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【18-006】新疆の経済と辺境の発展を考える(その2)

2018年 8月13日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)
  • 『仕組まれた中国との対立 日本人の83%が中国を嫌いになる理由』(クロスメディア・パブリッシング、2015年8月)

その1よりつづき)

サービス向上の限界

 他人を意識せずわが道を歩み、人より前に出ることを望む中国人のエネルギーで中国は急成長を遂げた。だが新時代の政治や経済のテーマは調和で、その社会の制御には協調や連携が大切になる。しかし協調や共同は中国人が苦手とすることでもある。

 中国の製造業は智能製造(スマート製造)による情報化やロボット、機械化で一定の成果をあげることは間違いない。多くの工場でロボット化も進みだした。その影響で情報処理に携わる人材需要が旺盛でその賃金が高騰している。斬新な発想や技術進歩でメイドインチャイナが進化するのも間違いない。既にローカルブランドの乗用車にそれが現れた。

 だが“使う人の気持ち”を考えたモノづくりでは、まだ物足りなさを感じる。それどころか腹立たしささえ覚える製品にも出会う。「自己本位」で気くばりが欠けるからである。

 また、中国の大手企業で見られる権力を嵩にした「自己本位」の行為、下請けや取引業者への無謀な要求は製造業の改革にも影を落とす。

 同じことがサービス業にも言える。多くの分野でサービスは向上したが、ある水準になるとそれ以上は進まない。限界点のようなものがある。

 多くの企業が指導者を招きサービス教育をしている。だが目標の六割ほどが達成できればまずまず、と考えているようにも思える。

 EC市場の急成長で百貨店などの直接販売はどこも苦戦が続く。ネット販売に押されて多くの書店も閉店した。

 人のサービス力や販売力の弱さもEC市場の成長に拍車をかける。消費者にとっては、わざわざ出かけて、無粋なサービスに接するより、口も利かずにネットで注文するほうが精神衛生的にも良いのかも知れない。「自己本位」からの転換がこれからの中国の製造業、サービス業の発展のための重要な要素になる。

なぜサービス向上に限界があるのか

 なぜ顧客中心のモノづくりが進まないのか、サービス向上に限界があるのか。

 人のことより自分がいかに生きるかの過酷な歴史が影響したとも言える。社会主義は他人にサービスを提供する習慣もなく、サービスする人への偏見もあり、社会にそれを向上させる意識も風土も希薄だとも言える。

 また中国は熾烈な競争社会であるが、一方で所得の向上と旺盛な消費で物が売れる。

 上海では住宅価格の上限規制がある。割安感もあり新築住宅は抽選となる。北京では販売規制でガソリン車の取得は数百倍の倍率である。航空業界は飛行場の増設を進めないと需要を満たせない。

 2016年までの10年間の国内旅客の平均伸び率は12.4%でGDPの伸び率をはるかに超える。多くの観光地はサービスを意識しなくても人が溢れ、宿泊や飲食料金は沿海の大都市並み、サービスは40年前のままのところも目立つ。価格とサービスのギャップが大きく、日本旅行に割安感を抱く一因にもなっている。

 大都市の高級ブランドショップでは月1万元の賃金で大卒の販売員を採用するところもあるが、多くのサービス業はそうはいかない。サービスへの偏見と低い賃金も影響し、現場で自発的に考え対処する行動に欠けることもサービスが向上しない原因になる。

 サービスが向上しなければ所得の向上でどんどん欲求が膨らむ消費者のニーズを満たせない。それは経済成長にブレーキをかけることにもなる。

第三次産業、サービス業が支える辺境の経済 

 新疆は石油、天然ガスの産出地である。2015年の原油産出量は2,785万トンで全国の産出量の13%、天然ガスは293億㎥で全国の21.8%で、レアメタルなどの鉱物資源も豊富である。また全国トップの綿花の産地である。

 しかし、新疆などの辺境の経済も同じ第三次産業、サービス経済の課題を抱える。

 次の表は2016年の主な経済指標の下位からみた新疆の位置を表したものである。

2016年度の経済比較表(下位からの順位)
中国統計年鑑
1人当りGDP 都市住民平均可処分所得
順位 地区 金額(元) 順位 地区 金額(元)
1 甘粛 27,643.0 1 甘粛 25,693.5
2 雲南 31,093.0 2 黒竜江 25,736.4
3 貴州 33,246.0 3 吉林 26,530.4
4 西蔵 35,184.0 4 貴州 26,742.6
5 山西 35,532.0 5 青海 26,757.4
6 広西 38,027.0 6 寧夏 27,153.0
7 安徽 39,561.0 7 河南 27,232.9
8 四川 40,003.0 8 山西 27,352.3
9 江西 40,400.0 9 西蔵 27,802.4
10 黒竜江 40,432.0 10 河北 28,249.4
11 新疆 40,564.0 11 広西 28,324.4
12 河南 42,575.0 12 四川 28,335.3
13 河北 43,062.0 13 陜西 28,440.1
14 青海 43,531.0 14 海南 28,453.5
15 海南 44,347.0 15 新疆 28,463.4

