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遺伝子組み換えMUC1-MBP融合蛋白質の抗腫瘍活性に関する研究

2010年 7月26日

台桂香

台桂香(Tai Gui Xiang):
吉林大学白求恩医学院医学生物学実験センター長

1987年に中国医科大学を卒業。1993年から1999年にかけて日本に留学、1998年に京都大学内科学医学博士学位を取得、1998年から1999年に京都大学再生医科学研究所でポストドクター研究。1999年4月に優秀人材としてもとの白求恩医科大学教育部重点学科免疫学教育研究室に招かれる。現在は吉林大学博士指導教授、白求恩医学院医学生物学実験中心主任。
主にMUC1をターゲットとする腫瘍免疫学の研究に従事。抗腺がんMUC1-MBP融合蛋白質ワクチンの作製に成功、国家特許を取得。新たな腫瘍抗原抑制ポリペプチド、腫瘍細胞表面のMUC1蛋白質の新リガンド、新たな免疫調節剤を発見。国内外で発表した学術論文は70編以上、SCI検索収録論文は11編。

概要

目的:

 遺伝子組み換えMUC1-MBP融合蛋白質の抗腫瘍作用メカニズムに関する研究。方法:遺伝子組み換えMUC1-MBPの皮下注射により免疫を与えた健康なマウスを用い、エライザ法によってマウスの血清中のMUC1異好性抗体を調べ、LDH法によりマウスの抗MUC1異好性、CTLキラー活性、NK細胞活性を測定した。マクロファージによるCRBC細胞の貪食試験を採用し、マクロファージ活性を測定した。マウスのルイス肺がん転移瘤モデル、ヒト乳癌のマウス皮下移植モデル、ヒトMUC1を安定的にトランスフェクションしたB16メラノーマモデルを通じて、遺伝子組み換えMUC1-MBP融合蛋白質が免疫誘導する抗腫瘍作用を観察した。結果:MUC1-MBP免疫は低力価MUC1異好性抗体の発生を誘導するだけでなく、さらに異好性CTLキラー活性を発生させると同時に、NK細胞とマクロファージの活性化を誘導した。MUC1-MBP免疫のルイス肺がん転移瘤の成長に対する抑制率は94.4%、ヒト乳がんのマウス皮下移植瘤の成長に対する抑制率は81.2%、ヒトMUC1を安定的にトランスフェクションしたB16メラノーマ瘤に対する抑制率は87.5%であった。MUC1をトランスフェクションしていないB16では明らかな抑制が見られなかった。結論:MUC1-MBP免疫は腫瘍細胞の成長を顕著に抑制し、その誘導する異好性免疫応答と非異好性免疫応答は、いずれもその中で作用を発揮し、特に異好性細胞免疫がより重要な役割を果たす。

[キーワード] MUC1-MBP 融合蛋白質、CTL 活性、腫瘍ワクチン

 MUC1はムチン蛋白質ファミリーの重要なメンバーであり、正常な腺窩上皮細胞とその発生源である乳がん、肺がん、卵巣がん、前立腺がん、すい臓がん等腺癌の細胞表面に存在する。MUC1はコアポリペプチド(コアペプチド)と糖側鎖により構成される。そのコアペプチド細胞の外側には20個のアミノ酸(SAPDTRPAPGSTAPPAHGVT)からなる繰り返し配列多型(Variable numbers tandem repeats, VNTRs)が多数含まれる。ヒトのVNTRsは20から125個と人により異なる。正常組織のMUC1は腫瘍組織と異なり、前者は腺窩上皮細胞の分泌極に分布して免疫細胞とは隔離しており、糖鎖結合が豊富である。しかし後者は広範囲に分布し、がん細胞表面に異常に多くを発現して、糖鎖結合は不完全である。このため正常な条件下で隠れているタグが露出され、免疫細胞による攻撃のターゲットとなる[1,2]。研究により、MUC1コアペプチドのPDTRPタグはMUC1抗体に識別されるだけでなく、CTL (Cytotoxitic T lymphocyte)細胞にも識別されて殺傷され、なおかつMHCの制限を受けないことが分かっている[3]。MUC1はこのような特徴をもつことから、理想的な抗腫瘍ターゲット分子となっている。近年国内外で研究開発されている経口ポリオワクチン、DNAワクチン、ポリペプチド・蛋白質ワクチン、樹状細胞ワクチンなどMUC1を基礎とするワクチンは、すでに一部が第III相臨床実験段階に入っている[4,5]。多くのワクチン研究で、ポリペプチド・蛋白質ワクチンには優れた応用前途があることが発見されている。しかし蛋白質ワクチンが直面する主な課題として、免疫原性が弱く、細胞の免疫応答を誘導しにくいなどの欠点がある。したがって、ワクチンの免疫原性をいかに向上させるかが、腫瘍ワクチンの研究によって解決していかなければならない現在の問題である。

