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中国科学10大進展について

2017年 6月 19日  科学技術部国際合作司

 Science Portal Chinaでは、中国科学技術部が発表した「2016年度中国科学10大進展」 について速報したが、本稿では今回選ばれた10大進展についてそれぞれ簡単に説明する。

 (中国総合研究交流センター編集部)

中国科学技術部、2016年度中国科学10大進展を発表

 2017年2月20日、中国科学技術部は2016年度中国科学10大進展を発表した。「中国科学10大進展」の選考活動は科学技術部ハイテク研究発展センターによって実施され、これまでに12回行われている。その目的は、中国の基礎研究における重大な進展を広く周知させ、市民の理解や注目、支援を促し、科学技術に対する良好な意識を全社会に築くことにある。2016年度の選考業務は、『中国基礎科学』、『科技導報』、『中国科学院院刊』、『中国科学基金』、『科学通報』の学術雑誌5誌の編集部から推薦を受けた科学研究278件を対象に実施され、推薦、予選、最終選考の三段階を経て、最終的に選出された研究成果10件が2016年度中国科学10大進展として発表された。10大進展の概要は以下の通り。

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1.二酸化炭素を高効率かつクリーンな方法で液体燃料に転化させる新型コバルト電極触媒の開発

 中国科学技術大学の謝毅・孫永福研究チームは、金属と金属酸化物における2種類の異なる触媒活性部位による作用を評価するために、4原子層のコバルト金属層とコバルト金属/酸化コバルトの混成層を作製した。この結果、研究チームは、低過電圧の際は、バルク材料表面のコバルト原子に比べて、原子薄層表面のコバルト原子のほうがギ酸塩生成においてより高い固有活性と選択制を持つことを発見した。また、一部の酸化された原子層では固有活性がさらに高まり、わずか0.24ボルトの過電圧で、40時間以上にわたって10ミリアンペア/㎠という高い電流密度が実現され、かつ、そのギ酸塩選択性は90%近くになった。これは、金属または金属酸化物を利用した電極で、同じ条件下で得られた過去の研究成果を上回る。本研究成果は、高効率かつ安定的なCO2電解還元触媒の獲得について、研究者たちに再考を促すのに役立つ。本研究論文は、2016年1月7日発行の『ネイチャー』(Nature[529(7584):68-71])に掲載された。この研究に関して、カリフォルニア工科大学のKarthish Manthiramは、「これは科学における重大なブレイクスルーだ。商業化には長い時間を要するが、現在の知見はどの視点から見てもプラスの影響がある」と評価する。

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コバルト/酸化コバルト混成薄層構造を用いたCO2電気還元による液体燃料01の合成

2. 石炭由来オレフィンの新たな速成法の開発

 中国科学院大連化学物理研究所の包信和・潘秀蓮研究チームは、ナノ触媒の基本原理を手がかりに、遷移金属酸化物とメソポーラスモレキュラーシーブによる複合触媒を開発し、石炭合成ガス一段階合成法によるオレフィンの効率的な生産に成功した。この際、C2からC4の低炭素オレフィンのプロセス選択性はフィッシャー・トロプシュ法の限界を突破し、一気に80%を超えた。また、反応プロセスにおける水分子の関与を完全に回避している。この研究では、反応活性と生成物選択性のそれぞれを制御する2つの触媒活性部位の効果的な分離をナノスケールで実現しており、酸化物触媒表面で生成された炭化水素中間体にモレキュラーシーブのナノポーラスで限定的なカップリング反応を生じさせることによって、モレキュラーシーブの構造による目標生成物の制御可能な調整に成功している。本研究論文は、2016年3月4日発行の『サイエンス』(Science [351(6277):1065-1068])に掲載された。同号の『サイエンス』は「驚くべき選択性」をテーマに専門家の評論や展望を発表しており、「本研究は原理的なブレイクスルーであり、将来的に大きな工業競争力をもたらすだろう」と称賛している。

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石炭由来オレフィンの新たな速成法の開発

3.水稲の収量関連形質の雑種強勢に関する分子遺伝学的メカニズムを解明

 中国科学院上海植物生理生態研究所の韓斌・黄学輝研究チームは中国水稲研究所の楊什華氏との協力により、17組の代表的な水稲交雑種のF2世代10074系統に対して遺伝子型と表現型の分析を行った。この結果、彼らは系統ごとに水稲収量において雑種強勢と相関性のある遺伝子座を鑑定し、現在の水稲交雑種を育種システムの違いに応じて3つのグループに分類した。また、すべての水稲交雑種に雑種強勢と相関性のある全く同じ遺伝子座があるわけではないが、同じグループ内では少量ではあるが母親由来の同じ遺伝子座があり、そのメカニズムは完全に解明されていないものの、大部分の交雑種における収量雑種強勢に重要な貢献を果たしていることがわかった。この発見は、効率的な交雑育種に役立ち、高収量で優良かつストレス耐性の高い交雑種のスピーディーな獲得に資するだろう。本研究論文のフルペーパーは2016年9月29日発行の『ネイチャー』(Nature[537(7622):629-633])に掲載された。