 新疆の2016年の一人当たりGDPは下位から11番目、全国平均の約75%である。都市住民平均可処分所得は下位から15番目で、将来性も加味した省別総合競争力は西蔵、青海、甘粛に次ぎ下から4番目と位置づけられる。

 次のグラフは新疆のGDPの推移と伸び率である。2015年、2016年と横ばいが続く。

 新疆の一人当たりGDPは2014年以降ほとんど変わらず、全国平均との差が拡大し、都市住民の平均可処分所得も伸び率が低下している。

 それには石油や金属採掘、金属加工等の工業生産の低下、第三次産業の停滞も影響した。

図1
図2
図3

 新疆や西蔵、青海、甘粛、雲南などの辺境の地で工業、第二次産業が成長するには大きな壁がある。

 人件費の上昇と環境への対応で多くの製造業が内陸に移転したが、物流や人材の制約で内陸シフトには自ずと地理的限界もある。製造業の改革には技術と人材が必要である。優秀な人材の採用は内陸、まして辺境では難しく、そのハンデを克服するには人件費を上げなければならず、内陸移転が逆にコストアップになる。

 2016年の中国全体のGDPでの第二次産業の割合は39.8%であるが、工場が移転した地域のその比重は依然高い。自動車や電子工業が盛んな重慶は44.5%、安徽省と河南省はそれぞれ48.4%、47.6%である。

 だが、新疆の第二次産業の割合は37.8%、雲南省は38.5%、西蔵は37.3%、甘粛省は34.9%である。これらの数字は工業移転の限界も示す。移転は、ほどほどの距離でなければならないことを示している。

 以下の2つのグラフは、新疆のGDPの産業別構成比と第二次産業、第三次産業の伸び率を表している。工業生産が伸びず、それを補うはずの第三次産業の伸び率も鈍化している。

図4
図5

人の育成、教育が辺境の経済の鍵を握る

 新疆経済の停滞はウイグルやテロ問題が影響している。ショッピング街や飲食街での頻繁な荷物チェックは消費に影響し、旅行者の身分チェックは楽しい旅行気分に影をさす。

 以下のグラフのように、2016年には新疆の固定資産投資も前年比マイナスに転じた。

図6

 だがそれだけが問題なのではない。

 工業移転の限界がある限り、これからの辺境の経済は第三次産業、サービス業が支えなければならない。

 そのためには「自己本位」からの転換、サービスの向上が課題になる。新疆経済の停滞はまだそれが進んでいないことも示す。筆者は新疆を旅行してそれを感じた。

 中国の辺境は豊かな観光資源に恵まれている。新疆には天山天池、喀納斯(カナス)、伊寧、博楽、伊犁、吐魯番(トルファン)、哈密(ハミ)、喀什(カシュガル)などのすばらしい観光地も多い。その観光資源を生かすためにも「自己本位」からの転換は大切である。

「自己本位」は「公」「私」の境も無くし「私」を拡げる。その象徴が環境破壊である。

 いまだに中国の多くの観光地では観光客が捨てたゴミが目立つ。自然の破壊、騒音や看板が風景を損なう。それも「自己本位」の結果である。

 筆者は昨年の秋、雲南省の麗江から香格里拉(シャングリラ)に向かう途中、白水台という清流と石灰岩の景勝地を訪れた。そこにはすばらしい自然の横に、自然を模したセメントの人工物があった。すばらしい景観もそれでぶち壊しになってしまう。

 「自己本位」で自然を破壊すれば、そのつけは必ず自身に跳ね返ってくる。だから辺境の地が成長するにはインフラ整備だけでなく、人の心を育てること。そのための教育が何よりも大切である。

 今、内陸の観光地を訪れる人は宿泊や飲食代、見学料の高さに驚く人が多い。新疆の観光地でも施設は粗末だが宿泊代は大都会の高級ホテル並みのところもあった。

 もちろん辺境なので多少の価格の高さはしかたがない。少数民族が観光事業に携わる地域では、それが貧困対策、少数民族対策にもなる。

 辺境の地で大都市のようなサービスを期待することにも無理がある。素朴なサービスの方がむしろいい。だが思いやり、ちょっとした心の気配りは都市であろうが、辺境、内陸であろうが大切である。それが足りなければ、旅行者は価格の高さだけが印象に残る。

 しかし、商業主義が前面に出てサービスが忘れられ、その大切さに気付いていないところも多い。旅行者は年々増大を続け、高い値段もまかりとおる。だが、それに甘えてサービスが向上しなければ、いずれそのつけがくる。

 問題に気付かせ、教育をして人を育てることは、道路や橋、鉄道などの形のあるものを整備することよりもっと重要なことかもしれない。

 中国政府は旅行市場の育成に力を注ぎ、高速道路や高鉄の整備が進んだ。観光地のトイレ整備にも取り組み始めた。また中国政府は新疆の発展のために北京、天津、山東などの市や省、ならびに大手国有企業と新疆との合作協力を進め資金やプロジェクトなどの支援を行って来た。

 だが、まだ残されているものが旅行者のマナーとともに旅行者を迎える側の心の育成である。

「自己本位」の改革、中国全体がその岐路に差し掛かっている。

(おわり)


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