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革新的原子炉CANDLEの研究

2009年4月10日

関本 博(せきもと ひろし)

関本 博(せきもと ひろし):東京工業大学原子炉工学研究所教授、革新的原子力研究センター長

1945年生まれ。
1974年カリフォルニア大学バークレー校原子核工学専攻Ph.D。ゼネラルアトミック社(米国)上級エンジニア、東工大助手、助教授を経、1990年東京工業大学原子炉工学研究所教授、2006年より東京工業大学革新的原子力研究センターセンター長を兼任。専門は革新的原子炉と革新的原子力システムの概念構築。学術雑誌や国際会議に約350編の論文を発表。

1.エネルギー問題と原子力

 地球温暖化問題は世界の主要問題となっており、その原因と考えられている温室ガス特に炭酸ガス排出を抑えることが喫緊の課題となっている。再生可能エネルギー開発が活発に行われているが、これらの多くはコストだけでなく、時間的に変動したり、薄く広がったエネルギーであったり、環境問題を引き起こしたりして、基幹エネルギーとしての利用が困難である。

 原子力は既にいくつかの国で基幹エネルギーとしての役割を果たしてきているが、その殆どは軽水炉(水で冷却している原子炉。PWRとBWRがある)であり、このような原子炉では資源枯渇により、今後40~80年しか持たないと考えられている。また多くの原子炉が運転されているにもかかわらず、原子力固有の問題である安全性、廃棄物、核拡散の問題は困難で重要な課題として残っている。

2.21世紀COEプログラム:世界の持続的発展を支える革新的原子力

図1. COE-INES

 文部科学省は優れた大学の研究機関を選抜して国際競争力のある研究拠点を形成するため、「21世紀COEプログラム」を2003年度より開始したが、東工大から提案した「世界の持続的発展を支える革新的原子力(略称COE-INES)」は原子力でただ一つのCOEとして採択された1,2)。ここでは図1に示すように、研究、教育、社会、国際の4つの柱を立て、先に述べた持続性、安全、廃棄物、核拡散の4つの課題を同時に解決することを目指した。

 COE-INESは2008年3月に無事終了したが、この有意義な活動を終了後も継続するようにということで、東工大の中に「革新的原子力研究センター(略称CRINES)」が設立され、革新的原子力の研究が続けられている。

 この中で展開され、現在も積極的に推進されている研究のひとつが、革新的原子炉CANDLEの研究であり、4つの課題の同時解決を目指している。COE-INESでは課題は既に述べた4つであったが、CRINESでは経済性も含め、5つの課題の同時解決を目指している。

3.CANDLE燃焼とは

図2. 一般の原子炉の燃焼に伴う制御棒操作

 一般の原子炉では、図2に示すように、最初に炉心(原子炉内の燃料のある部分:図では長方形の領域でこれを表わしている)に臨界(核分裂の割合が時間とともに変化しないような状態)量以上の核分裂性物質(核分裂する物質で、U-235やPu-239等が代表的)を入れておき、これを丁度臨界にするように制御棒(中性子をよく吸収する棒)を入れておく。

 原子炉燃料の燃焼(核分裂してエネルギーを発生しながら燃料を消費していくこと)に伴い、核分裂性物質が減少し、核分裂生成物(核分裂がおこるとほぼ同じ大きさの2つの核分裂生成物が生成される。FPと書く)が蓄積すると、制御棒を炉心から徐々に引き抜いていくことにより、原子炉が常に臨界になるように運転している。

図3. CANDLE燃焼

 このため核種(原子核の種類)や中性子束(中性子の密度に速さを掛けた量で、これに比例して反応がおこる)や出力(熱発生)の空間分布は燃焼時間とともに常に変化していく。

 これに対しCANDLE炉では、このような制御棒は不要である。図3に示すように、燃焼に伴い燃焼領域(核分裂が活発に起こっている領域)は、核種や中性子束や出力の空間分布が形を変えることなく、軸方向に出力と比例した速さで自然に移動していく3,4)。ここで重要なことは、燃料は固体で炉心に固定されていることであり、何ら特殊な制御装置を必要としないことである。

4.CANDLE燃焼の原理

 CANDLE燃焼は高温ガス炉(高温ガスを作ることができ、これを水素製造や製鉄等色々な分野で利用することが考えられている)といった原子炉でも実現できることを示しているが5,6)、ここでは、その効果が極めて大きい高速炉について解説する。但し、現在高速炉の主流にある酸化物燃料を使用する高速炉では実現が困難であり、金属燃料か窒化物燃料を用いる必要があることが分かっている7)

