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【18-005】新疆の経済と辺境の発展を考える(その1)

2018年 8月13日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)
  • 『仕組まれた中国との対立 日本人の83%が中国を嫌いになる理由』(クロスメディア・パブリッシング、2015年8月)

激減した日本人の新疆旅行

 筆者は先日、甘粛省の省都の蘭州から高鉄(高速鉄道)で12時間かけて新疆の烏魯木斉(ウルムチ)に行き、中国とカザフスタン、ロシア、モンゴルの国境に近い喀納斯(カナス)を旅した。前にこの欄 で高鉄の開通で朝に広州で飲茶、夕に蘭州で牛肉麺と述べたが朝に蘭州で牛肉麺、夕に烏魯木斉で羊料理も味わえる。蘭州から烏魯木斉への蘭新高鉄の距離は1,776㎞である。

 来てみて初めて良さがわかるのが新疆と言われ、山、湖、大草原、砂漠、オアシスの豊かな自然とハミウリ、スイカ、梨、リンゴ、ぶどう、アンズなどの豊富な果物、羊やナン、拌面(ラグメン)、手抓飯(新疆ピラフ)などの特色ある料理も豊富で、シルクロードの古代文明にも接することができるのが新疆である。新疆では雪山、氷河、深い渓谷とオアシス、砂漠の多彩な風景に出会える。

 新疆北方のアルタイ地区にはアルタイ山脈が連なり、中部には天山山脈、タクラマカン砂漠の南には崑崙山脈がある。パキスタンとの国境には標高8,611m、世界第2の高峰、チョゴリ峰(K2)がそびえる。

 新疆はモンゴル、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アフガニスタン、パキスタン、インドの八か国と国境を接している。

図1

 烏魯木斉への高鉄と並行して博楽塔拉蒙古自治州のカザフスタン国境の阿拉山口口岸(PORT、イミグレーション)を通りカザフスタン、モスクワ、欧州に向かう中欧班列の国際貨物列車が絶え間なく走る。

 2017年の中国とロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、インド、パキスタンの上海合作組織(上海協力機構)各国との貿易総額は2,176億ドルで、前年比19%増加した。特にカザフスタンとの貿易額は32.9%、ロシアは31.5%、インドは21.4%の増加だった。今年、第1四半期も前年比20.7%増で好調である。

 高鉄の車窓からその列車を見ていると「一帯一路」を進める今の中国経済を象徴しているように見える。

 内陸口岸の多くは1981年以後にできたが、2000年から現在まで西蔵、新疆、内モンゴルなどで17の口岸が新たに設置された。

 前回の日中論壇 で日本人の中国への渡航者の激減、世界の動きと逆行する日本について述べたが、今回の1週間の新疆旅行で出会った日本人観光客はわずか2組だった。

 以下のグラフは海外から新疆への旅行者の国別と国内旅行者数の推移である。

図2
図3

 2015年の新疆への日本人旅行者は2000年に比べて約88%も激減し、今はフランスやドイツ、英国、カナダ、米国、韓国からの旅行者が日本を上回る。

 2000年との比較では米国から新疆への旅行者も減っているが、イギリス、フランス、ドイツからの旅行者は増加した。日本や米国の旅行者の減少はウイグルとテロの問題が影響していると考えられるが、フランスやドイツ、また中国国内や香港、マカオ、台湾からの旅行者は増えているので、日本人旅行者の異常な減少には、日本人のウイグル問題への過敏な反応があると思われる。ウイグル問題は国、地域でそのとらえかたが異なる。

