【12-08】儒家と中日両国の縁

朱 林涛(山東電力建設第三工程公司海外市場部副経理)    2012年 8月29日

 儒教は、中国文化の中心的な思想である。孔子を始祖とする儒学は、危機意識を人生哲学へと昇華させ、戦国時代の諸子の台頭、百家争鳴をもたらした。数百年にわたる論争や実践を経て、中 央集権的な封建制度が成立すると、儒学も確固たる地位を築いた。

 漢代に天下統一が実現すると、漢武帝は董仲舒の「罷黜百家、独尊儒術」という提案を受け入れた。いわゆる「独尊儒術」とは、儒家を主とし、その他の思想を吸収・融合させることであった。

 宋、明代の「宋明理学」は、仏教、道教の哲理を吸収し、生命や天の道理を深く模索することで深化し、儒教の哲学化が進んだ。理学は「新儒学」とも呼ばれ、儒教は2回目の改革と統合を迎え、儒 家思想の成熟を表すものとなった。

 中国の儒家思想が成熟するにつれ、日本の文化もその影響を受けた。応神天皇から推古天皇に至るまでの約300年間、「論語」「春秋」等の儒学典籍を中心とする中国古代の思想文化は、中 国大陸から朝鮮半島を経て、日本に伝わるようになった。

 7世紀以降、中日両国は互いに使者を送り、両国間の文化交流の直接のルートを開いた。大化の改新(645年)は、儒学を改革の指導的思想とした上に、中国の政治機構を手本に官僚制度を構築し、儒 学を基調とする律令政治を確立し、日本社会の発展を促した。こうして、日本は儒家思想をほぼ全面的に受け入れた。

 13世紀には、中国の宋学が日本に伝わるようになり、義理を主とする新しい儒学が、明経道・訓詁学を主とする古い儒学に徐々に取って代わり、日本における儒学の主流となった。14~15世紀になると、日 本では宋学ブームが起こり、宋学学派が徐々に形成されるようになった。1603年の徳川幕府の成立から明治維新前までは、日本の儒学全盛期であった。最も勢力のあった宋学学派は、朱子学派であった。陽 明学と朱子学は日本で大流行した。より重視されたのは陽明学で、明治維新の原動力になったとさえ言われた。

 日本は長い歴史において、中国の儒家思想と文化を受け入れてきたとは言え、それを常に日本化してきたのであり、主に儒学を日本の神道と融合させてきた。例えば、儒学の「三綱五常」の大意は、国 や家の中の問題に対処するに当たって、一つの「綱」、すなわちいわゆる権威を保たなければならない、ということである。

 このような考え方が日本の伝統に深く入り込んだ結果、民族の団結と社会の連帯を効果的に促し、対外的な手段や思想上の武器となってきた。

 儒家の「志士仁人、無求生以害仁、有殺身以成仁(志の高い人や仁徳を体現した人は、我が身惜しさに仁の道を曲げるようなことはしない。むしろ身を犠牲にしてでも、仁の道を達成しようとする)」の精神は、神 道と融合することで、武士道の根本にもなった。中国の儒家思想は、日本文化の思想の根源の一つとなり、日本文化の血液となり、民族精神と性格の形成に影響を与えた。日本は、愛 国的な武士と儒家思想の薫陶を受けた官僚たちが明治維新を実現し、近代史の試練に適応し、近代化を達成した。

 時代の変遷につれて、「儒」の文化体系の名称には変化が生じ、儒学、儒家、儒教、孔子教など、多くの呼び方が出てきたが、「儒教」がより広く使われているように見受けられる。

 中村敬宇や服部宇之吉ら、日本を代表する研究者も、「教え」としての意味を多く取り入れている。儒教とは、大成殿で行う釈奠礼のように、強い宗教意識と道徳的意義を表すものである。

 王家驊は次のように指摘する。中国の儒学は、同時代の西洋哲学に比べ、抽象的な存在論的思考はあまり発展していないが、日本の儒学は中国の儒学よりも、抽象的な世界観に対する思考がさらに希薄である。 

 中国では、存在論、宇宙論、認識論、工夫論を融合して一体化した宋明理学という大きな哲学体系が存在する。ここで言う「理」とは万物とともに存在するもので、論理的には万物に先立ち、そ して万物より高く超越した存在を指し、自然の摂理だけでなく、社会を統治する道徳規範とも関係する。日本の儒学はこれとは異なり、宋明理学では最も強調される存在論が、日 本の儒学思想体系では重要な位置を占めない。たとえ「理」と いうカテゴリーを受け入れたとしても、日本ではむしろそれを自然の摂理や道徳的な規律として理解し、形而上学的な世界の存在としては理解されない。   

 中国の儒学は「敬」が中心、日本の儒学は「誠」が中心であり、そこから両国間の倫理思想に相違が生じた、と多くの日本人研究者は考えているが、理にかなったことである。

 「誠」というカテゴリーに対する理解の相違について、王家驊は次のように語っている。中国の儒学は『誠』を感情的な道徳概念から宇宙の存在に昇華させたが、日本の儒学は逆に、そ れを存在論の高みから人間性のある道徳概念へと還元させた。中国の倫理思想に比較的強く存在する禁欲的な印象と比べると、日本の儒学における倫理観は情欲に対して寛容な態度が示され、情 感的な印象がより強くなっている。

 日本が歴史的に実践してきた「和魂漢才」とは、伝統的な神道の思想を「和魂」とする民族が行った儒学と神道の文化交流であったとするなら、日本の資本主義成立過程で実践された「和魂洋才」とは、儒 学と神道が融合して民族の思想となった「和魂」に対する更なる東西文化の交流であった。これこそが、日本が近代化の試練に対して、うまく立ち向かった基礎だと言えよう。

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朱 林涛

朱 林涛(ZHU Lintao):山東電力建設第三工程公司海外市場部副経理

中国山東省聊城市生まれ。
2002.9—2007.6 西北工業大学学士
2007.9—現在 山東電力建設第三工程公司外市場部副経理
 


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