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【18-018】中国における債権の消滅時効について

2018年11月5日

伊藤 ひなた(Ito Hinata)

 中国弁護士、アクトチャイナ(株)代表取締役社長。北京大学卒。日本企業の中国進出・事業再編・撤退、危機管理・不祥事対応、労務紛争等中国法業務全般に携わる。
(会社ウェブサイトhttp://www.actchina.co.jp)

 日本では、近時の債権法改正に伴い、債権の消滅時効に関する制度改正が進んでいるが、本稿では、中国における債権の消滅時効について解説したい。まず、中国では、日本と同じく、債 権の消滅時効に関する法律が整備されており、具体的には中国の民法通則及び民法総則に一般的な規定が置かれている。元々、民法通則及び民法総則は、異なる法律である上に、一 見すると矛盾するようにも読める規定が存在するため、2つの法律の関係をどのように解釈するか自体が解釈上の論点とされており、本稿では、この点に関する近時の進展も解説する。なお、現在の日本法と同様に、中 国においても、国際貨物売買契約に基づく債権、技術輸出入契約に基づく債権等の特殊な債権の消滅時効について、契約法等の法律に例外的な規定が置かれる例があるため、注意が必要である。

(1)債権の消滅時効の概要

 一般的に、債権の消滅時効は民法通則で2年、民法総則で3年と定められている。また、民法通則にあった短期消滅時効は、民法総則には規定がない。さらに、民法総則は、時 効が適用されない債権を新たに規定したなど、民法通則と比べて多くの相違点を見せている。

  民法通則
(1987年1月1日施行)
民法総則
(2017月10月1日施行)
一般的な消滅時効期間 2年 3年
短期消滅時効期間 以下の場合の消滅時効の期間は、1年とする。
・身体に傷害を受け、賠償を請求する場合
・品質不合格の商品を販売し、未だ公告していない場合
・賃借料の支払を遅延又は拒否している場合
・預けた財物が紛失又は損壊した場合
規定なし
最長消滅時効期間 権利が侵害された日から20年 同左
時効期間の起算 権利の侵害を知り、又は知り得たときから起算する。 権利の侵害及び債務者を知り、又は知り得た日から起算する。
時効が適用されない請求権 規定なし ・侵害の停止、妨害の排除、危険の除去を請求する場合
・不動産物権及び登記された動産物権の権利者が財産の返還を請求する場合
・養育費、扶養費又は扶助費の支払を請求する場合

(2)民法通則と民法総則の適用関係

 以上のとおり、債権の消滅時効について、民法総則及び民法通則に異なる規定が置かれているため、その適用関係が問題となり得る。立法レベルでいうと、民 法総則も民法通則も立法機関が制定した法律に該当するが、民法総則は民法通則より新しいため、優先的に新しい法律を適用するという考え方が有力である。しかし、民法通則は廃止されておらず、現 在も有効に存続している以上、どちらの規定を適用すべきかについて議論が重ねられてきた。

 このような背景から、民法総則における債権の消滅時効制度を正確に適用し、民法総則と民法通則における債権の消滅時効に関する規定が異なることに起因する問題を解決する必要があり、2018年7月2日、最 高人民法院審判委員会第1744次会議において「最高人民法院による『中華人民共和国民法総則』の訴訟時効制度の適用に係る若干問題についての解釈」(以下「本解釈」という。)が議決され、同 年7月23日に施行された。なお、本解釈の標題には「訴訟時効」との用語が登場するが、日本法上は「債権の消滅時効」に相当するものである。

 本解釈によれば、債権の消滅時効の適用関係は主に以下のとおりである。

  消滅時効期間 適用法律
2017年10月1日以降に消滅時効期間を起算する場合 3年 民法総則
2017年10月1日時点、民法通則に基づく2年又は1年の消滅時効期間が満了していない場合 3年 民法総則
2017年10月1日以前に民法通則に基づく2年又は1年の消滅時効期間が満了した場合 2年又は1年 民法通則

(3)時効の中断

 時効については、日本と同様、中国でも時効の中断が認められており、民法総則及び民法通則にほぼ同様な規定が置かれている。民法総則は、以下のとおり時効の中断事由を規定しており(民法総則195条)、当 該事由が発生した場合、債権の消滅時効は中断し、消滅時効期間は中断又は関連手続が終結したときから改めて計算する。

①債務者に対する催告

②債務者による履行の承諾

③訴訟の提起又は仲裁の申立

 ある債権が時効にかかりそうになった場合、債権者は、債権を保持するため、上記①から③までのいずれかにより時効期間の進行を中断させる必要があるが、② 債務者による履行の承諾は簡単に得られるものではなく、また、③訴訟の提起又は仲裁の申立は時間や費用がかかることから、まずは①債務者に対する催告をするのが通常である。

 日本の場合、債務者へ催告だけでは確定的には時効中断の効果は生じず、時効中断の効果が生じるためには、催告をした後、6か月以内に裁判上の請求等をする必要があるが、中国では、催告は、裁 判上の請求等をすることなく、それだけで時効を中断することができる。催告をした後、再度、時効期間が満了しそうになれば、債権者は改めて催告をすることによって再び時効を中断することができる。(「 民法通則の執行貫徹における若干問題に関する意見(試行)」173条1項)。

 また、債務者が行方不明の場合は、国家レベル又は債務者所在地の省レベルの影響力がある新聞等で公示することにより、催告することができる(「 民事案件の審理における訴訟時効制度の適用に関する若干問題の規定」10条1項3号)。

 さらに、催告は、債務の保証人にもすることができる。保証人に対して催告をした場合は主たる債権者に対する関係でも時効が中断される(「民法通則の執行貫徹における若干問題に関する意見(試行)」1 73条2項)。

(4)時効の停止

 債権の消滅時効期間が満了する直前6か月以内に、債権者が、以下の障害により債権を行使することができない場合には、消滅時効期間の停止が認められる(民法総則194条)

①不可抗力による場合

②民事行為無能力者もしくは制限民事行為能力者に法定代理人がなく、又は法定代理人が死亡し、民事行為能力を喪失し、もしくは代理権を喪失した場合

③相続開始後、相続人又は相続財産管理人が確定しない場合

④権利者が義務者又はその他の者によって支配されている場合

⑤その他権利者が請求権を行使できない障害による場合

 時効停止の原因がなくなった日から満6か月が経過することにより、消滅時効期間は満了する。

(5)特別な消滅時効

 上記のほか、中国の契約法129条は、「国際貨物売買契約紛争及び技術輸出入契約紛争により訴訟を提起し、又は仲裁を申し立てる期限は4年とし、当 事者がその権利が侵害を受けたことを知った日又は知り得た日から起算する。」と規定し、4年という特別な消滅時効期間を設けている。これについて、民法通則は消滅時効に関する特別法の適用を認めている( 民法通則141条)が、民法総則には規定がない。実務上、消滅時効に関する特別法をそのまま適用するという考え方と、4年ではなく一律に民法通則に基づき3年の訴訟時効を適用するという考え方が対立しており、論 点となっている。

以上


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