図4. それぞれの核種に対する炉心中心軸上の数密度

冷却材については鉛系冷却材(液体金属)やガス冷却材が優れているがナトリウムでも良いことが分っている。ここで紹介する具体例は最近安全性の高い高速炉として注目されるようになった鉛ビスマス冷却窒化物燃料高速炉を用いたものである。

 CANDLE炉の中心軸上の原子核数密度を図4に示す。左が新燃料で右が燃焼済領域になっており、それに挟まれて燃焼領域がある8)。新燃料としては天然ウランや劣化ウラン(天然ウランから濃縮ウランを作ったとき、余分のものとして残される殆どがU-238からなる部分)を利用できるが、図では劣化ウランの場合について示している。燃焼領域ではPu-239が主要な核分裂性物質として燃焼している。新燃料と燃焼領域の境界では燃焼領域から漏れてきた中性子をU-238が吸収しPu-239になる。これにより境界は左にシフトする。燃焼領域と燃焼済領域の境界ではFPが蓄積し、この境界も左にシフトする。このような仕組みにより、CANDLE燃焼が実現される。

 ここで示したのは平衡状態にあるCANDLE炉についてである。一番最初の炉心はどのようにすればよいか。平衡状態での燃焼領域には天然には存在しない放射性物質が多数存在している。このような炉心を模擬するのに、濃縮ウランを用いることができる。その濃縮度を炉心軸方向にうまく変化させることにより、最初から平衡時の出力分布で燃焼を開始させることができることを示した9)。プルトニウムでも同様のことは可能であるが、手に入れやすさ等を考えると濃縮ウランの方が容易であると考えられる。

 燃焼が進んで、燃焼領域が炉心の端まできた場合は、図5に示すように燃焼済領域を取り除き、燃焼の進行方向に新燃料を加える。こうするとCANDLE燃焼を再開できる。

図5. CANDLE燃焼における燃料交換

5.CANDLE炉の性能

 CANDLE炉は天然ウランや劣化ウランを装荷燃料として利用するにもかかわらず、その40%を燃焼することができる。軽水炉では例え使用済燃料を再処理してプルトニウムの再利用を行ったとしても元の天然ウランの1%程度しか利用できない。これに対し、CANDLE炉は再処理せずに40倍の利用ができることになる。但し、これだけ燃焼するためには材料の問題が発生する。また燃焼領域の移動速度は通常の出力密度で運転したとき、4cm/年という極めて遅いスピードになっている。このため優れた長寿命炉の設計が可能である。

 これらの性質から、2節で述べた持続性、安全、廃棄物、核拡散及び経済性の5つの課題に関してCANDLE炉はどのような性能を発揮するか以下に示すことにする。

(1) 持続性:燃料の有効利用ができる

 天然ウランや劣化ウランを使用し、その40%を利用できる。これは軽水炉の50倍以上の利用効率である10)

 現在の日本の原子力発電所は軽水炉を運転している。このシステムでは天然ウラン(U-235の割合0.7%)を濃縮しこの濃縮ウラン(U-235の割合3~5%)を燃料としている。この時、残りカスとして大量の劣化ウランが発生する。軽水炉を40年運転したとき発生する劣化ウランを使って、濃縮や再処理なしに、CANDLE炉は約2000年もの間同量のエネルギーを発生し続けるポテンシャルを有する11)。(図6)

図6. 軽水炉後のCANDLE炉利用シナリオ

(2) 安全:簡単で安全

 運転中に制御棒を間違って引き抜くような事故は起こりえない。  出力分布も原子炉特性も燃焼に伴って変化しないので、運転はとても簡単で、信頼性が高い。

 想定される事故に対してその応答が解析されているが、従来の高速炉に比べて飛躍的に安全な振る舞いをすることが判っている12)。  一般に高速炉は燃料が溶けて原子炉のどこかに集まった場合、再臨界事故(一般的に核分裂数が爆発的に多くなり極めて危険)になり易い。CANDLE炉は炉心に制御棒は無く、冷却材の割合も少ないので、再臨界事故は起こり難く、また起こったとしてもその規模は極めて小さくなる。

