【17-27】情報化時代への対応遅れる日本のアジア研究 日本学術会議提言で明らかに

2017年 9月27日  小岩井忠道(中国総合研究交流センター)

 人文学的アジア研究について日本学術会議が提言「新たな情報化時代の人文学的アジア研究に向けて―対外発信の促進と持続可能な研究者養成―」をまとめ、9月21日公表した。提言は、国内外でアジア研究に関するデータベースの整備が進む中で、日本の対応が遅れている現状を認め、「データベースへの平等なアクセスの確保」や「日本からの研究情報の発信強化」などを急ぐよう求めている。

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日本学術会議

 日本のアジア研究の現状は、明るいとは言えない。国内の大学では人文学的アジア研究のポストが年々削減され、若手研究者が進路を見つけられず、研究へのインセンティブを著しく低下させている。こうした実態を日本学術会議は既に2014年7月に公表した「人文学的アジア研究の振興に関する提言」で指摘済みだ。

 今回の提言では、情報化の進展により、新たな課題が顕在化しているという指摘が目を引く。日本、アジア諸国で経済発展に伴い、多くの資料が発掘・発見され、その保存や修復などが大きな課題となっているのが、その一つ。加えて21世紀に入ると、メタ・データの処理や大型のデータベースの構築が進んだ結果、個々の研究分野でもアクセスが必須とされる大型コンテンツが出現し、情報が激増した。

 その結果として、有料であるコンテンツへのアクセス権の有無により研究条件に差異が生まれやすく、また、電子ジャーナルなどの高騰が図書館経費を圧迫するという深刻な事態が生じている。データベースがない国・地域の研究成果が発信力を失い、データベースを持たない資料群が利用されにくくなっている問題の影響も大きい。さらにデータベース掲載の有無は、その資料の利用頻度に決定的な影響を与える可能性があるため、データベース作成者が恣意的に資料を掲載させないことによって、研究者を誘導する懸念すら生まれている、と提言は指摘している。

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 一方、日本の現状はどうか。アジア歴史資料センターがウェブ上で無料提供している近現代日本の公文書類は、世界の多くの歴史研究者に用いられている。科学技術振興機構も日本の中国研究の成果の発信プロジェクトに取り組んでいる。しかし、これらの取り組みはまだ限定的だ。何より、日本の学会誌や紀要の電子化や公開の状況が、必ずしも十分ではない。提言はこの理由として、各学協会で情報発信の必要性が必ずしも認知されていないことと、多くの学協会がデジタル化やウェブ上での公開のための経費の捻出に難題を抱えていることを挙げている。

 欧米諸国や、中国、韓国、台湾などをはじめとするアジア諸国・地域は、自国語による研究成果をデジタル化して公開することに多くの予算を割き、それらが内外で利用されるようになっている。これに対し、例えば日本の国立情報学研究所が運用する学術情報データベースサービス「CiNii」は、論文コンテンツの多くにダウンロードの制限がかけられている。著作権にからむ制約に加え、資料の提供元である学協会や関連機関に資金がなく、そもそもデジタル化されていない資料も多いからだ。

 「データベース利用の面で国際的に大きく立ち遅れつつある」。このように日本の現状を認め、「日本の人文学的アジア研究者たちの多くが、新しい研究資料を紙媒体で集めざるを得ず、日本で学位を取得した留学生をはじめとする海外の研究者も日本語での研究資料に触れることが難しくなっている」と提言は指摘している。

 日本の現状を改善するにはどうすべきか。提言は、「アジア研究情報に対するアクセスの平等性の確保」と「日本からのアジア研究情報の発信(研究成果、一次資料)の強化」に加え、「長期的な研究者養成とアジア研究の社会的基盤形成」を求めた。研究者の養成には、公共図書館、文書館、博物館と研究機関、行政機関に専門的知識と高い学術的力量を備えた専門職員を配置することも含まれている。

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シンポジウム「中国情報データベースサービスの活用と可能性」の様子
(2017年1月11日、科学技術振興機構東京本部別館ホール)

 データベース利用で立ち遅れていることが日本のアジア研究に大きな影を投げかけていることについては、1月に科学技術振興機構中国総合研究交流センターと同方知網(北京)技術有限公司が共催したシンポジウム「中国情報データベースサービスの活用と可能性」でも議論が交わされた。日本で最も熱心に中国文献のデジタル化を進めている関西大学の内田慶市東西学術研究所長が憂えていたのは、電子ジャーナルの毎年の値上がりが図書館の危機ともいうべき状況を招いている現状。関西大学だけで、年間、5,000万円ずつ購入費が増え続け、現在、年間、6億円の図書購入費のうち、電子ジャーナル購入費が4億円も占めるという。

 シンポジウムの共催者、同方知網(北京)技術有限公司は、学術・産業界の情報を世界45カ国・地域3万箇所以上の機関にサービスしている中国をリードするプロバイダー。中国本土で出版された多くの学術、産業界関連の研究資料・情報を集めたプラットホームとして機能している。「ユーザーは、大学、研究機関、病院、公共図書館その他の政府機関。中心となっている北京のサーバーのトップページアクセス数が毎日、700万回に上る」という活発な活動ぶりを同方知網技術有限公司・海外知識服務公司の関暁嵐 副総経理が紹介していた。

 関 副総経理は、翻訳のコストがかかるという悩みも明かした上で、900万元(約1億5,000万円)の政府予算を得て英語に翻訳するプロジェクトを2010年からスタートさせていることを紹介し、中国の科学技術を世界に知ってもらいたいという熱意を示していた。

 日本学術会議の提言によると、中国では中国デジタル図書館国際協力計画」(CADAL:China Academic Digital Associative Library)が進んでいる。中国の70 以上の大学と米国、欧州、インドなどの大学、研究機関が連携し、中国関係資料のデジタル化を推進しているプロジェクトだ。清代以前の古典籍、中華民国期の図書・雑誌、欧文の博士論文、現代書など 260 万冊以上の資料がすでにデジタル化され、関係機関での利用が可能になっている。ところが、CADALにアクセスする権利を持つ日本の機関はない。同方知網が運用する情報プラットホーム「中国知網」についても経費負担が障害となり、近年の資料だけでなく戦前の記事も閲覧できるような高次な契約を結んでいる日本の機関は少ないという。

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