1.学費徴収の経緯

(1)新中国成立から1985年まで

 中国の高等教育事業は1949年の新中国成立以来、中央政府による計画経済体制の下で、国家の建設と発展を担う基幹人材の育成を目的として、全額公費負担により運営が行われてきた。当 時の大学生は学費が免除となるだけでなく、政府から「助学金」が支給され生活費の一部が支援されるとともに、医療費の免除等の特典が与えられていた。毎 年の新入生の募集規模や選考基準をはじめ卒業後の就職先の配属に至るまで、中央政府が決定する計画に基づいて管理運営が実施されていた。

 1980年代に入り経済社会の発展に伴い、従来の国家管理による大学運営や卒業生の就職先の割り当て制度が、社会の各方面で求められる人材のニーズに対応できない問題点が指摘されるようになった。他 方で高等教育の規模が拡大し学生数が着実に増加したことにより、国家財政によって大学の教育経費を全面的に支えることが徐々に困難となり、大学の教育水準への影響が懸念されるようになったため、高 等教育体制の改革の必要性が高まった。

 中国政府は1985年に「中国共産党の教育体制改革に関する決定」を公表し、高等教育事業の持続可能な発展を確保するために、大学の教育経費の調達ルートの多様化を促進する改革方針を示した。同決定は、国 家が計画によって各大学に割り当てる公費学生の新入生募集枠以外に、各大学が自主的に一定数の自費学生の募集を行うことを認める方針をはじめて打ち出した。これを受けて一部の大学では、入 試の合格ラインに達しなかった学生の入学を許可する代わりに、学費の一部を徴収する制度の試行を開始した。これにより、中 国の大学には国家計画に基づいて国が授業料を負担する公費学生と自費学生が併存する形となった。

(2)公費学生と自費学生の併存体制

 1989年に教育部、財政部、国家物価局は共同で「普通大学の学費および宿舎費の徴収に関する規定」(「関於普通高等学校収取学雑費和住宿費的規定」)を公表し、本 科および専科大学の新入生に対する学費徴収制度の導入が方向づけられた。同規定は、大学の学費を公的財政で全額負担する方式は、中国の社会経済の発展状況に鑑みて不適切であり、学 費免除を継続することは国家財政を圧迫するだけでなく、将来の高等教育体制の改革と発展にとって望ましくないとの認識を明確に示し、学費徴収制度を導入することを規定した。同規定により導入された学費基準は、一 般地区の学生が年間100元、高収入地区の学生は年間300元であった。

 教育部は財政部および国家物価局と共同で1992年6月、「普通大学の学費徴収の改善に関する通知」(「関於進一歩完善普通高等学校収費制度的通知」)を公表し、大 学の学費基準を中央政府が統一的に決定する方式を改めて、各省級の教育行政部門が各地区の状況に応じて自主的に決定することを認める方針を示した。同決定を受けて全国的に学費基準の引き上げが行われ、1 992年に208元であった学費の全国平均が、1993年には610元へ急上昇した。

 1989年に「普通大学の学費および宿舎費の徴収に関する規定」が施行された後も、それまでの国家計画による公費学生の募集枠は維持されており、各 大学の新入生は公費学生と自費学生が併存する状態が続いていた。国務院が1993年に公表した「中国教育改革発展綱要」は、優秀な基幹人材を育成する国家計画を維持することを前提として、自 費学生の比率を徐々に高めていく改革方針を改めて示した。

 1985年の「中国共産党の教育体制改革に関する決定」により試行的に開始された自費学生の募集は、当初は国家計画による公費学生の募集枠の5%以下とされていたが、入 学者数の増加とともに1992年には30%に達した。その一方で、自費学生の入学許可条件として合格ラインに対して20点の不足までとされていた基準が次第に遵守されなくなり、大 学によっては合格ラインに100点以上も足りない学生を自費学生として入学させる等、大学の教育水準に影響を与える管理上の問題も発生するようになった。

(3)学費徴収制への一本化

 教育部は1994年、「学費徴収大学の学費基準の決定に関する通知」(「関於核定委属高校弁学収費標準的通知」)を公表し、学 費を徴収する自費学生のみを募集する一本化方式の試行大学の学費基準を1000元から1500元とすることを定めた。同年に40ヵ所の大学が自費学生のみを募集する試行大学に指定され、学 費徴収制度の導入を段階的に実施する政府方針に基づいて、1995年には246ヵ所、1996年には600ヵ所以上の大学が試行拠点に追加指定され、新入生の自費化が拡大されていった。

 教育部は1997年に師範大学および農林業や鉱業等の一部の職業大学を除くすべての普通大学で新入生に対して学費を徴収することを要求し、公費学生の募集は全面的に廃止された。その後、1 998年から中国全土の大学で、原則としてすべての新入生に対して学費が徴収されるようになった。


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