3.大学校弁企業

(1)企業数と総収入額の推移

 校弁企業は、大学が直接出資し、経営と管理の責任を負う企業である。大学には、出資金額に応じた配当金が入り、大学の教育経費に充てることができる。中国の大学では1950年代から、教育と労働の両立の観点から学校の組織内に工場や作業場を設け、学生がこれらの施設で働くことを通して労働者としての職業意識を養成する教育方式が広くとられてきた。このため、大学の教科書や研究成果を発表する刊行物等を発行する出版社、教師や学生が利用するレストランやホテルの経営等、大学運営のための周辺需要に対応する「校弁産業」が形成されてきた。

 校弁企業のうちで大学の科学研究成果を産業転化したハイテク企業を科学技術型校弁企業という。1980年代以降に中国政府のハイテク産業振興政策のもとで、大学が科学研究によるシーズの技術移転を行うため、外部の企業との合弁により企業経営に関与する形態がとられ始めた。1985年に政府が発表した「教育体制改革に関する党中央の決定」は、産学官連携の促進を含む教育制度改革を強く打ち出し、科学技術型校弁企業を設立する動きが活発化した。その後、1992年の鄧小平の「南巡談話」をきっかけして改革開放への流れが加速する中で、国務院が校弁企業の発展を支持する方針を明確に示したことにより、多くの大学が科学技術型校弁企業の経営に乗り出していった。

 第5-3-1図に、1999年から2006年の大学校弁企業数と総収入額の推移を示す。科学技術型校弁企業に分類されないその他の校弁企業は、2000年の3354社をピークに減少傾向にあり、2006年までの6年間に38.7%減少し2055社となった。科学技術型校弁企業は、2003年に2447社で最多となったが、2006年には21%減少して1933社となった。

 総収入額を見ると、科学技術型校弁企業に分類されないその他の校弁企業は、1999年の111億7200万元が2006年に175億1900万元と、7年間で1.56倍へ増加したが、2003年以降は伸びが鈍化している。科学技術型校弁企業の収入額は、1999年の267億3100万元が2006年に992億1200万元と3.71倍に大きく増加した。

第5-3-1図 大学校弁企業数と総収入額の推移(1999~2006年)

第5-3-1図 大学校弁企業数と総収入額の推移(1999~2006年)

原典:「2006年度中国高等学校校弁産業統計報告」(西南交通出版社、2007年11月)
出典:大和総研 Asia Venture Insight (2008年9月10日)をもとに作成

(2)主要大学校弁企業の状況

 第5-3-8表に、2006年の大学校弁企業の営業収入ランキング上位20社を示す。第1位は北大方正集団有限公司(北京大学)の293億1300万元で、同方股份有限公司(清華大学)の121億1700万元と紫光股份有限公司(清華大学)の35億200万元がそれぞれ第2位と3位で続いた。

 北大方正集団は、北京大学が自らの研究成果を産業化するため、全額を出資して1986年に設立した中国で最も初期の科学技術型校弁企業である。ソフトウェア開発を主要な業務とし、中国語の印刷製版(DTP)システムでは80%のシェアを持っている。上海、深圳、香港およびマレーシアでの上場子会社5社を含むグループ企業は20社余りで、従業員3万人以上を有している。

同方股份有限公司は、1997年に清華大学が出資して設立した科学技術型校弁企業で、上海証券取引所に上場し、情報通信技術とエネルギー・環境の2大産業分野を中心に、多くの関連ハイテク企業を有している。また、紫光股份有限公司は、清華大学が設立した最初の科学技術型校弁企業で1988年に清華大学科技開発総公司として創立した。インターネット通信やインテリジェンス交通情報システムのソフトウェア開発等を主力としており、1999年から深圳市場に上場している。

 校弁企業の営業収入上位20社の出資大学を見ると、清華大学が7社で最も多く、北京大学同済大学ハルピン工業大学が2社ずつで続いている。校弁企業の上位20社の営業収入の合計は563億1600万元で、2006年の中国の校弁企業全体の収入額である992億1200万元の56.8%と過半を占めた。

第5-3-8表 大学校弁企業の営業収入ランキング上位20社(2006年)
出典:教育部科技発展中心ホームページ
順位 校弁企業名称 出資大学 営業収入額(億元)
1 北大方正集団有限公司 北京大学 293.13
2 同方股份有限公司 清華大学 121.17
3 紫光股份有限公司 清華大学 35.02
4 誠志股份有限公司 清華大学 14.10
5 遼寧省路橋建設総公司 清華大学 12.81
6 上海同済科技実業股份有限公司 同済大学 9.07
7 ハルピン工大首創科技有限公司 ハルピン工業大学 7.33
8 華工科技産業股份有限公司 武漢華中科技大学 7.22
9 紫光集団有限公司 清華大学 6.58
10 啓迪控股股份有限公司 清華大学 6.57
11 外語教学研究出版社 北京外国語大学 6.56
12 西北師範大学印刷工場 西北師範大学 6.06
13 北京北大資源集団有限公司 北京大学 5.82
14 上海交大南洋股份有限公司 上海交通大学 5.52
15 北京師範大学出版社 北京師範大学 5.45
16 太源理工天成科技股份有限公司 太源理工大学 4.77
17 北京北科麦思科自動化工程技術有限公司 北京科学技術大学 4.20
18 同済大学建築設計研究院 同済大学 4.10
19 清華大学出版社 清華大学 3.91
20 ハルピン工大高新技術産業開発股份有限公司 ハルピン工業大学 3.77