 マルトース結合蛋白質(Maltose binding protein, MBP)は、大腸菌malE遺伝子によるエンコードの産物であり、多種の蛋白質と融合することができ蛋白質の純化に役立つ。ある学者は、MBPが免疫応答を促進してTh1細胞へと発展することを発見している[6]。このことから、私たち研究班ではMUC1の繰り返し配列多型をpMAL-p2原核発現ベクターに挿入し、pMAL-MUC1遺伝子組み換えプラスミドを組み立てて、MUC1-MBP融合蛋白質を安定的に発現する菌株を篩い分けた。そしてMUC1-MBP融合蛋白質の純化工法を構築してMUC1-MBP融合蛋白質を作製した[7]。本研究ではMUC1-MBP蛋白質の抗腫瘍メカニズムを解明するために、MUC1-MBP融合蛋白質の免疫賦活活性を系統的に分析し、3種類の動物モデルを採用してMUC1-MBP融合蛋白質の抗腫瘍作用について研究した。本研究はヒトの腫瘍ワクチンをさらに開発していくための実験的基礎となっている。

1.材料と方法

1.1 主な試薬、細胞、プラスミド

 新生仔牛血清、RPIM-1640、IMDM細胞培養基はアメリカGibico社から購入した。マウスリンパ細胞分離液は達科為社から購入した。BCGは上海生物製品所から購入した。マウスの抗ヒトMUC1モノクローナル抗体(GP1.4)はイギリスThermo Scientific社から購入した。ウサギの抗MBPモノクローナル抗体は、New England BioLabsから購入した。CytoToX96非放射性細胞毒性分析試薬キット、プラスミド抽出試薬キットはPromega社から購入した。繰り返し配列多型(SAPDTRPAPGSTAPPAHGV)をもつMUC1ポリペプチドは、上海吉尓生化有限公司が合成したもので、純度は98%である。マウスリンパ瘤YAC-1細胞、マウスルイス肺がん細胞LLC1、ヒト乳がん細胞MCF-7、マウスメラノーマB16細胞はATCCから購入した。pcDNA3-MUC1(繰り返し配列多型22個を含むヒトMUC1cDNAの全長)を安定的にトランスフェクションしたB16細胞(B16-MUC1)と、pcDNA3を安定的にトランスフェクションしたB16細胞(B16-neo)は本研究班が組み立てた。MUC1の繰り返し配列多型7個を含むDNA部分の遺伝子組み換えプラスミドpMAL-MUC1は本研究班が組み立てた。

1.2 遺伝子組み換えMUC1-MBP融合蛋白質とMBPの作製

 pMAL-MUC1又はpMAL-p2に大腸菌DH5αをトランスフェクションし、IPTG0.3mMにより4~5時間誘導した後、菌体を収集し、上澄みを超音波破砕し分離する。アミロースレジン親和性クロマトグラフィーを採用してMUC1-MBPとMBPを純化し、SDS-PAGEにより鑑定する。さらにMUC1と抗MBPモノクローナル抗体を採用し、ウェスタンブロット法によって分析する。

1.3 マウス免疫

 18~20gの雌性C57BL/6マウス又はICRマウス(吉林大学べチューン医学院動物室提供)をそれぞれ無作為にPBSグループ、MUC1-MBPグループ、MBPグループに分け、各グループは5~6匹とする。MUC1-MBP又はMBP0.02~0.05mg/kgを頚背部皮下の複数個所に注射し、両側腹鼠径部に皮下注射する。注射は1週間に1回で、合計3回免疫を与えるとともに、各マウスにBCG1~3mgを補助薬とする。

