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【17-007】進化する中国高鉄の旅行市場への影響と日本旅行への波及(その2)

2017年10月 2日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)
  • 『仕組まれた中国との対立 日本人の83%が中国を嫌いになる理由』(クロスメディア・パブリッシング、2015年8月)

その1よりつづき)

「中欧班列」と「高鉄」が「五通」を加速する

 さらに「一帯一路」(海と陸のシルクロード経済圏構想を総括する言葉)の「五通」(政策溝通、設施聯通、貿易暢通、資金融通、民心相通~政策、道路、貿易、貨幣、民心をスムーズに~)の進展で内陸、西部への人、物、情報、資金の流れが加速する。

 既に2016年の中国と「一帯一路」沿線国の貿易総額は9,536億ドル、中国の貿易総額の25.7%に達した。同年の沿線国への対外直接投資額は145億ドル(金融業を除く)、中国の対外投資の8.5%を占める。沿線国から中国への直接投資は71億ドルである。

 その動きは鉄道貨物に現れている。「中欧班列」(中国と欧州を結ぶ国際鉄道貨物列車)、「中亜班列」(中国と中央アジアを結ぶ貨物列車)が拡大している。「中欧班列」は重慶、武漢、蘇州、東莞、大連などからモスクワ、ワルシャワ、マドリード、ハンブルグなど欧州諸国に運行している。グラフのように「中欧班列」は急速に拡大し、運行都市が増えて列車本数の増加が続く。昨年12月には西安からモスクワへの列車が開通し、今年の9月には山東省の威海からドイツのデュイスブルグへの1.1万㎞が開通した。これは途中での貨物の積み降ろしのない直通列車である。

 「中欧班列」の代表路線は「渝新欧」と呼び、重慶から西安、蘭州、新疆の烏魯木斉(ウルムチ)から北新疆鉄路に入り阿拉山口で国境を越え、カザフスタン、ロシア、ポーランドを通りデュイスブルグを結ぶ全長11,179㎞の国際貨物列車で、中国中鉄、ロシア、ドイツ、カザフスタン、重慶交運集団の共同出資による渝新欧(重慶)物流会社が運営している。ドイツまでの所要日数はおよそ16日、貨物の45%が重慶で積み込まれ、今の重慶経済を反映し、積載貨物のトップはノートパソコン、2位が自動車と自動車部品である。

図

欧州に向かう「一帯一路」の動きは鉄道貨物だけではない。

 2012年に甘粛省蘭州と新彊を結ぶ全長1,776㎞の「蘭新高鉄」が開通し、西北の甘粛、青海、新疆が高鉄時代に入った。沿線人口は少ないが40ほどの駅があり、高地を走り、風が強く建設コストも高い。そのいくつかの駅も「乗客より駅員が多い」だろう。

 だが、蘭州から新疆のウルムチまで在来線の「蘭新鉄道」だと20~24時間かかる。新疆はウィグル問題を抱える。脱貧困にも経済開発が必要で、採算地域にだけ高鉄を建設すれば、蘭州、ウルムチは20時間かかってもいいのか、という問題も出てくるだろう。

 日本は一極集中の対策遅れで「地方創生」は「地方葬逝」になりかねない。14億人の中国は経済分散が宿命で、日本より切実な問題である。高鉄は正に「地方創生」を担う。

 さらに今年7月、陝西省の宝鶏(西安の近く)から甘粛省の蘭州に至る全長401㎞の「宝蘭高鉄」が開通し、東部、中部と西北部の蘭州、西寧、ウルムチが高鉄で繋がった。「宝蘭高鉄」は時速250㎞のD車で、蘭州から西安の所要時間は6時間から3時間に短縮された。

 既に広東省の広州南駅から湖南省の長沙南を通り西安まで高鉄G車が走っているので、「宝蘭高鉄」の開通で珠江デルタと蘭州、さらに新疆が高鉄で繋がった。

 高鉄開通前は広州から蘭州まで30時間弱を要したが、今は、広州南を朝8時55分発に乗れば19時24分に蘭州に着き、「朝は広州で飲茶、夜は蘭州で牛肉麺」が実現した。

 「宝蘭高鉄」「蘭新高鉄」は山東省の青島から西安を経て甘粛省の蘭州、新疆のウルムチ、さらにキルギスのビシュケク、ウズベキスタンのタシュケント、タジキスタンのドゥシャンベ、トルクメニスタンのアシガバットを経てイラン、イラク、トルコ、欧州に至るシルクロード経済帯の線上を走り「一帯一路」の人の移動を活発にする。

