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ラクトバチルスの免疫調節と抗アレルギー作用の研究(その2)

2017年 6月16日

沈曦,李鳴,何苗,王舒悦,何方:四川大学華西公共衛生学院営養與食品衛生及毒性学系

石磊:四川大学華西医院営養科

齢南:河北一然生物科技有限公司

その1よりつづき)

2 結果

2.1 菌株の免疫調節作用の選別

2.1.1 マウスの体重と一般的状況

 結果は表1を参照。実験終了時、各グループのマウスの体重は有意差なしで、体重の増加も有意差はなかった。体重の増加はいずれも正で、各グループの菌株がマウスに毒性を持たないことが示された。実験中、マ ウスの成長状況は良好で、下痢などの不良な症状は示されず、中毒症状もなかった。6091菌株グループでは2匹が自然死した。

表1 菌株免疫調節実験終了時のマウスの体重と実験前後の体重の増加
Table 1 Body mass and body mass increase after immunomodulatory treatment in mice
Group n Body mass(g)
14d Δ14d-0d 28d Δ28d-0d

Blank control

12 27.05±2.18 2.00±1.64 27.46±2.12 2.7±1.35

LGG

12 26.46±1.47 1.66±1.84 28.38±2.28 3.22±1.59

LP45

12 26.17±1.95 1.49±0.97 28.54±2.88 3.23±1.19

La28

12 26.65±1.67 1.44±1.48 27.82±2.81 2.96±1.20

6091

10 26.70±2.21 1.10±1.11 27.43±1.69 3.23±1.52

2.1.2 マウスの免疫臓器指数

 結果は表2を参照。実験終了時、各グループのマウスの免疫臓器指数は有意差なしだった。

表2 マウスの免疫器官の臓器指数(mg/g)
Table 2 Immune organ index(IOI)of mice(mg/g)
Group n Spleen IOI at 14d Thymus IOI at 14d Spleen IOI at 28d Thymus IOI at 28d

Blank control

12 3.67±0.47 2.02±0.69 3.88±0.44 1.52±0.30

LGG

12 3.38±0.43 1.75±0.38 3.81±0.37 1.60±0.34

LP45

12 3.38±0.43 1.93±0.42 4.10±0.96 1.78±0.25

La28

12 3.38±0.44 1.70±0.34 3.96±0.49 1.53±0.40

6091

10 3.60±0.34 1.79±0.36 3.90±0.44 1.58±0.16

2.1.3 マウスの血清サイトカイン

 結果は表3を参照。14dと28dの際の各グループのマウスの血清中のIL-12とIFN-γはいずれも、キットの検出限界を下回り、検出されなかった。14dの際、L a28菌株グループの血清IL-6濃度は、ブランク対照群を下回り、有意差あり(P<0.05)となった。28dの際、La28菌株グループと6091菌株グループの血清IL-6濃度はブランク対照群を下回り、い ずれも有意差あり(P<0.05)となった。14dと28dの際、LGG菌株グループとLP45菌株グループの血清IL-6含有量は、ブランク対照群と比較して、いずれも有意差なしだった。

表3 マウスの血清サイトカイン濃度(pg/mL)
Table 3 Concentration of serum cytokines in mice(pg/mL)
*P<0.05,vs. blank control group at the same time point;N.D:Not detected
Group n 14d 28d
IL-6 IL-12 IFN-γ IL-6 IL-12 IFN-γ

Blank control

12 13.67±2.78 N.D N.D 15.09±0.78 N.D N.D

LGG

12 15.09±4.30 N.D N.D 16.41±6.25 N.D N.D

LP45

12 11.92±1.96 N.D N.D 14.45±2.65 N.D N.D

La28

12 9.82±1.38* N.D N.D 9.26±1.74* N.D N.D

6091

10 11.20±3.03 N.D N.D 9.97±0.59* N.D N.D

2.2 菌株の抗アレルギー作用の評価

2.2.1 マウスの体重と一般的状況

 結果は表4を参照。実験終了時、各グループのマウスの体重は有意差なしだったが、LP45菌株グループの体重の増加はブランク対照群より低く、有意差あり( P<0.05)となった。そ の他の各グループの体重の増加は有意差なしだった。体重の増加はいずれも正で、各グループの菌株がマウスに毒性を持たないことが示された。実験中、マウスの成長状況は良好で、下 痢などの不良な症状は示されず、O VA陽性対照群とLa28菌株グループではそれぞれ1匹が自然死した。

表4 菌株抗アレルギー実験終了時のマウスの体重と実験前後のマウスの体重の増加(g)
Table 4 Body mass and body mass increase after anti-allergy treatment in mice (g)
*P<0.05,vs.blank control group
Group n Before experiment After experiment Body Mass increase

