【17-09】2017年上半期の国際収支の状況

2017年10月12日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):
日本大学経済学部 教授

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。信金中央金庫を経て、2017年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)など。

 9月28日に、中国の2017年4~6月期と上半期の国際収支が公表された。外貨準備や対外資産負債残高統計などに動きがみられるので、その動向を取り上げたい。

国際収支表と対外資産負債残高表の動き

 経常収支をみると、4~6月期も上半期もそれぞれ509億ドル、693億ドルと引き続き黒字を計上している。

 資本取引を表す金融収支をみると、4~6月期で5億ドルの赤字、上半期では390億ドルの黒字となった。これを外貨準備以外の金融収支で見るとそれぞれ311億ドルの黒字、679億ドルの黒字であるのに対して、公的外貨準備は316億ドルの赤字、290億ドルの赤字となっている。

 次に対外資産負債残高統計を見てみよう。17年6月末の対外総資産は6兆6446億ドル、16年末比1780億ドルの増加、うち公的外貨準備は3兆1504億ドル、同526億ドル増となった。一方、対外総負債は4兆8931億ドル、2271億ドルの増加となっている。この結果、対外純資産は1兆7515億ドル、490億ドルの減少となった。

 過去数年の中国の国際収支の動きをみると、経常収支は1994年以来黒字を続けている。金融収支は1997年以来2015年まで年間では一貫して赤字であり、16年は7~9月期から黒字に転じ、年全体としても黒字、17年も上半期で見ると黒字となった。公的外貨準備は14年上半期まで赤字(増加)だったが、14年下半期からは2015年4~6月期の赤字を除いて基本的に黒字(減少)が17年1~3月期まで継続した。その後、7~9月期に赤字(増加)に転じた。

 対外資産負債残高の動きをみると、2014年末まで総資産、総負債ともに増加を続けてきたが、総資産は15年3月末に減少に転じ15年末まで減少を続けた。その後、16年3月末から再び増加に転じた。総負債も15年3月末に減少し6月末に一旦増加した後減少を続けたが、16年9月末から増加に転じ17年6月末まで増加を続けている。

最近の動きをどう見るか

 注意すべきは、以前の本コラム でも述べたが、中国の金融収支の黒字、赤字を示すプラスとマイナスの符号は日本など主要国の国際収支統計と逆になっているという点である。中国も日本などと同じく国際収支統計はIMFの国際収支マニュアル第6版に準拠して作成しているが、IMF第6版では金融収支の符号が第5版までとは逆になっているのに対し、中国は「混乱を避けるため」という理由で従来と同じ符号を採用し続けているからである。

 このため、日本など主要国では金融収支がプラス符号で「対外純資産の増加」と表現されるのと同様の状態が、中国ではマイナス符号で「赤字」と表現される。日本では第6版準拠に移行したのは2014年初であるから、それ以前の第5版の国際収支統計の見方に慣れた人であれば、中国の表現のほうがわかりやすいかもしれない。

 中国の表現方法を使うと、誤差脱漏がないとすれば、経常収支が黒字なら、金融収支は必ずほぼ同額の赤字となる。国際収支統計にかかる恒等式が中国の場合次のようになる。経常収支+資本移転等収支+金融収支+誤差脱漏=0。この式で資本移転等収支は日本でも中国でも非常に少額なので無視し、誤差脱漏がないとすると、おおよそ経常収支=-金融収支となる。前述の統計で経常収支が黒字なのに16年7~9月期以降金融収支も黒字となっているのは、誤差脱漏が大きな赤字となっているからである。一方、日本など主要国では符号が逆でおおよそ経常収支=金融収支となる。経常収支に対応して変化する金融収支の部分以外の金融収支は資産と負債が必ず両建てで動く。海外から外貨を借りてくるということは海外の銀行に対する預金などの形で外貨建債権を借りてくるということなので、資産・負債両方が増加する。人民元建てで借りる場合は、従前海外が保有していた預金など人民元債権(中国から見ると債務)を使って借り入れるわけなので債務間の振替となり、中国全体として資産・負債の増減はない。

 前述のとおり、外貨準備が減少し始めた14年6月以降も総資産、総負債は増加している。金融収支は赤字でそれを資本流出と呼ぶとしても、経常黒字に見合う対外資産が増加し、さらに海外からの借入れも増加して、その分追加的に対外資産が増加しているわけである。外貨準備の減少は公的部門から民間部門に対外資産がシフトしているだけであり、中国から資産が消えてなくなっているわけではない。

 しかし、15年9月以降対外負債が減少に転じてからは、中国国内の居住者がドル建ての対外債務の返済を進めたり、海外の債権者が債権を引き上げたりするという行為によって、対外負債と対外資産が両建てで減少した。これは15年8月11日に実施された人民元為替レート制度の見直しによって人民元の対ドル基準レートの基調が人民元安に転じたことが大きな要因と考えられる。この時期は外貨準備も含め対外資産が減少するという意味で資本の流出が生じたといえる。

 中国当局は外貨準備の減少、対外資産・負債の減少と人民元安の悪循環が生じることを防ぐために16年に入ると人民元の名目実効為替レートを安定させ、外貨準備の減少を防ぐため外貨の人民元への交換を抑制しようとして、対外直接投資の抑制など資本流出規制を強化した。そして、17年5月には人民元の対ドル基準値についてカウンターシクリカル要因を導入し人民元高に誘導した。

 これらの施策が功を奏して、外貨準備は4半期ベースでは17年4~6月期に2年ぶりに増加に転じ、16年9月末から増加している総資産、総負債の増加も加えて、14年6月以前の状況に戻ったことになる。

今後の見通し

 このような状況を受けて中国人民銀行は、人民元安を抑制するために15年10月に取り入れた「外貨リスク準備金」の準備率を、17年9月11日に20%から0%に引き下げた。当局は現状、人民元為替レートを名目為替レートが安定するようコントロールしている。対米ドル基準値がユーロや円などの動きに従って、上下双方向に動くということが市場に浸透するに従って、一方的な人民元売り、外貨買いの動きが抑制され、継続的な外貨準備の減少も収まることを期待しているものと思われる。国際収支統計と同じ9月28日に国家外貨管理局が公表した「2017年上半期中国国際収支報告」でも、今後の展望として、市場の予測と対外資産負債の動向がさらに安定し、人民元為替レート形成メカニズムが改善され、対外債務が安定した増加を示し、国際収支に好循環をもたらすと述べられている。

 もっとも、人民元安への一方的な期待と、外貨準備の継続的な減少のような不安定な動きが今後再燃するようであれば、当局は人民元為替レート動向に対する期待と外貨準備の安定を図るため、今後も人民元為替レートのコントロールや資本取引規制を必要に応じて実施していくものと思われる。

(了)


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