「普通本科高校、高等職業学校国家励志奨学金管理暫行弁法」)が公表され、2007年8月の新学期から国家励志奨学金制度が実施された。

 教育部は、同奨学金の導入初年度は中央政府と地方政府の財源から約14億元が奨学金の原資として支出され、全国で52万1487人の学生に対して同奨学金の交付を承認したことを公表した。国家励志奨学金制度の概要を第3-2-3表に示す。 

第3-2-3表 国家励志奨学金制度の概要
基本申請条件 2年生以上の全日制普通大学の本科と専科課程、および職業大学の学生で、以下の条件を備える者。
①社会主義の祖国を熱愛し、共産党の指導を擁護すること。
②憲法と法律および学校の規定を遵守すること。
③誠実で信用を重んじ、品行が良好であること。
④学業成績が優良であること。
⑤家庭の経済状況が困難で生活が倹約的であること。  
奨学金標準額 毎年5000元
申請と審査 ・国家励志奨学金の選抜審査は年に一回行われ、毎年9月30日までに学生が学校へ申請書を提出し、学校は10月31までに審査を完了する。
・学校は奨学金全額を一回で奨学生に交付し、学生の学籍ファイルに記録する。
出典:教育部ホームページ「国家励志奨学金」

(3)国家奨学金

 国家奨学金制度は、全日制普通大学の本科および専科課程の2年生以上の学生を対象として、国家中央財政が全額負担する初めての奨学金制度として2002年9月1日に導入された。家庭環境が経済的に困難だが、勤勉で学力、体力、品行ともに優れている学生の勉学の支援を目的としている。

 制度導入に当たって政府の中央財政から2億元が支出され、4万5000人の苦学生への奨学金の付与が計画された。制度の設立当初は、国家奨学金は1等奨学金と2等奨学金の2つの等級に分かれ、1等奨学金は毎年、特別に優秀な学生1万人を対象に1人当たり6000元、2等奨学金は3万5000人を対象に1人当たり4000元が支給された。また、奨学金を受給者した学生は当年度の授業料が全額免除された。

 国務院は2007年5月19日、物価上昇に伴う大学生の経済的な苦境を背景として、「普通本科大学および職業大学の家庭経済が困難な学生に対する資金援助政策の体系的意見」を公表し、経済的に困難な大学生の資金援助を強化する方針を示した。

 これを受けて教育部と財政部は2007年6月26日、「普通本科大学と職業大学の国家奨学金管理暫行弁法」を発表し、国家奨学金制度の改定を実施した。具体的には、2つの等級を一本化して支給金額を8000元に引き上げ、奨学金授与の対象人数も年間5万人に拡大した。

 中央政府の教育部と財政部による国家奨学金制度の制定は、省、直轄市等の地方政府の高等教育に対する支援措置の手本となり、各管轄地域の大学に在学している貧困学生に対して地方政府の財源による独自の奨学金制度が相次いで導入されるきっかけとなった。

 教育部財務司全国学生資金援助管理センターの崔邦炎主任は、奨学金制度は大学生に対する経済的助成の中心的な政策措置となっており、2008年は573万人の学生に対し68億5900万元が支給されたとしている。

 国家奨学金を支給する学生の選定は、中央政府が主管する大学については教育部と財政部が共同で決定し、地方政府が主管する大学は各地方レベルの教育行政および財政部門が自主的に判断する。地方大学の奨学生選定の判断基準として農林、水産、石炭など地方の特徴を代表する単科大学の学生への配分を考慮するものと規定している。

 第3-2-4表に、国家奨学金制度の概要を示す。なお国家奨学金を支給された奨学生は、同じ年度に国家助学金を重ねて申請することはできるが、国家励志奨学金を申請することは認められない。