1.4 MUC1異好性抗体のエライザ測定

 C57BL/6マウスに対する3回目の免疫の後4日目に瞼静脈から採血し、上澄みを分離してエライザ法によりMUC1抗体の効果を測定する。

1.5 異好性CTLキラー活性の測定

 最後の免疫の後4日目にマウスの脾臓を無菌採取し、脾臓細胞懸濁液を作製する。リンパ細胞を分離して効果細胞とし、B16-neoとB16-MUC1細胞をターゲット細胞とする。実験では同時に5つの特別コントロールグループを設ける。各グループには3組の孔を設け、ターゲット細胞自発分解はターゲット細胞+培養基液、ターゲット細胞最大放出はターゲット細胞+分解溶液、効果細胞自発放出は、効果細胞+培養基液とする。体積コントロールグループはIMDM培養基+分解溶液とし、培養基コントロールは培養基とする。実験ではE:T比50:1、25:1、12.5:1で96孔オリフィス板に入れ、MUC1ポリペプチド(最終濃度20μg/ml)とIL-2(最終濃度200U/ml)を含む10%新生仔牛血清IMDMの培養基内の、37℃の5%CO2培養器中で3日間培養する。半分量の液体を1回交換し、続けてIL-2(最終濃度200U/ml)とMUC1合成ポリペプチド(最終濃度20μg/ml)で5日目まで刺激する。上澄みを収集する45分前に、ターゲット細胞の最大放出孔まで分解溶液を加える。CytoToX96非放射性細胞毒性分析法により、説明書のとおりにLDH放出を測定し、マイクロプレートリーダーで490nmの吸光度値を測定する。

 異好性殺傷率の計算方法:異好性CTLの殺傷率(%)=(実験グループの効果細胞の放出―効果細胞の自発放出―ターゲット細胞の自発放出)/(ターゲット細胞の最大放出―ターゲット細胞の自発放出)×100%

1.6 NK細胞のキラー活性

 最後の免疫の後4日目にマウスの脾臓を無菌採取し、脾臓細胞懸濁液を作製する。リンパ細胞を採用しリンパ細胞を分離して効果細胞とし、YAC-1細胞をターゲット細胞とする。ターゲット細胞を100:1、50:1、25:1の比率でそれぞれ96孔オリフィス板に入れ、10%新生仔牛血清IMDMの培養基内の、37℃の5%CO2培養器中で4~6時間培養する。上澄みを収集し測定方法は1.5と同じとする。

1.7 マウス腹腔マクロファージによるCRBC貪食試験

 最後の免疫の後4日目にマウスの腹腔に2%濃厚CRBC500μlを注射する。30分後に腹腔のマクロファージを収集してライト・ギムザ染色し、マクロファージによるCRBCの貪食情況を観察する。計算方法は、貪食パーセンテージ(PR)=CRBCを貪食したマクロファージの数/マクロファージ総数×100%、貪食指数(PI)=貪食されたCRBCの数/マクロファージ総数とする。

1.8 マウスのルイス肺がん転移瘤モデル

 C57BL/6マウス15匹を無作為に3グループに分け、PBS陰性コントロールグループ、遺伝子組み換えMUC1-MBPグループ、MBPグループとする。マウスに免疫を与え、方法は1.3と同様とする。3回目の免疫の後4日目にLLC1細胞2×106個を尾静脈注射する。28日後にマウスを屠殺して4倍の拡大鏡で肺表面の腫瘍結節数を数える。解剖により双肺を取り出してホルマリン固定し、通常の組織切片をした後にHE染色し、顕微鏡で観察する。肺転移瘤抑制率(%)=(コントロールグループの肺転移瘤結節平均数-実験グループの肺転移瘤結節平均数)/コントロールグループの肺転移瘤結節平均数×100%とする。