Blank conrol

12 20.93±0.83 25.93±1.49 5.01±0.90

OVA positive control

11 21.00±1.01 25.92±1.97 4.77±1.36

LP45

12 21.28±0.84 25.57±1.13 4.29±0.84*

La28

11 21.51±0.83 26.12±1.32 4.59±0.84

2.2.2 マウスの血清総IgE濃度

 結果は表5を参照。実験前のマウスの血清総IgE水準はいずれも比較的低いか未検出だった。実験終了時、OVA陽性対照群と各菌株グループの血清総IgEはブランク対照群を上回り、有意差あり( P<0.05)となった。La28菌株グループの血清総IgEはOVA陽性対照群とLP45菌株グループを下回り、いずれも有意差あり(P<0.05)となった。L P45菌株グループとOVA陽性対照群を比較すると、血清総IgE水準は有意差なしだった。

表5 菌株抗アレルギー実験前後のマウスの血清総IgE濃度(ng/mL)
Table 5 Concentration of serum total IgE in mice(ng/mL)
*P<0.05,vs.blank control group;﹟P<0.05,vs.La28group.N.D:Not detected
Group n Before experiment After experiment

Blank conrol

12 N.D 12.65±6.04

OVA positive control

11 3.58±2.43 48.84±12.01*, ﹟

LP45

12 N.D 49.60±13.21*, ﹟

La28

11 2.95±0.17 27.13±2.86*

3 検討

 アレルギー性疾患は現在、世界的な衛生問題となっている。これには、アレルギー性鼻炎(allergic rhinitis、AR)、喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性胃腸炎などが含まれる。世 界の約30%以上の人びとに影響を与えていると考えられ、2002年のデータによると、米国では3100万人近くが喘息があるとの診断を受けたことがあり、約 4000万人が季節性アレルギー性鼻炎にかかったことがある [6] 。アレルギー性疾患の有病率はここ2、30年で多くの国で年々上昇の傾向を示している。「衛生仮説」(hygiene hypothesis)は、社会経済が発展し、衛 生条件が徐々に高まったことがこれに関係していると考えている。腸内細菌叢の役割はこの「衛生仮説」において重要な位置を占めている。現在の多くの研究は、腸内細菌叢の乱れが、ア レルギー性疾患の罹患の増加の原因の一つとなる可能性があると考えている [7] 。また特定の善玉菌が、腸内細菌叢の構造を変えることでアトピー性皮膚炎の症状を改善し、再発を遅らせることを研究・実証したグループも存在する [8]

 ラクトバチルスとビフィズス菌は最もよく見られる善玉菌である [9] 。ある研究は、ラクトバチルスとビフィズス菌を生物反応調節剤として経口または胃腸以外のルートで宿主に与えることにより、生体免疫系統中のリンパ球やマクロファージ、N K細胞などのさまざまな免疫細胞を活性化し、IL-2やIL-12、IFN-γなどの多種類のサイトカインを分泌させ、生体の局部または全身の防御機能を高め、恒常性調節や抗感染、抗 腫瘍などの効果を発揮させることができると指摘している [10] 。だが研究では、同一種の菌の異なる菌株では、免疫系統に対する活性化作用は大きく異なったこともわかった [11] 。このため本実験では、同属ラクトバチルスの異なる菌種の4菌株を選び、その免疫調節作用を選別・比較し、その抗アレルギー作用を評価した。

 今回の実験ではまず、動物実験全体を通じて菌株の免疫調節作用を選別し、マウスに各菌株を胃内投与して14d、28d後に、各菌株の投与はマウスの体重などの一般的な状況には影響しないことを発見し、各 菌株の安全性を示した。免疫器官の臓器指数は、生体免疫機能をはかる初期的な指標である。脾臓と胸腺は、体内の主要な免疫器官であり、通常、免疫抑制剤は胸腺と脾臓を萎縮させ、免 疫増強剤は胸腺と脾臓の重量を増加させる [12] 。だが今回の実験では、善玉菌の投与後、免疫器官の臓器指数の変化は見られなかった。その原因は、善玉菌の免疫調節作用が比較的穏やかで、免 疫器官の臓器指数を直接変えるほどではなかったことと推測される。もう一つの重要な観察指標は血清サイトカインである。今回の実験では、LGG菌株の投与後、血清IL-6は、ブ ランク対照群に比べて上昇の傾向を示したが、有意差はなかった。LGGは、現在最も多く研究されているラクトバチルスの一種である。このほかの研究 [13] によると、LGGの免疫調節作用はIL-6水準を高めることができる。これは本実験で示された傾向と同じである。本実験でラクトバチルス・アシドフィルスLa28を投与して14d、2 8d後にブランク対照群と比べると、いずれも血清IL-6含有量の低下が見られた(P<0.05)。ラクトバチルス・アシドフィルス6091は投与28d後に初めて血清IL-6含有量の低下が現れた( P<0.05)。異なる菌種の異なる菌株間には免疫調節の差異があることが示された。一方、ラクトバチルス・プランタルムLP45の投与後、ブランク対照群と比較すると、明 らかな血清サイトカインの変化は見られず、異なる菌種の免疫作用にも差異が存在することが示された。