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交雑種の水稲

4.コレステロールの代謝制御に基づく腫瘍の新たな免疫学的療法の発表

 中国科学院上海生物化学・細胞生物学研究所の許琛琦・李伯良研究チームと協力メンバーは、T細胞による腫瘍免疫応答をあらゆる角度から研究した。彼らの考えでは、T細胞の「代謝チェックポイント」を制御することでその代謝の状態を変え、より強力な腫瘍抵抗機能を獲得できる。彼らは、アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ1(ACAT1)が腫瘍の免疫応答を制御する代謝チェックポイントであることを突き止め、その活性を抑制すればCD8+T細胞による腫瘍殺傷能力を強化できるとした。彼らの研究は、腫瘍の免疫学的療法において新たな分野を開拓するもので、代謝制御の重要な役割を証明した。また、ACAT1という新たな治療ターゲットを発見し、ACAT1の低分子阻害剤による臨床応用の可能性を広げ、腫瘍の免疫学的療法に新たな視座と手法を提供した。本研究論文は2016年3月31日発行の『ネイチャー』(Nature[531(7596):651-655])に掲載された。『ネイチャー』で発表された専門家の評価によれば、「本研究成果によって、抗腫瘤および抗ウイルスの新規医薬品が開発されるだろう」。また、学術誌「セル」(Cell)にも専門家の評価が掲載されており、「本研究は、anti-PD-1で治療効果がなく、または抵抗を示す患者に新たな希望となる」と評価されている。

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コレステロールの代謝制御に基づく腫瘍の免疫学的療法

5. RNAスプライシングのキーとなる分子メカニズムの解明

 清華大学生命科学学院の施一公ラボラトリーは、酵母内在性タンパク質から性質の良いサンプルを抽出し、単粒子解析クライオ電子顕微鏡技術を利用して、3つの重要な活性状態下にあるスプライソソームの近原子分解能構造とスプライソソームの構成プロセスにおける1つの重要な化合物の高分解能構造を解明した。これら4つの研究成果のフルペーパーは、2016年発行の『サイエンス』に相次いで掲載されている(Science 351:466-475;353:895-904;353:904-911;aak9979)。この4つの高分解能構造によって代表されるスプライソソームの状態によって、RNAスプライジングの重要な触媒プロセスは基本的にカバーされており、スプライソソームによるRNAスプライジングのメカニズムが分子レベルから解明され、RNAスプライジングという基礎研究分野の発展が大いに推進された。

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施一公研究グループによって解明されたスプライソソームの構造

6.精子RNAを記憶キャリアとした後天性形質の隔世遺伝に関する発見

 中国科学院動物研究所の周琪・段恩奎研究チームは中国科学院上海栄養科学研究所の翟琦巍研究員と協力し、高脂肪食(HFD)マウスを利用した結果、tRNAの5'リーダー配列に由来し、サイズが30から34ntの範囲にあるmiRNA(tsRNAs)では、高脂肪食下でRNA表現型とRNA修飾に明らかな変化が生じることを発見した。高脂肪食マウスの精子中のtsRNAs断片を分離して正常な受精卵に注射すると、F1世代の子マウスに代謝性疾患が生じる。また、高脂肪食マウスの精子中のtsRNAsが受精卵に注入されると、初期胚と後代マウスのランゲルハンス島代謝経路の遺伝子に顕著な変異が生じる。この研究は精子のRNAという視点からは初めて、後天性形質の隔世遺伝現象について新たな視座を提供するものである。精子tsRNAsは新しい父性効果遺伝因子であり、後天性代謝疾患の隔世遺伝を導き得ることを報告している。本研究論文は2016年1月22日発行の『サイエンス』(Science [351(6271):397-400])に掲載された。発表以降、本論文は幅広く引用され、高い評価を得ており、世界の大手メディアからの注目を集めている。

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後天性代謝疾患の世代を超えた伝達

7.世界初の安定的かつ制御可能な単分子スイッチの開発

 北京大学北京分子科学国家実験室の郭雪峰研究チームは、グラフェンを電極として、共有結合によって結合された安定的な単分子スイッチの作成方法を初めて開発し、単分子スイッチの作成方法と安定性という難題を解決した。そして、これをベースとして、彼らは同大学電子学部の徐洪起研究チーム、米国ペンシルベニア大学のAbraham Nitzanらと協力し、機能分子工学に基づき、ジアリールエテン分子とグラフェン電極間の強いカップリング作用という核心的な課題を克服した。この結果、光誘導と電磁誘導の2つのモデルによる可逆的な単分子光電子スイッチの開発に成功した。この研究によって、中国で世界初の安定的かつ制御可能な単分子電子スイッチが誕生した。グラフェン電極とジアリールエテン分子による安定的な炭素骨格と分子/電極間の強健な共有結合によって、これらの単分子スイッチは過去にない精度と安定性、再現性を獲得し、将来的には高度な集積による情報処理機器や分子コンピュータ、精密な分子診断技術において幅広い応用の可能性がある。本研究論文は2016年6月17日発行の『サイエンス』(Science[352(6292):1443-1445])に掲載された。同号の『サイエンス』に掲載された評論によれば、「この研究によって、物質に対するナノスケールでの精密な制御が解明された」。