1.9 ICRマウスの皮下ヒト乳がん動物モデル

 ICRマウス18匹を無作為に3グループに分け、PBSグループ、MUC1-MBPグループ、MBPグループとし、各グループはマウス6匹とする。マウスに免疫を与え、方法は1.4と同様とする。免疫の21日後に5GyのX線をマウスに照射し、4時間後にICRマウスの背部皮下に1匹あたり3×106個のMCF-7細胞を接種する。2日目に免疫抑制剤FTY720のマウスの胃への注入を始め、4~6日間続ける。腫瘍の大きさを定期的に測り、腫瘍細胞注射の21日後にマウスを屠殺して腫瘍を剥離し、HE染色した後に形態学的変化を顕微鏡で観察する。

1.10 マウスのB16メラノーマモデル

 マウスに免疫を与え、方法は1.3と同じとする。最後の免疫の後4日目に、マウスの右腋下にB16-MUC1又はB16-neo細胞を1匹あたり2×106個接種する。腫瘍細胞注射の21日後に腫瘍を剥離し、腫瘍の体積と重量を量る。

2.結果

2.1 純化された遺伝子組み換えMUC1-MBP融合蛋白質SDS-PAGEとウェスタンブロット法による鑑定

 pMAL-p2空プラスミドとMUC1繰り返し配列多型7個を含む遺伝子組み換えプラスミドpMAL-MUC1をDH5αに転化し、IPTG誘導により発現した。菌体を超音波破砕した後に上澄みをとって、アミロースレジン親和性クロマトグラフィーによりMUC1-MBPとMBPを純化した。図1のように、SDS-PAGE(ポリアクリルアミド電気泳動)では比較的純粋なMUC1-MBPとMBPの蛋白質バンドが現れ、それぞれ所期の分子量62kDa、42kDaと一致した。抗MBPとMUC1モノクローナル抗体を採用し、ウェスタンブロット法により鑑定した結果は図2のとおりである。MBP抗体の使用時には相応する分子量の位置に現像バンドが2本現れ、1本はMUC1-MBP融合蛋白質であり、もう1本はMBPであった。MUC1抗体の使用時には相応する分子量の位置に現像バンド1本現れ、これはMUC1-MBP融合蛋白質であった。この結果から、純化された蛋白質はMUC1-MBP融合蛋白質とMBPであることが証明された。

図1 SDS-PAGEにより鑑定され純化されたMUC1-MBP融合蛋白質とMBP

図1 SDS-PAGEにより鑑定され純化されたMUC1-MBP融合蛋白質とMBP

図2 ウェスタンブロット法により鑑定され純化されたMUC1-MBPとMBP

図2 ウェスタンブロット法により鑑定され純化されたMUC1-MBPとMBP

A:抗MBPモノクローナル抗体使用時の鑑定結果、B:抗MUC1モノクローナル抗体使用時の鑑定結果(Lane1:MUC1-MBP、Lane2:MBP)

2.2 遺伝子組み換えMUC1-MBP融合蛋白質によるMUC1異好性抗体生成の免疫誘導

 MUC1-MBP免疫が体液の免疫応答を誘導するかどうかを研究するため、私たちは最後の免疫の後4日目に瞼静脈から採血し、血清を分離した。エライザ法を採用して、マウス血清中の異好性MUC1抗体の生成について調べた。表1のとおり、MUC1異好性抗体の力価はMUC1-MBPグループでは320~2560、それ以外のグループではMUC1異好性抗体が見られなかった。この結果から、MUC1-MBPはMUC1異好性体液の免疫応答を誘導できることが分かった。

表1 MUC1異好性抗体力価の間接エライザ測定の結果
マウス(No) PBSグループ MBPグループ MUC1-MBPグループ
1 2560
2 1280
3 640
4 640
5 320

2.4 遺伝子組み換えMUC1-MBP融合蛋白質による異好性CTL活性化の免疫誘導

 最後の免疫の後4日目に、脾臓のリンパ細胞を分離して効果細胞(E)とし、MUC1を発現しないB16-neo細胞とMUC1を発現するB16-MUC1細胞をターゲット細胞(T)として、MUC1ポリペプチドとIL-2で体外に6日間刺激を与えた後、E:T比50:1、25:1、12.5:1で効果細胞とターゲット細胞を混合し、乳酸脱水素酵素(LDH)放出法でMUC1の異好性CTLキラー活性を測定した。結果は図4のとおりで、MUC1-MBPグループのCTLではB16-MUC1細胞に対するキラー活性が明らかにPBSグループより高く(p<0.05)、なおかつE:T比が高くなるにつれて高まっている。しかしB16-neo細胞に対しては殺傷作用がなかった(p>0.05)。MBPグループとPBSグループでは、2つのターゲット細胞のいずれに対しても殺傷作用がなかった。このことから、MUC1-MBP免疫を用いることでMUC1の異好性CTLキラー活性の発生を誘導することができ、MBP免疫は異好性CTLの活性化を誘導することができないと分かった。