 キルギスでは陝西煤業化工集団傘下の中大石油が同国石油製品の30%を担う石油事業を進めているし、陝西地鉱集団は鉱物資源開発に合意した。2015年の中国からイスラエルへの非金融分野投資は552%増加、オマーンは98%増加、カタールは83%増加した。

 また「蘭新高鉄」の向うにはロシアがある。将来「蘭新高鉄」はモスクワと結ぶだろう。

 高鉄がシベリアの凍土を走るには高い技術力が必要だが、中国鉄道は「哈爾濱(ハルビン)-斉斉哈爾(チチハル)」線でその技術を得た。2006年開通の青海省の西寧から拉薩(ラサ)までの「青蔵鉄路」は海抜5,231mの唐古拉峠や海抜4,648m、全長1,686mの崑崙山トンネルなど「千里凍土」を走ると言われ、過酷な自然条件での鉄道建設技術を高めた。

「中亜班列」はシルクロード経済帯と21世紀海上シルクロードを繋ぐ

 「中亜班列」は蘭州からトルクメニスタン、ウルムチからカザフスタンなどの中央アジアが運行路線である。またパキスタンやキルギス、タジキスタンへの貨物も深圳や広州などから「中亜班列」で新疆第二の都市、喀什(カシュガル)に到着、カシュガルから道路で運ばれる。また中国とキルギス、ウズベキスタンを結ぶ鉄道も計画されている。

 ウルムチからカザフスタンのアルマティへの所要時間は40時間。

 さらに昨年12月には広州から西蔵(チベット)のラサを通りネパールのカトマンズに試運転貨物列車も運行された。全行程は6,070㎞、海路20日が6日以内に短縮された。

 旅客鉄道は2014年にラサから西蔵第二の都市、日喀則市(シガツェ Xigaze)までの「拉日鉄路」が開通した。「拉日鉄路」は2020年にネパール国境の街、吉隆(キドン Gyirong)に伸び、さらにカトマンズと結ぶ予定だ。西蔵のラサへは「宝蘭高鉄」で西安から蘭州に行き、蘭州発の青蔵鉄路に乗るか「蘭新」高鉄で西寧から青蔵鉄路に乗り換えて行くことができる。

 「蘭新高鉄」「宝蘭高鉄」「青蔵鉄路」「拉日鉄路」により北京や上海、広州から西蔵、カトマンズへの旅行者が増える。

 西蔵は「一帯一路」から遅れた地域だったが、2015年の“中尼印(中国、ネパール、インド)経済走廊(回廊)”提唱でながれが変わり、ラサが「一帯一路」の重要都市になった。

 ラサからカトマンズ、その先はインドの港湾都市、コルカタ(カルカッタ)やバングラデシュのダッカで、西蔵とベンガル湾、インド洋への玄関が1,000㎞ほどに近づき、シルクロード経済帯と21世紀海上シルクロードが繋がる。中国とインドにはドクラム高地の国境問題があるが“中尼印経済走廊”で緊張緩和も期待できる。

 ラサからカトマンズへの鉄路は「孟中印緬経済走廊」(バングラデシュ、中国、インド、ミャンマー経済回廊)発展の重要な役割を担う。中国は着々と南亜八国(アフガニスタン、パキスタン、インド、スリランカ、ブータン、ネパール、バングラデシュ、ミャンマー)に「五通」の布石を打っている。

 殊に「設施聯通」で鉄道、道路、港湾建設の合作が南亜の国々と進む。中国中鉄がバングラデシュ鉄道局とダッカで進める同国最大の橋梁工事である鉄道連絡橋のパドマ大橋はバングラデシュの長年の悲願で、中国が行う海外で最大の橋梁工事である。またパキスタンのカラチでは中国電建集団がカタール王室と共同投資でパキスタン最大のカシム港石炭火力発電所の建設を進めている。これは「一帯一路」の「中巴経済走廊(中国・パキスタン経済回廊)」の最初のプロジェクトで中国電建集団最大の海外投資項目である。また中国はパキスタン西部、イランとの国境に近いグワォダル(Gwadar)港で43年の租借権を得て港湾投資を進めている。ミャンマーでは中国北方公司傘下の「万宝龍鉱山公司」が10億ドルを投資して一帯一路の重要プロジェクトである銅採掘を行っている。

 今、中国は西蔵ブームである。書店に多くの西蔵観光の本が並ぶ。2005年の西蔵旅行者は100万人に満たなかったが2011年に500万人、2015年には1,200万人弱となった。