第3-2-4表 国家奨学金制度の概要
基本申請条件 2年生以上の全日制普通大学の本科および専科課程の学生で、以下の条件を備える者。
①社会主義の祖国を熱愛し、共産党の指導を擁護すること。
②憲法と法律および学校の規定を遵守すること。
③誠実で信用を重んじ、品行が良好であること。
④学業成績が優良で、社会実践面での独創力と総合的素質に優れていること。
奨学金標準額 毎年8000元
申請と審査 ・国家奖学金の選抜審査は年に一回行われ、学校は学年の開始時(8月)に審査を開始し、10月31までに審査を完了する。
・学校は11月30日までに奨学金全額を一回で奨学生に交付し、奨励証書を発行して学生の学籍ファイルに記録する。
出典:教育部ホームページ「国家助学金」

(4)国家助学金

 国家助学金は、全日制普通大学の本科および専科課程の2年生以上の学生を対象として2007年6月に導入された、中央政府と地方政府が共同で財政を負担して設立した助学金制度である。

 国務院の「普通本科大学および職業大学の家庭経済が困難な学生に対する資金援助政策の体系的意見」(2007年5月19日公表)に基づき、教育部と財政部が共同で同年6月27日に公表した「普通本科大学および職業大学の国家助学金暫定管理弁法」(「普通本科高校、高等職業学校国家助学金管理暫行弁法」)により正式に決定された。

 教育部財務司全国学生資金援助管理センターの崔邦炎主任によると、2008年の国家助学金の利用実績は627万5600人に対し92億元が支給され、2008年の政府による資金援助総額の31.3%を占めた。

 第3-2-5表に国家助学金の概要を示す。国家助学金を付与する学生の選定は、教育部と財政部が教育部に属する全国学生援助管理センターの意見を参考にした上で決定し、各省級の教育行政部門と財政部門に当年度の支給人数と支給金額を通知する。なお、「国家助学金暫定管理弁法」の規定により、各大学は毎年度の事業収入の4%から6%を学生援助資金に充てることが義務付けられた。具体的な比率は、中央政府が主管する大学については財政部と主管部門の協議により、地方政府が主管する大学については各省、自治区、直轄市レベルの政府が決定する。

第3-2-5表 国家助学金の概要
基本申請条件 2年生以上の全日制普通大学の本科および専科課程の学生で、以下の条件を備える者。
①社会主義の祖国を熱愛し、共産党の指導を擁護すること。
②憲法と法律および学校の規定を遵守すること。
③学習態度が勤勉で向上心が高いこと。
④学業成績が優良で、社会実践面での独創力と総合的素質に優れていること。
助学金標準額 原則として毎年2000元。
具体的な助学金基準は地方政府が年1000元から3000元の範囲内で決定する。
中央政府が主管する大学は財政部が関係部門と協議し、地方政府が主管する大学は各省、自治区、直轄市が決定する。
申請と審査 ・国家助学金の選抜審査は年に一回行われ、学生は9月30日までに学校へ申請書を提出し大学は11月15日までに審査を完了する。
・助学金は国から大学へ交付され、大学が学生本人へ毎月、月割額が支給される。
出典:教育部ホームページ「国家助学金」

(5)勤工助学制度

 勤工助学制度は、大学と関連機関の協力と指導の下で、学生が授業の余暇時間を利用して、アルバイト等の就労により合法的な収入を得ることを支援する制度である。教育部と財政部が共同で2007年6月26日、「高等学校勤工助学管理弁法」(「高等学校学生勤工助学管理弁法」)を公表し、出身家庭の経済環境が困難な学生の支援制度として導入した。勤労大学生の権益を法的に保護し、学費や生活費に充てる収入を得ながら学業を修めることを援助する。

 同弁法は、学生の就労は大学が組織的に管理を行い、いかなる企業や個人も学校の許可を得なければ学生を就労させてはならいことを明確に規定した。学生が個人的に就労する場合は同弁法による保護は適用されない。