図4 LDH法によるMUC1の異好性CTLキラー活性の測定

図4 LDH法によるMUC1の異好性CTLキラー活性の測定

E:効果細胞、T:ターゲット細胞、A:ターゲット細胞はB16-MUC1、B:ターゲット細胞はB16-neo

2.5遺伝子組み換えMUC1-MBP融合蛋白質によるNK細胞活性の免疫誘導

 NK細胞は非異好性免疫効果細胞として、早期に抗腫瘍作用をもつ。このことから私たちはMUC1-MBP融合蛋白質がNK細胞活性化を誘導するかどうかを調べた。免疫マウスの脾臓リンパ細胞とNK細胞に敏感なYAC-1細胞を分離し、5時間培養した後に、LDH法によりNK細胞キラー活性を測定した。図5のとおり、E:T比が100:1のとき、MUC1-MBPとMBPグループではYAC-1細胞に対するNK細胞のキラー活性が、PBSグループより高くなり(p<0.05)、MUC1-MBPとMBPはともにNK細胞を活性化することができると分かった。

図5 LDH法によるマウスNK細胞のYAC-1細胞に対するキラー活性の測定

図5 LDH法によるマウスNK細胞のYAC-1細胞に対するキラー活性の測定

E:T
E:効果細胞、T:ターゲット細胞

2.6 遺伝子組み換えMUC1-MBP融合蛋白質によるマクロファージ活性化の免疫誘導

免疫誘導

 マクロファージ活性化の重要な機能の一つは、異物性抗原物質の貪食である。MUC1-MBPでマウスに免疫を与えた後、マウス腹腔マクロファージの体内貪食機能に与える影響を、CRBCの貪食実験によって測定した。ライト・ギムザ染色をした後、貪食指数と貪食率からマクロファージの活性化レベルを評価した。結果は表2のとおりで、PBSグループと比べMBPグループとMUC1-MBPグループの貪食指数と貪食率にはともに顕著な増加があった(p<0.05)。この結果から、MUC1-MBPとMBPにはともに、マクロファージの活性化を促進する能力があるということが分かった。

表2 遺伝子組み換えMUC1-MBP蛋白質ワクチンによる
マウス腹腔マクロファージの貪食能力増強
グループ別 貪食率(%) 貪食指数
PBS
MBP
MUC1-MBP
10.2 ± 4.9
21.7 ± 5.3*
23.0 ± 5.8*
0.17 ± 0.06
0.27 ± 0.05*
0.31 ± 0.08*
注:*PBSグループとの比較でP<0.05

2.7 遺伝子組み換えMUC1-MBP融合蛋白質が免疫誘導する抗腫瘍作用

 マウスのルイス肺がん細胞を利用して腫瘍モデルを組み立て、マウスにルイス肺がん細胞2×106個を尾静脈注射して、遺伝子組み換えMUC1-MBPの抗腫瘍作用を観察した。表3のとおり、コントロールグループのマウスにはいずれも肺転移(5/5)が見られ、腫瘍結節は多くて大きく、計54個あった。MBPグループのうち20%(2/5)のマウスでは肺に腫瘍結節の形成がなかったが、それ以外のマウスでは計26個の腫瘍結節が形成され、腫瘍成長の抑制率は51.9%であった。遺伝子組み換えMUC1-MBPワクチングループのうち60%(3/5)のマウスの肺部には腫瘍結節が形成されなかったが、それ以外のマウスでは計3個の腫瘍結節が形成され、ルイス肺がんの抑制率は94.4%に達した。このことから、遺伝子組み換えMUC1-MBPワクチンには肺部転移瘤の成長に対する顕著な抑制作用があり、MBPにも腫瘍の成長を抑制する働きがあることが分かった。

