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【14-025】中国の大気汚染防止の法制度および関連政策(18)

2014年12月11日

金 振

金 振(JIN Zhen):
科学技術振興機構中国総合研究交流センター フェロー

1976年 中国吉林省生まれ
1999年 中国東北師範大学 卒業
2000年 日本留学
2004年 大阪教育大学大学院 教育法学修士
2006年 京都大学大学院 法学修士
2009年 京都大学大学院 法学博士
2009年 電力中央研究所 協力研究員
2012年 地球環境戦略研究機関(IGES) 特任研究員
2013年4月 IGES 気候変動・エネルギー領域 研究員
2014年4月より現職

(4.2)自動車関連の法制度

自動車燃料分野の規制:ガソリン
ガソリン品質に関する規制基準

 中国においてガソリン規制基準としてよく知られているのが、「GB17930」を頭番号とする国家基準(以下、ガソリン規制基準)である。本基準は、ガソリンの性状の安定性や燃焼効率、エンジン等車体への負荷の低減等に着目した指標体系になっている。2000年1月1日から導入された国Ⅰ基準に始まり、2013年12月18日に公布した国Ⅴ基準(GB17930-2013)に至るまで、計4回の改正が行われている。国Ⅴ基準は、同年9月17日に発表された自動車排ガス国Ⅴ基準(GB18352.5-2013)に対応するものである(表1)。

 日本ではあまり知られていないが、前述のガソリン規制基準のほか、中国環境保護部もガソリンに関する国家基準を発表している。亜鉛や鉄、硫黄など、ガソリンに含まれる有害物質の含有量について定めた本基準は、2000年1月1日、国Ⅱ自動車排出基準に対応する形で初めて導入された(GWKB1-1999)。2000年から10年間、基準の見直しは行われなかったが、2011年5月1日、ようやく自動車排ガス国Ⅴ基準に対応する形で、改定基準(GWKB1.1-2011)が発表された(表1)。しかし、この基準は、ガソリン生産や販売事業者を拘束するものではなく、指導基準としての性格が強いため、事実上、ガソリン規制基準として役割を果たすには限界がある。また、本基準と上記のガソリン規制基準を比較した場合、オクタン価や蒸留性状、リード蒸気圧などガソリン性状に関する項目を除けば、ほとんどの規制項目および基準値は類似している(硫黄、鉛、マンガン、芳香族、オレフィン、ベンゼンなど)。言い換えると、本基準に強制力があったとしてもガソリンの環境品質の向上にどれだけ貢献できるかは疑問が残る。

表1

表1 自動車排出規制およびガソリン規制の導入時期(2006年~2020年)

典拠:ICCT “CHINA V GASOLINE AND DIESEL FUEL QUALITY STANDARDS” 2014
http://www.theicct.org/sites/default/files/publications/ICCTupdate_ChinaVfuelquality_jan2014.pdf
環境保護部『2013年中国自動車汚染防止年報』等に基づき、金が作成

ガソリン規制行政におけるジレンマ

 表1に見るように、中国におけるガソリン規制基準は自動車排出規制の実施を追う形で導入されていることが分かる。その理由として、例えガソリン規制基準の適用時期を自動車排出規制の時期に合わせたとしても、基準を満たした燃料の普及が予定通りに進まず、結局は適用時期を後倒しにしなければならない事情があったことが挙げられる(本シリーズ14を参照)。

 このような事象の背景として、ガソリン規制を巡る環境派と産業派の対立が挙げられる。ガソリン基準の改正プロセスには、石油業界や自動車関連業界を含む様々な利益団体が関与している。事実、国Ⅴガソリン規制基準の原案づくりをリードしたのは、石油大手「中国石油化工有限会社」に属するシンクタンクである。原案審査に関わる専門家委員会は、主に、石油、自動車などの産業分野の専門家、そして環境保護分野の専門家から構成されている。それゆえ、規制基準の厳格化を巡る議論は、実質上、関連団体の意見の折り合いによって決まる側面もある。例えば、硫黄規制値の厳格化を求める環境派の意見は、コスト上昇や燃費性の低下(硫黄除去処理に伴うオクタン価の低下)懸念する石油・自動車業界からは消極的な意見を招く。また蒸気圧の規制に関しても同様の対立構造がある。つまり、PM2.5原因物質である発揮性有機物削減の観点から低いリード蒸気圧を主張する環境派と揮発性の低下による着火性への影響を懸念する産業派の両陣営による対立である(典拠:科学日報「国五车用燃料标准背后的较量」2014年1月3日8面)。

国Ⅴ基準の変更点

 ガソリン規制を巡る環境派と産業派の対立を乗り越えた国Ⅴ基準は、少なくとも硫黄含有量に関しては国Ⅳに比べ大きく前進したと評価できる。その規制値は国Ⅳの50wtppm以下から10 wtppm以下に厳格化された。また、マンガン含有量は8mg/Lから2mg/Lに、オレフィン割合は28%から24%に修正された。そのほか、気温変化に伴うガソリンリード蒸気圧の変化がエンジン点火の不具合を起こしたり、あるいは不完全燃焼による汚染物質の排出増加を招くリスクに対処すべく、冬季のリード蒸気圧の下限値を42kpaから45 kpaに引き上げた(45 kpa~85 kpa)。一方、ガソリン精製・流通過程における発揮性有機物の発生リスクを下げるため、蒸気圧の上限値を68 kpaから65 kpaに引き下げた(40 kpa~65 kpa)。

 今回の国Ⅴ基準の改正において、最も意見が対立した点は、オクタン価を巡る議論であった。現在の中国における生産体制や処理技術上、硫黄含有量の新基準をクリアするためにはオクタン価をある程度引き下げる必要があるというのが産業界の意見であった。また、マンガン基準の厳格化によるマンガン含有量の低下もオクタン価を下げる効果が付随するので、オクタン価の緩和を求める理由の一つとなった。最終的には、環境派と産業派の双方の意見を取り入れた折衷案が採択され、オクタン価は、90、93、97から89、92、95に引き下げられた。

新基準適用の大気汚染対策効果

 図1は、自動車保有量および大気汚染物質の排出量の割合を排出基準ランク(国Ⅰ以前~国Ⅳ)ごとにまとめたものである。国Ⅰレベルを達成できていない自動車数の全国割合はわずか7.8%であるにも関わらず、NOxおよびPM排出量はそれぞれ、国全体の36.9%と46.3%を占めている。大気汚染対策として、徹底かつ迅速な廃車措置の導入が望ましい。しかし、即効性の観点から言えば、ガソリン品質の向上が最も現実的な方策に思える。国Ⅴ基準を5年間適用した場合の国全体のNOx削減量は、延べ40万トン前後(既存の自動車30万トン、新車9万トン)になるとする試算もある。

図1

図1 排出基準レベルごと割合:自動車保有割合、汚染物質排出割合

典拠:環境保護部『2013年中国自動車汚染防止年報』等に基づき、金が作成



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