 同弁法により学生の労働時間は原則として1週間に8時間、1ヵ月に40時間を超過してはならず、労働報酬は大学が所在する各地方の最低賃金または時給8元を下回ってはならない等の基準が示された。また、大学は学校内の各種用務を希望する学生に割り当てて、労働の機会を提供することを求めている。勤労学生と学校、雇用主は法的に有効な労働契約を交わし、万一、就労中に事故等が発生した場合の処理や争議の解決方法等についても明記するよう規定している。第3-2-6表に勤工助学制度の概要を示す。

第3-2-6表 勤工助学制度の概要
活動条件 ・学生は学業の余暇時間を利用することを前提に、大学に勤工助学制度による労働を申請し、基礎訓練と安全教育を受けた後に大学が配置した学校の内外の機関でアルバイトに従事する。
・学校は学生を有害または危険な健康を害するおそれのある作業に従事させてはならない。
・いかなる機関や個人も大学の同意がなければ、在学中の大学生にアルバイト労働をさせてはならない。
時間管理条件 学生は勤工助学制度による労働を行う場合は、学業に影響を与えてはならず、労働時間は原則として週8時間、1ヵ月に40時間を超過してはならない。
労働報酬 ・学生が学校内の機関でアルバイトをする場合は、その労働報酬は大学が管理し月単位で計算し支給する。1ヵ月の上限である40時間の労働に対する報酬額は、原則として大学が所在する地域の最低賃金または最低生活保障標準を下回ってはならない。
・学生が学校内の臨時機関でアルバイトをする場合は、その労働報酬は学校が管理し時間単位で計算し支給する。時給は原則として8元以上でなければならない。
・学生が学校外の機関でアルバイトをする場合で、労働報酬が大学が所在する地域の最低賃金を下回るときは、当該外部機関と大学および学生で協議のうえ報酬額を確定し協議書を作成する。
出典:教育部ホームページ「勤工助学」

(6)国家助学ローン 

 国家助学ローン制度は、教育部と財政部が共同で1986年7月31日に公表した「普通大学本科・専科学生に対する助学ローン制度の実施弁法」(「普通高等学校本・専科学生実行貸款制度的弁法」)により同年9月から実施された。制度導入の当初は、貸付の限度額が300元と低く、試験的な位置づけとして導入された。他の奨学金を獲得した学生で、なお生活が困難な場合に同ローンを申請することが認められたが、奨学金とローン貸付金の合計で350元を超えてはならないことが条件とされていた。またローンを利用する学生が在籍学生の30%以内に管理する総量規制が実施弁法に規定されていた。

 その後、大学生数の急速な増加と学費の継続的な値上がりを背景として国家助学ローンのニーズは高まり、利用件数が増加するとともに卒業後に働いて返済する方式の学費ローン制度が中国の大学に定着した。「普通大学本科・専科学生に対する助学ローン制度の実施弁法」は1993年8月の部分改定を経て、2009年3月11日に施行された現行法では貸付限度額は6000元にまで引き上げられている。

 2009年5月1日付「中国青年報」は、教育部の学生資金援助管理センターが明らかにした統計として、1999年から2008年までの10年間で436万1000人の大学生が国家助学ローンの制度を利用して大学へ進学し、貸付の累計金額は337億1000万元に達したと伝えた。2008年には、67万4000人が新たに国家助学ローンを利用し、65億9000万元の貸付が実行された。第3-2-7表に国家助学ローンの概要を示す。