表3 遺伝子組み換えMUC1-MBPによるルイス肺がん転移瘤成長の免疫抑制
マウス(No) 肺部腫瘍結節(n)
PBSコントロールグループ MBPグループ MUC1-MBPグループ
1 3 9 1
2 22 0 0
3 10 11 0
4 7 0 0
5 12 6 2
合計 54 26 3
腫瘍発生率(%) 100 80 40
腫瘍抑制率(%) 0 51.9 94.4

 健康なICRマウスを用いてさらに実験した。まず5GyのX線を照射してマウスの免疫機能を抑制し、その後マウスにヒト乳がんMCF-7細胞を皮下注射するとともに、1週間以内にFTY-720を内服させて体内の免疫抑制状態を保った。マウス皮下ヒト乳がん移植瘤モデルを作って、育った腫瘍はすべて乳がん細胞の典型的な形態をもつことをHE染色により証明し、このモデルを利用して遺伝子組み換えMUC1-MBPの作用を観察した。図6のとおり、腫瘍細胞注射の14日後に遺伝子組み換えMUC1-MBPグループの腫瘍は明らかに減少し、しかも腫瘍ができていないものが1匹いた。PBSグループではすべてのマウスに腫瘍ができ、さらに体積が比較的大きかった。遺伝子組み換えMUC1-MBPの乳がん移植瘤に対する抑制率は81.2%であり、MBP単独でも腫瘍の成長を抑制する作用があった。このことから、遺伝子組み換えMUC1-MBPワクチンにはヒト乳がんの成長を抑制する顕著な作用があること、MBPにはヒト乳がんの成長を抑制する一定の作用があり、共有結合蛋白質MUC1の抗腫瘍作用を著しく増強したことが分かった。

図6 遺伝子組み換えMUC1-MBPワクチンの乳がん成長抑制作用

図6 遺伝子組み換えMUC1-MBPワクチンの乳がん成長抑制作用

 遺伝子組み換えMUC1-MBPワクチンが異好性免疫誘導する抗腫瘍作用を観察するため、私たちは安定的にMUC1を発現するマウスメラノーマB16細胞(B16-MUC1)とMUC1を発現しないB16細胞(B16-neo)を利用してマウス腫瘍モデルを組み立てた。B16-MUC1腫瘍モデルの結果によると、腫瘍細胞接種の21日後にマウスを屠殺し、腫瘍を剥離すると、MUC1-MBPグループの腫瘍体積と重量は、コントロールグループと比べて明らかに減少し(p<0.05)、腫瘍抑制率は87.5%であった。MBPグループの腫瘍体積はコントロールグループより小さいものの、統計学的な差異はなかった。B16-neo腫瘍モデルの結果では、腫瘍細胞接種の17日後にマウスを屠殺して腫瘍を剥離すると、各グループの腫瘍体積と重量はコントロールグループと比べていずれも明らかな差異があった(図7)。これらの結果から、MUC1-MBPが誘導する異好性免疫は抗腫瘍において重要な作用を発揮することが分かった。

図7 MUC1を発現するB16メラノーマの成長に対するMUC1-MBPの抑制作

図7 MUC1を発現するB16メラノーマの成長に対するMUC1-MBPの抑制作用

3.検討

 MUC1をターゲットとする腫瘍ワクチン研究によれば、単純なMUC1ポリペプチドは細胞免疫応答を誘導することができず、GST、KLHなど他の蛋白質と融合した後にはじめて体液免疫応答を誘導することができる[8]。本研究ではMUC1蛋白質ワクチンの免疫原性を高めるために、MUC1繰り返し配列多型7個をMBPと共有結合させて、有効な抗腫瘍免疫を誘導することを目指した。私たちはMUC1-MBP融合蛋白質の発現ベクターを組み立て[7]、さらにMUC1-MBPの純化工法を組み立てて、SDS-PAGEとウェスタンブロット法により純度の高いMUC1-MBPを獲得したことを証明した。MUC1-MBPで免疫されたマウスはMUC1異好性抗体を発生させることができるが、抗体の力価は高くない。LDH放出法による異好性CTLキラー活性の測定結果によれば、MUC1-MBPは異好性CTLキラー活性を免疫誘導したことが分かった。さらにNK細胞活性とマクロファージの貪食活性を測定した結果から、MBPとMUC1-MBPはともにNK細胞とマクロファージを活性化できることが分かり、MUC1-MBPによるNK細胞とマクロファージの活性化はMBPが作用した結果であることが示された。MBPは大腸菌malE遺伝子コードの産物として蛋白質発現純化システムに用いられることが多く、MBPには生物学的活性はないとかつては一般的に考えられていた。しかし最近の研究では、MBPはTLR4を通じてDC活性を誘導できることが発見されている[9]。本研究班はまたMBPが非異好性Th1活性を直接刺激することができると発見している[10]。CTL活性化には活性化したTh1細胞による補助が必要なため、これらの研究はMUC1とMBPの共有結合によるCTL活性化の誘導に対して理論的根拠を提供している。この研究結果ではさらに、MBPにはTh1応答に向かって発達する作用があり、MUC1の理想的カップリング蛋白質であることも提示されている。

