【17-09】中国ボトムアップ型の強みも 研究開発戦略センター報告書

2017年 4月21日  小岩井忠道(中国総合研究交流センター)

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 科学技術振興機構(JST)の研究開発戦略センターは17日、主要な科学技術分野ごとに国内外の研究開発動向や科学技術的・政策的課題などを調査した「研究開発の俯瞰(ふかん)報告書(2017年)」を 公表した。この中の「主要国の研究開発戦略」で中国はどのように評価されているだろうか。

 報告書は、世界の政治・経済情勢が今後の科学技術に与える影響に注視する必要があるとして、トランプ米大統領就任や英国のEU(欧州共同体)離脱などにみられる保護主義の台頭といった動きを挙げている。世 界第二のGDP(国内総生産)大国となった中国の存在感の増大も、併せて重視する必要を指摘した。研究開発投資規模や論文数でも中国が米国に次いで世界2位に浮上していることを挙げて、日 本の相対的地位が低下していることに懸念も示している。

 中国の研究開発投資額は、年々増え続け、2015年に7,006億元(約12兆円)に達している。これに対し、日本の政府科学技術関係予算(2017年度当初予算)は、約3兆5,000億円。民 間も含めた総研究開発投資ではどうか。2015年度の比較で、日本の約19兆円に対し、中国は約27兆円と、やはり水をあけられている。対GDP比でみた場合だけは、中国の2.07%に対し、日本は3.56%と 優位に立つ。ただし、中国は「国家イノベーション駆動発展戦略綱要」で2020年に対GDP比で2.5%以上、2030年に2.8%以上という目標を明示しているから、総 研究開発投資の差も政府による研究開発投資額同様、今後さらに開くとみられる。

 中国が建国以来、科学技術政策を重視してきたことは、5年ごとに更新されてきた科学技術五カ年計画が、現在、第13次であることからも裏付けられる。同 じように5年間の科学技術政策の基本方針を明示している日本の科学技術基本計画は現在、まだ第5次でしかない。これに加え、中国のもう一つの大きな特徴が、報告書に紹介されている。「 ボトムアップでの提案が政策に反映されることも多い」ことだ。

 報告書によると、「中国の政策は中国共産党のトップダウンで決定されるイメージが強いが、科学技術のように専門性の高い分野については研究者等の専門家の意見を尊重する」実態がある。例えば、2 006年から15年間の科学技術政策の方針を明示した「国家中長期科学技術発展計画綱要」では、03年から20のテーマごとに戦略研究ワーキンググループが設けられた。この議論を基に、科 学技術部が1年かけて計画をまとめ上げている。

 こうしたボトムアップの政策立案作業には、中国科学技術発展戦略研究院(CASTED)など科学技術部傘下の政府シンクタンクのほかに、中国人民政治協商会議や、中 国最大の研究機関である中国科学院などさまざまな科学コミュニティが関わっている。日本の場合、各府省庁に設けられている審議会で担当府省庁外の有識者から意見を聞く方式は定着しているほか、広 く一般の意見を聞く公聴会という制度もある。ただし、徹底したボトムアップで政策立案が行われているとは言いがたい。例えば、科 学者の代表機関とされる日本学術会議が組織として政策立案に大きな影響を及ぼした例が、これまでどれほどあっただろうか。

 もう一つ中国の大きな特徴として、報告書は地方政府も研究開発に大きな力を注いでいる実態を挙げている。特に北京市、上海市、江蘇省、浙江省、広東省などは、豊富な研究資金を大学、研究機関、企 業に提供している。中央・地方政府が支出する研究開発費は年々増えているが、2007年からは地方政府の支出額と中央政府の支出がほぼ同額になり、2012年以降は、地 方政府からの支出の方が中央政府を上回る伸びで増加している。

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中国政府支出による研究開発費の推移
(科学技術振興機構研究開発戦略センター「研究開発の俯瞰報告書(2017年)」から)

 人材育成の面でも、中国の地方政府の役割は大きい。中国政府が1990年代から海外留学生の帰国奨励策をとり続けていることはよく知られている。これを強化する「千人計画」が、中 国共産党中央組織部により2008年から始まり、2012年には国内でのリーダー育成を目的とする人的資源・社会保障部の「国家ハイレベル人材特別支援計画(万人計画)」が加わった。こ うした中央主導の人材育成策に加え、報告書は深圳市が2011年に始めた「孔雀計画」を紹介している。深圳で働いている海外の有能な人材に1人当たり1,000万~2,000万円、研 究チームに対しては1億2,000万円の補助手当てを支出しているというユニークな政策だ。

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