 取替新燃料は天然ウランか劣化ウランなので、臨界事故や核ジャックの心配がなく、輸送や貯蔵が安全で簡単である。

(3) 廃棄物:廃棄物の体積が少ない

 軽水炉の10倍燃焼するので、発生エネルギー当たりの廃棄物体積は1/10になる。また廃棄物中のマイナーアクチノイド(ウランやプルトニウム以外のアクチノイドで現在は放射性廃棄物として扱われている)の量も原子炉中に長く入れておくことで核分裂して少なくなる。

(4) 核拡散:核拡散抵抗性が極めて高い

 核拡散抵抗性を考えるとき、燃料サイクル全体を考える必要がある13)。この場合、最も問題となるのは濃縮施設や再処理施設であり、プルトニウム燃料の輸送である。また施設そのものだけでなく、濃縮や再処理の技術そのものが、核拡散で重要となる。CANDLE炉では濃縮ウランもプルトニウムも必要としないので、核拡散抵抗性が飛躍的に高くなる。

(5) 経済性

 いっきに40%燃焼した場合、一般に使用されている材料では持たない。材料を変更し、温度を下げることによりこの燃焼度を達成することも可能であるが、温度を下げることは原子炉の性能を落とすことに繋がることから、ここでは、被覆材への高速中性子の照射量が限界になる前に被覆材を交換する方法を採用する。この作業は高い放射線レベルで行なうことになるが、再処理と比べると液体を扱わないので、操作も単純で2次的な廃棄物も少なくなる。

 原子炉(の構造や出力分布)は簡単なので、運転管理維持費を低く抑えることができる。  燃料サイクル(ウラン採鉱から廃棄物の最終処分までの燃料の流れ、将来的には核分裂性物質が何度も原子炉に装荷されるのが理想と考えられたためこのような呼び名がついている)に関しても、極めて簡便になり、燃料サイクルコストが低くなる。

従来のCANDLE炉では炉心高さが大きかったので、経済性を損ねていたが、現在の設計では従来の設計と比べて、十分小さくなっている14,15)

 中性子を有効に利用するため、冷却材の割合を少なくしなければならないので、出力密度が小さくなる傾向があるが、半径方向の出力密度を一般的な高速炉より飛躍的に平坦化できるので、最終的にどのような結果となるかはこれからの研究次第である。

6.これから

 CANDLE炉は筆者のオリジナルのアイデアであるが、偶然にもその原理は筆者が提案する少し前に何人かの研究者によって発表されていた。その中には水爆の父と言われているテラー博士も含まれており、何人かの研究者が新奇な原子炉の提案に使っている。筆者の研究は実現可能な5つの課題を満足する革新的原子炉の提案ということで進めてきており、世界の多くのこの分野の専門家の注目を得る研究となってきている。今後は更に、工学的な検討を詰めて、CANDLE炉の実現に一歩でも近づきたいと考えている。

参考文献

  1. H. Sekimoto, Prog. Nucl. Energy, 47, 9-15(2005).
  2. H. Sekimoto, Prog. Nucl. Energy, 50, 71-74(2008).
  3. H. Sekimoto and K. Ryu, Trans. Amer. Nucl. Society, 82, 207-208 (2000).
  4. H. Sekimoto, et al., Nucl. Sci. Engin., 139, 306-317 (2001).
  5. Y. Ohoka and H. Sekimoto, Nucl. Engin. Design, 229, 15-23 (2004).
  6. Y. Ohoka, et al., Prog. Nucl. Energy, 47, 292-299(2005).
  7. H. Sekimoto and K. Ryu, Trans. Amer. Nucl. Society, 83, 45 (2000).
  8. H. Sekimoto and Y. Udagawa, J. Nucl. Sci. Technol., 43, 189-197 (2006)
  9. H Sekimoto and S. Miyashita, Energy Conv. Manag., 47, 2772-2780 (2006).
  10. H. Sekimoto, Prog. Nucl. Energy, 47, 91-98(2005).
  11. H. Sekimoto and A. Nagata, Prog. Nucl. Energy, 50, 109-113(2008).
  12. M. Yan and H. Sekimoto, Ann. Nucl. Energy, 35, 813-828(2008).
  13. N. Takaki and H. Sekimoto, Prog. Nucl. Energy, 50, 114-118(2008).
  14. M. Yan and H. Sekimoto, Ann. Nucl. Energy, 35, 18–36(2008).
  15. A. Nagata, et al., Ann. Nucl. Energy (to be published).

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