多様な新疆の社会

 2013年から2016年にかけて起きたテロの影響で自治区内は警備が厳重である。外国人は新疆に向かう列車の中で写真を撮られ、パスポートチェックがある。

 新疆に入れば公共施設やホテル、観光地では荷物チェックや身分証のチェックがあり、烏魯木斉から各地に向かう道路では度々検問と身分証、パスポートチェックがある。

 ホテルや公共施設の入り口には車の突入を防ぐ鉄のフェンスが置かれガードマンのチェックもある。新疆ではガソリンを買うにも身分証の提示が必要である。このような厳重な警備も現地の人々は慣れているのか特に違和感を持っていないようにも見える。旅行者の中には、だから新疆は安全だと語る人もいる。

 日本と同じく旅行者が減少している米国からの情報の影響なのか、日本人は新疆、即ちウイグル問題ととらえがちだが、私たちが考える以上に新疆は多様な社会である。

 2015年の新疆ウイグル自治区の民族別の人口割合は次のグラフのようになっている。

図4

 一番多い民族は維吾爾族(ウイグル)で、人口の48.7%を占めるが、新疆にはウイグル族の他にも、哈薩克族(カザフ)やモンゴル系の達斡爾族(ダフール)、塔吉克族(タジク)、トルコ系の塔塔爾族(タタール)、ツングース系の錫伯族(シボ)、回族、蒙古族(モンゴル)などの少数民族が暮らしている。省都の烏魯木斉には46民族が暮らすとも言われる。

 新疆の北方、阿勒泰(アルタイ)や塔城、昌吉、伊犁ではカザフ族や回族、モンゴル族が多く、ウイグル族は南部の阿克蘇(アクス)や喀什(カシュガル)、和田(ホータン)などに多く暮らす。北方の喀納斯(カナス)では原木のログハウスに住み、トゥバ語を話すトゥバ人が暮らしている。

図5

 新疆ウイグル自治区内にはカザフ族、回族、キルギス族、モンゴル族の4民族の5つの自治州とカザフ族、回族、モンゴル族、タジク族、シボ族の5民族の6つの自治県がある。

 基礎教育はウイグル語、漢語、カザフ語、キルギス語、モンゴル語、シボ語、ロシア語などで行われている。

 シルクロードの歴史は漢民族と少数民族の交流の歴史でもある。唐の時代、またそれ以前から東方の文化が新疆経由で西域にもたらされ、逆に西域の文化が隋や唐の都に入った。

 敦煌で分かれた高山と砂漠と草原の三つのシルクロードが新疆を通る。新疆は中国、インド、ギリシャ、イスラムの四大文明が交錯した地で、国際交流の中継地だった。

 他地域から漢民族が移り少数民族を排除していると伝えられるが、1980年からの民族別の増加率を見ると漢民族だけが増えているわけでもない。

新疆の各民族の人口(1980年と2015年の比較)
新疆統計年鑑
民族 1980年人口(万人) 2015年人口 (万人) 倍率
ウイグル族 576.46 1130.33 2.0
漢族 531.03 861.1 1.6
カザフ族 87.68 159.12 1.8
回族 56.56 101.58 1.8
キルギス族 10.89 20.22 1.9
蒙古族 11.32 18.06 1.6
錫伯族 2.59 4.32 1.7
オロス族 0.06 1.18 19.7
タジク族 2.41 5.01 2.1
ウズベク族 0.79 1.87 2.4
タタール族 0.31 0.51 1.6
満州族 0.5 2.75 5.5
ダフール族 0.4 0.69 1.7
その他 2.24 14.99 6.7

 第五次人口調査によると各民族人口に対する大学本科、専科、研究生の割合が一番高い民族は蒙古族、次に回族、漢民族、ウイグル族の順になっている。

 新疆には、国境警備、辺境開拓のための新疆生産建設兵団という組織があり兵団所属の人口は277万人(2015年)である。兵団は1954年に新疆駐屯の人民解放軍が再編された組織である。兵団は開墾や水利建設、植樹や都市建設も担う。烏魯木斉に近い石河子市や五家渠市は兵団が建設した街でもある。兵団は農業や工業、建設事業を行い、学校や病院、テレビ局まで持っている。