第3-2-7表 国家助学ローンの概要
申請条件 全日制普通大学に在学する以下の条件を満たす学生は国家助学ローンの申請をすることができる。
①家庭の経済状況が困難な本科または専科課程の学生および研究課程の大学院生。
②中華人民共和国の国籍と身分証明書を有する者。
③民事法上の行為能力を有すること。未成年者が国家助学ローンの申請を行う場合は保護者の書面による同意を要する。
④誠実で信用を重んじ、規律を遵守し違法行為の履歴がないこと
⑤勤勉に学習し卒業する能力を有すること
⑥家庭の経済状況が困難で学費を準備することができず、在学期間中の学費と基本生活費が不足する状態にあること
必要書類 学生は新学年が開始した後に大学を通して所定の金融機関へ以下の書類を提出して国家助学ローンの申請を行う。
①国家助学ローン申請書。
②本人の学生証と身分証明証のコピー。未成年の場合は、保護者の身分証コピーと国家助学ローン申請の同意書。
③家庭の経済状況が困難であることの状況説明書。
④学生の家庭の所在する関係政府部門が発行した経済困難家庭の証明書類。
ローン限度額 最高で毎年6000元。
ローン審査 大学の窓口部門が学生の提出した申請書類により資格審査を行い、金融機関に対して書類を提出し、金融機関で貸付の可否を決定する。
ローン実行 ・大学に納付する学費および学生寮の費用は、銀行から1年分の貸付金が一度に実行される。
・学生の基本生活費向けの貸付金は銀行から月毎に実行される。
ローン利息 ・国家助学ローンに適用される金利は中国人民銀行が適用する法定金利および国の政策により決定する。
・学生が在学中の利息は国が全額を負担し、卒業後の利息は本人が負担する。
・2004年8月までに実行されたローンについては、在学中および卒業を通して利息の半分を国が負担し、半分を本人が負担する。
返済条件 ・学生は卒業後2年以内に就業状況と収入見込により、返済条件を選択する。但し卒業後6年以内に返済を完了しなければならない。
・2004年8月までに実行されたローンについては卒業後4年以内に返済を完了しなければならない。
違約条件 ・国家助学ローンの返済条件どおりの返済ができない場合は、違約利息が加算される。
・貸出銀行から中国人民銀行の個人信用情報データベースへ情報が入力され、全国の金融機関に違約履歴が公開される。
・返済の違約状況が厳重な場合は、銀行と関係行政部門から新聞、インターネット等の媒体を通して、氏名、身分証明書番号、卒業大学名および違約行為の状況等の情報が公開される。
・違約状況が厳重な借主は法律によって責任を追及する。
出典:教育部ホームページ「国家助学貸款」

さくらサイエンスプランウェブサイト

さくらサイエンスプランウェブサイト

 

中国関連ニュース 関連リンク

オリジナルコンテンツ

柯隆が読み解く

2014/2/18更新
「中国の歴史問題」

富坂聰が斬る!

2013/12/27更新
「中国賃金事情」

和中清の日中論壇

2014/2/3更新
「失望」に潜む米国のメッセージと日本の「積み木崩し」

田中修の中国経済分析

2014/2/7 新コーナー開設
「中央経済工作会議のポイント」

服部健治の追跡!中国動向

2014/2/27 新コーナー開設 「安倍総理の靖国神社参拝に想う(上)」

川島真の歴史と現在

気鋭の研究者が日中関係を歴史から説き起こす。幅広い視点から新しい時代の関係を探る。

科学技術トピック

New

2014/3/5更新
「赤外線カメラと簡牘資料の日中共同研究」
工藤 元男

取材リポート

New

日中関連、科学技術関連のシンポジウム・講演等を取材し、新鮮なリポートをお伝えします。

中国の法律事情

New

2014/3/7更新
「百度(バイドウ)の著作権侵害をめぐる攻防の結末」朱根全

日中交流の過去・現在・未来

日中交流のこれまでの歩みとこれから

日中の教育最前線

日中の教育現場の今をレポート

中国国家重点大学一覧

 

中国関連書籍紹介

New

2014/3/12 書評追加掲載

文化の交差点

New

2014/3/18更新
「日本における中国古代絵画」朱新林

中国実感

日本人が実感した中国をレポート

印象日本

中国が日本に滞在して感じたことをレポート

CRCC研究会

過去の講演資料、講演レポート

CRCC中国研究サロン

過去の講演資料、講演レポート

最新イベント情報

アクセス数:31043468