 第5-3-9表に、2006年の校弁企業の総収入額の多い大学順のランキング上位10校を示す。

 北京大学が314億元で首位で、清華大学が229億1200万元で第2位、浙江大学が68億9800万元で第3位と続いた。

 北京大学は北大方正集団の営業収入額(293億1300万元)が、全校弁企業の収入の93.3%と大部分を占めている。また、北京大学清華大学の校弁企業の収入金額の規模は他大学に比較して圧倒的に大きく、第3位の浙江大学に対して、北京大学は4.55倍、清華大学は3.32倍となっている。

第5-3-9表 校弁企業の総収入額の大学ランキング上位10校(2006年)
出典:教育部科技発展中心ホームページ
順位 大学名 校弁企業総収入額(億元)
1 北京大学 314.00
2 清華大学 229.12
3 浙江大学 68.98
4 東北大学 44.87
5 中国石油大学 36.95
6 武漢大学 22.26
7 同済大学 20.94
8 復旦大学 18.61
9 ハルピン工業大学 16.24
10 上海交通大学 14.39

(3)大学校弁企業の改革動向

 大学校弁企業は、大学の研究成果の企業への技術移転や産業化を促進するうえで大きな成果を上げてきた。その一方で、大学が出資を行い、かつ経営管理に直接関与するため様々な管理上の問題点も指摘されてきた。その一つが校弁企業の財産に関する権利関係が不明確であるという問題である。校弁企業を設立するに当たって、大学は、研究開発のための建物や設備をもって現物出資したり、特許技術を無形資産として出資する方式がとられる場合が多い。校弁企業の成立に関する法律と会計制度が未整備であったため、現物や無形資産の価値評価が適正に行われず、校弁企業が成長して事業規模が大きくなるにつれて企業価値の評価における不透明さが指摘されるようになった。

 また、2点目として大学の管理体制のリスクが問題とされる。大学は校弁企業の大株主であるため、校弁企業が経営不良により負債を抱えた場合、資金面のリスクを負う。大学運営の管理者が校弁企業の経営層を兼任する場合には、公的財政による教育経費や研究資金が校弁企業の経営費用に流用される可能性も考えられる。

また、校弁企業は「北大方正集団」のように、社名に設立母体の大学の略称を入れたり、類似のロゴマークを使用したりすることで、企業や製品のイメージアップを図っている例が多く、大学名を冠した知名度の高いブランドも生んできた。一方で、これらの企業が経営不振に陥ったり製品問題を引き起こした場合には、大学の経営にもマイナスの影響を与えるリスクがある。

 これらの指摘を踏まえて教育部は2001年10月9日、「北京大学清華大学における校弁企業管理体制の規範化の試みに関する意見」を公表して、校弁企業の体制改革の取り組みを開始した。両校での5年にわたる体制改革に向けた研究を経て、教育部は2005年10月22日、「大学科学技術産業の規範管理と発展に関する指導意見」(「関於積極発展、規範管理高校科技産業的指導意見」)を公表した。

 同指導意見は、大学校弁企業の財産権をめぐる問題や、校弁企業の経営状態が大学の教育事業に与えるリスクを回避するために体制改革の柱として、大学の経営と財産から独立した資産経営会社を新たに設立することを提言した。大学の保有する校弁企業の株式等の経営性資産を資産経営会社へ移管することで、校弁企業の経営リスクから大学を遮断することを狙いとする。また、大学と校弁企業の管理人員の兼任を禁止するとともに、企業名称に大学略称等を入れることを禁止する方針も示した。第5-3-10表に、「大学科学技術産業の規範管理と発展に関する指導意見」の校弁企業管理体制改革の概要を示す。

第5-3-10表 校弁企業管理体制の改革内容
出典:「大学科学技術産業の規範管理と発展に関する指導意見」(教技発[2005]2号)
項目 内容
財産関係 ・大学は自己の経営から独立した資産経営会社を設立して、校弁企業に投資した経営性資産の管理を行う。
・大学が設立する資産経営会社は国有となる。
・大学は資産管理委員会を設立し、経営性資産と非経営性資産に分けて帳簿を管理し、国有資産の価値を棄損させないよう管理監督を行う。
企業投資 ・2006年末までに大学は保有する経営性資産を資産経営会社へ移管する。
・大学の企業投資活動は、資産経営会社を通して行わなければならない。
・大学は資産経営会社への投資額の範囲で有限責任を負う。
・独立法人としての大学単体での企業投資は今後禁止される。
・国からの教育経費や研究開発経費を流用して企業投資を行うことは厳禁。
人員管理 ・大学の高級管理人員が資産経営会社以外の校弁企業の役員を兼任することを禁止する。
・大学の高級管理人員が資産経営会社の役員を兼任することは認められるが、報酬を受けることを禁止する。
大学名使用 ・資産経営会社、大学サイエンスパーク等以外は、企業名称に大学名称または略称を使用することは全面的に禁止する。
・現に大学略称等を企業名に使用している企業は順次、社名変更を進める。

 教育部は2009年2月1日、72校の直属大学に対して、校弁企業の管理運営体制を強化して金融危機の影響によるリスクを回避するよう要求した。資産経営会社を設立すべき条件に該当しながら、設立が完了していない9大学について、設立手続を速やかに進めるとともに、2009年末までに、大学の経営性資産のうち少なくとも70%以上を資産経営会社へ移管することを求めた。また、大学名を冠する校弁企業の名称についても同様に、2009年末までに社名変更を完了すること各大学に対して改めて求めている。


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