 私たちは3種の腫瘍モデルを組み立ててMUC1-MBPの抗腫瘍作用を研究した。マウスのルイス肺がん細胞を採用して組み立てたマウスの肺転移瘤モデルの研究結果から、MUC1-MBP免疫は肺転移瘤に対して顕著な抑制作用があり、その抑制率は94.4%に達すること、またMBP免疫も肺転移瘤に対して抑制作用があり抑制率は51.9%であることが示されている。MUC1をターゲットとする腫瘍ワクチンについて研究する主旨は、主動的異好性免疫、特にMUC1の異好性CTLのキラー活性を誘導し、MUC1を発現する腫瘍細胞を殺傷することにある。しかしマウス由来のルイス肺がん細胞は、マウスMuc1を発現するもののヒトMUC1との同族性は約40%しかない[11]。MUC1-MBP免疫がマウス肺転移瘤の成長を強く抑制するのは、MUC1-MBPが誘導する非異好性免疫細胞の活性化と関係があり、さらには交差反応とも関係がある可能性がある。ヒト乳がんのマウス移植瘤モデルを組み立てて観察した結果、MUC1-MBP免疫はヒト乳がん移植瘤の成長を顕著に抑制して抑制率は81.2%に達し、MBPもヒト乳がん移植瘤の成長を抑制できることが分かった。MUC1-MBPが誘導する異好性免疫はヒト乳がん細胞を殺傷することができるが、このことは一つにはMUC1-MBPが誘導する非異好性殺傷と関係がある。そしてもう一つにはMUC1繰り返し配列多型のPDTRP配列はT細胞を直接活性化することができ、MHCの制限を受けないため[3]、MUC1-MBPの誘導する活性化CTLが乳がん細胞を直接殺傷することができる。これらの2つのモデルはともに、MUC1-MBPが誘導する非異好性免疫の抗腫瘍における作用を証明できるものの、異好性免疫応答の作用を必ずしも十分に実証することはできない。異好性免疫応答の抗腫瘍における作用を観察するために、私たちは安定的にMUC1を発現するメラノーマB16-MUC1とMUC1を発現しないB16-neoを利用して腫瘍モデルを組み立てた。その観察の結果、MUC1-MBP免疫はB16-MUC1細胞の成長を顕著に抑制することができるだけで、抑制率は87.5%だが、B16-neoに対しては明らかな抑制作用はなかった。このことから、異好性免疫応答、特に細胞免疫応答が抗腫瘍において重要な作用を果たすことが分かった。

 本研究結果からは、MUC1はMBPと共有結合した後にMUC1の免疫原性を顕著に増強することができ、MUC1-MBP免疫は異好性細胞免疫と体液免疫を誘導できるだけでなく、さらに非異好性免疫も誘導することができると分かった。3種の腫瘍モデルの実験結果では、MUC1-MBP免疫が腫瘍細胞の成長を顕著に抑制することが示されており、MUC1-MBPが誘導する異好性免疫応答と非異好性免疫応答はともに抗腫瘍において作用を発揮する、特に異好性細胞免疫がより重要な作用を発揮することが分かった。

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  11. 张吉凤, 台桂香, 朱迅. 鼠与人MUC1分子同源性位点的分析. 免疫学杂志. 2003; 19(3):83-85.

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