 新疆の少数民族は、農業や牧畜以外にも民宿や飲食店の経営、観光サービスの仕事にも従事している。筆者が新疆で宿泊した民宿は少数民族の経営だった。

 だが、漢民族との融和や政府援助の受け入れ、経済や事業への積極性には民族間で温度差もあり対応の難しさがある。

 以下のグラフは新疆の各地区の一人平均GDPである。一番高い克拉瑪依市(カラマイ)は一番低い和田地区の13.8倍である。克拉瑪依市は石油の街、和田地区は全人口232万人のうち225万人がウイグル族である。また全人口450万人の92%がウイグル族の喀什地区の一人平均GDPは17,431元にすぎない。2015年の全国平均の34.7%である。一方、烏魯木斉市より一人平均GDPが高い奎屯市(クイトン)は新疆生産建設兵団の街である。

図6

 筆者が旅行で出会った北の阿勒泰地区(アルタイ)や塔城地区の少数民族は、温和で親しみやすい人々であった。

 ウイグル問題だけが新疆を象徴するものでもないが、日本でながれる極端な情報の影響なのか、新疆即ちウイグル問題ととらえ、それが日本人の新疆旅行の激減につながっていると考えられる。

「自己本位」の社会

 新疆を旅行しながら中国の辺境の発展について考えた。

 筆者は「新時代」に向かう中国経済の課題は三つあると考えている。製造業の質的転換、消費経済と第三次産業の成長、内陸の発展である。そしてこれらの課題に共通のテーマがある。それは「自己本位」から「他を意識する社会」への転換である。

 「自己本位」の言葉には悪い印象があるが、筆者は否定的な考えだけでそれをとらえているのではない。

 「自己本位」は過酷な歴史を経てきた中国社会を生き抜く術であり、「厚かましく生きよ」という教えのように、中国人の個の強さの象徴でもある。

 日本は「あなた」を気にする社会だが、中国は「私」を主張する社会である。

 それぞれに長所も欠点もあり、筆者は双方を足して2で割れば丁度いいと思う。

 両者を足して割れば丁度良いと感じる事柄は多い。例えば音に対する反応である。

 中国は会話や電話の声、工事の音、街中の宣伝など、日本人からすれば騒音の多い社会である。自己と他との境目が希薄で他人をあまり意識しないからである。

 一方、今の日本は静かな社会である。地方では駅前商店街すら昼間も静かである。

 携帯電話は周囲を気にして皆がひそひそ声で話す。電車では座っている乗客の全員が携帯電話をみている光景もめずらしくない。満員の電車が音もなくお通夜の席のようである。

 日本は音に敏感な社会になり、新幹線では赤ちゃんの泣き声にも苦情が起きる。中国では考えられないことで、中国人の「自己本位」は一方では他人に寛容でやさしい面も持ち合わせている。日本人は自分も赤ちゃんの時があったことを忘れている人が増えたのかも知れない。自分を主張し、他にも寛容なので、中国では出産休暇で肩身の狭い思いをする風土は存在しないし入試で女性の点数を一律に引き下げる馬鹿なことも起こりようがない。

 だが「自己本位」は私とあなたの境界を不明確にする。皆が同じ釜の飯を食べた「大釜の飯」社会の産物でもある。それが高じて「公」と「私」の境も薄く、それが後に述べる環境問題につながるが、反面、その長所もある。

 中国人は誰とでも気さくに会話をして友達をつくるのが上手である。共に大釜の飯を食べた親近感が躰に沁み込んでいる。突然、他人から友達のように話しかけられても嫌がる人も少なく、好んで会話を発展させる。それがネット社会に影響して微信の朋友圏(友達の輪)もどんどん拡がる。

 逆に日本人には「私」と「あなた」の垣根がある。中国人のように誰とでも気さくに話ができる人は少ない。だから日本と中国を足して割れば丁度いい“かげん”になる。

その2へつづく)


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