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世界初の安定的かつ制御可能な単分子電子スイッチ

8.世界初の霊長類型自閉症モデルの構築

 中国科学院上海神経科学研究所の仇子竜研究チームは、同研究所の非人類・霊長類研究プラットフォームの孫強研究チームと協力して、ヒト自閉症ゲノムMECP2を持つ遺伝子組み換えサルのモデルを構築し、分子遺伝学と行動学の観点から分析したところ、MECP2型遺伝子組み換えサルには、ヒトの自閉症に近似したステレオタイプとも呼ばれる常同行動や社交障害が見られることが分かった。彼らは、霊長類に対する初の精巣の同種移植という方法によってサルの繁殖周期を短縮し、3年半でヒト自閉症ゲノムMECP2を持つ遺伝子組み換えサルの第2世代を獲得したところ、社交行為において親世代と同様の自閉症型表現型が見られた。これは、世界初の自閉症の人類以外でのモデルであり、自閉症の病理を研究し、可能性のある治療方法や干渉方法を探る上で重要な貢献を果たす。本研究論文は2016年2月4日発行の『ネイチャー』(Nature[530(7588):98-102])に掲載された。

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世界初の自閉症遺伝子組み換えサル

9.胚発生プロセスにおける重要なシグナル伝達経路のエピジェネティクスに基づく制御メカニズムの解明

 中国科学院上海生物化学・細胞生物学研究所の徐国良研究チームは米国ウィスコンシン大学の孫欣や北京大学の湯富酬らと協力し、生殖細胞特異的ノックアウトマウスを利用してTet3欠損胚を獲得した。形態発生学的特徴に対する一連の分析と遺伝機能相補性に対する分析の結果、TETの欠損による胚死亡のメカニズムが解明され、TETファミリーに属する三つの水酸化酵素は互いに機能相補性があり、介在するDNAのデメチル化とDNMTにより介在されるDNAメチル化は互いに拮抗し、Lefty-Nodalシグナル伝達経路の調節によって胚の原腸運動を制御していることがわかった。本研究では、発生生物学的分野において長期的かく乱作用のある基本的かつ重大な問題を出発点として、ヒト新生児における出生異常で可能性のあるメカニズムとその予防に着眼して、胚の発育過程において重要なシグナル伝達経路の表現遺伝子調節メカニズムを初めて系統的に解明し、発生生物学の基本原理に斬新な認識を提供した。本研究論文は2016年10月27日発行の『ネイチャー』(Nature[538:528-532])に掲載された。

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TETとDNMT3によるLefty-Nodalシグナル伝達経路の調節イメージ

10. 水の核量子効果を解明

 北京大学物理学院の王恩哥・江穎研究チームと協力メンバーは、関連の実験技術と理論的方法においてそれぞれブレイクスルーを果たした。すなわち、「針先増強による非弾性トンネル顕微鏡技術」を発展させて、単体の水分子における高分解能振動スペクトルを獲得し、かつ、これによって水素結合の強度を計測した。また、第一原理経路積分分子動力学法を開発し、電子の量子状態と原子核の量子状態に対する正確な描写を実現した。そして、これをベースとして、彼らは世界に先立って水素結合の量子成分を分析し、水の核量子効果を初めて原子レベルで解明した。研究結果によれば、水素結合の量子成分は室温の熱エネルギーをはるかに上回り、水素核の「非調和性のゼロ点振動」によって弱い水素結合は弱体化する一方で強い水素結合はより強化される。この物理的イメージは、さまざまな水素結合システムにおいてかなりの普遍性を持つ。この研究によって、「水素結合の量子成分は一体どれだけあるのか」という物質科学における基本問題に初めて定量的な答えが提供され、アカデミアで長く議論されてきた水素結合の量子学的本質が解明された。このため、本研究は水とその他の水素結合システムにおける多くの異常な特性の理解に資するだろう。本研究論文は2016年4月15日発行の『サイエンス』(Science[352(6283):321-325])に掲載された。本研究は査読者によって「水素結合の量子学的効果の研究における実験的傑作」と評価された。また、核量子効果の研究領域における権威とされるドイツのDominik Marx教授も、「この研究によって驚くべき成果が得られた」と語っている。

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水の核量子効果を解明

 (出典:科技日報、2017年2月21日)


本稿は「科技部発布2016年度中国科学十大進展」『中国科技通訊』2017.NO.05を科学技術部国際合作司の許可を得て転載したものである。


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