 西蔵と言えば民族問題と捉えがちだが、「一帯一路」で西蔵も大きく変わる。

加速する「一帯一路」の動き

 「一帯一路」と「西蔵観光」、そこに「中国製造2025」も重なり、西部、内陸への人、モノ、資金の動きが加速する。そのながれを敏感に感じているのはAIIB参加国や「中欧班列」で繋がる欧州、華僑による中国とのネットワークを持つシンガポールである。

 シンガポールは蘇州と天津で中国と大規模合作を進めたが、「一帯一路」での内陸の成長と活動の拡がりから、4つの項目(金融サービス、航空産業、交通物流、情報通信技術)で重慶・シンガポール合作が進む。2015年のシンガポールの中国への実際投資額は前年比118.5%、中国の対外直接投資でのシンガポール投資は、2014年は前年比138.4%、2015年は371.5%である。

 しかし「一帯一路」の動きはシルクロードや南アジアだけではない。日本では南沙問題も絡みあまり報道はされないが、中国とベトナムの関係も「一帯一路」で緊密化する。

 既に広西壮族自治区の南寧からハノイまで国際旅客列車(所要時間約11時間)が運行しているし、中国の大学に在籍するベトナム人留学生は1.4万人ほどである。「一帯一路」の沿線国家では中国語教育が盛んで、既に51ヵ国の134ヵ所で孔子学院が設置されているが、ベトナムの大学でも中国語教育を充実し、漢語を理解できる教授を増やし、ハノイ大学では孔子学院が設置される。ハノイでは中鉄六局との合作でベトナム最初の総延長13㎞の軽軌(都市電車)が建設されている。中国南方電網と中国電力国際有限公司は17.55憶ドルを投資してベトナム平順省(ビントゥアン省)綏豊県永新郷でベトナム最大の「永新火力発電所」を建設中である。

 「一帯一路」の動きは工業や鉱物資源合作だけではない。今後沿線諸国との農業合作も活発になる。今年4月にはカザフスタンから「中亜班列」で小麦が運ばれた。これから中国の種苗技術が導入され化学肥料を抑えた小麦もカザフスタンで栽培される。陝西省の宝鶏には中国・カザフスタン友好リンゴ園がある。

 西部への動きは沿海都市人口に現れつつある。2015年には上海の外来人口が14.7万人、減少した。常住人口の0.6%の減少で、この15年で初めての現象である。

図

 以下のグラフは上海の常住人口と小学生数の推移である。小学生数は2014年の80.3万人から、2015年には79.87万人に減少している。小学生数の減少は2007年以来である。

図

変貌する中国高鉄

 「四縦四横」から「八縦八横」「十縦十横」へと高鉄の路線拡張が続く。だが2011年の温州での事故のイメージが強く日本では高鉄の安全性への不安を語る声が多い。また日本の新幹線と比較して運行時間の正確性にも疑問を持つ人が多い。だが中国鉄路総公司の発表では昨年7月の始発駅での定時発車割合は98.8%、終着駅の定時到着割合は95.4%である。筆者もよく高鉄を利用するが遅れを感じることはほとんどない。

 「八縦八横」の進展と共に高鉄駅の建設も活発である。北京では路線ごとに高鉄の駅が異なる。北京駅からは東北のハルビンや大連行き、北京西駅から西安や広州行き、北京南駅から上海行きの列車が出発する。冬季オリンピックに備え、北京北駅から張家口、内モンゴルの呼和浩特(フフホト)行きの列車も出る予定で、河北省の承徳経由で瀋陽まで伸びる路線には星火駅や豊台区の新駅も建設される。それでも北京西駅や北京南駅はたいへんな人の数である。

 さらに高鉄に新しい動きが起きている。民営化である。現在八つの路線が対象に上り、その一つ目、浙江省を走る杭紹台鉄路の新紹興北から台州を経て温州近くの温岒までの224㎞がPPP(Public-Private Partnership)投資で建設される。投資を行うのは復星集団などの民営資本連合で51%の株式を保有する。他に中国鉄路総公司が15%、浙江省政府が13.6%、紹興市と台州市政府が20.4%保有する。総投資額は448億元を予定し、速度は350㎞を目指す。「十縦十横」で将来、省都と周辺都市は支線で結ばれる。既に珠江デルタでは多くの都市が広州と深圳を中心に、高鉄により1時間内生活圏で結ばれつつある。幹線の株式放出とともに、これらの支線に民営資本が参入すると思われる。

その3へつづく)


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