 本実験は主に、血清中のTh1サイトカインIFN-γとIL-12、Th2サイトカインIL-6の含有量の変化を評価指標として選んだ。IFN-γはTh1細胞の代表的なサイトカインで、T h2細胞活性抑制や抗ウイルス、抗腫瘍などの特性を持つ。IL-12は、B細胞と抗原提示細胞から産生され、T細胞に作用し、IFN-γの産生を促進することができ、体 内の免疫応答におけるIFN-γの産生に必要なものとなっている。IL-6は主に、単核食細胞とTh2細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞から産生され、その標的細胞は比較的複雑である。T h1/Th2の均衡の失調を用いてさまざまなアレルギー性疾患の機序を解釈する研究はすでにある。通常は、Th1/Th2の均衡においてTh2細胞が優位を占める時、ア レルギー性疾患が起こりやすいと考えられている。本実験は、菌株の免疫作用の選別において、ラクトバチルス・アシドフィルスLa28と6091の使用は、T h1細胞にかかわるIFN-γとIL-12を高めることはないが、マウス血清中のTh2細胞とかかわるIL-6の含有量を低下させることができることを発見した。T h2細胞活性の抑制を通じて抗アレルギー作用を実現するものと推測された。そのためさらなる実験においては、免疫調節作用が比較的際立つラクトバチルス・アシドフィルスLa28を選び、さ らなる抗アレルギー作用の評価を行い、選別実験において血清IFN-γ、IL-12、IL-6の含有量を変えなかったラクトバチルス・プランタルムLP45を選び、異なる菌種の対比を行った。

 IgEは、Ⅰ型過敏反応を媒介する主要媒介である。Ⅰ型過敏反応は、多くのアレルギー性疾患の主要な生理学的機序である。今回の抗アレルギー作用の評価実験においては、O VAに感作されたマウスアレルギーモデルを採用し、OVAと水酸化アルミニウムを利用したマウスの腹腔注射による感作と活性化の後、血清総IgE含有量の変化を通じた評価を行った。OVA感作マウスモデルは、現 在多く応用されているアレルギー性疾患動物モデルである。Kawaseら [14] は、OVAによって感作された動物モデルを利用し、ラクトバチルスTMC0356菌株の抗アレルギー作用を発見した。Moritaら [15] TMC0356菌株にかかわる人びとの研究も、TMC0356がヒトの血清IgE含有量を調節し、抗アレルギー性鼻炎の作用を発揮することを裏付けた。O VA感作マウスモデルによって評価された菌株の抗アレルギー作用がヒトにも効果を持つ可能性があることが示された。今回の実験の終了時、OVAに感作された陽性対照群はブランク対照群と比べると、血 清総IgEは明らかに高まっており、マウスアレルギーモデルの構築の成功が示された。LP45の投与された菌株グループでは、血清総IgEは、ブランク対照群と比べて高まっていた。だ がOVA陽性対照群と比べると有意差はなかった。一方、La28菌株グループの血清総Igは、ブランク対照群よりも高かったものの、OVA陽性対照群と比べると明らかに低下していた。ラクトバチルス・ア シドフィルスLa28は抗アレルギー作用を持つ可能性があるものの、ラクトバチルス・プランタルムLP45は抗アレルギー作用を持たないことが示された。

 本実験において選別された4菌株のうち、ラクトバチルス・アシドフィルスLa28と6091は免疫調節作用を持つ可能性がある。ラクトバチルス・アシドフィルスLa28はさらに、抗 アレルギー作用を持つ可能性がある。抗アレルギーの機序としては、Th2細胞活性を抑制し、血清IL-6含有量を低下させ、Th1/Th2の細胞の均衡に影響を与えるというものが考えられる。これは、効 果の高い健康製品の開発に根拠を提供するものとなった。同時に本実験は、善玉菌の免疫作用は菌種・菌株間で大きく異なることを検証し、さらなる研究に向けた土台を築いた。

(おわり)

[6]. Rhodes L, Bailey CM, Moorman JE. Asthma prevalence and control characteristics by race/ethnicity———United States, 2002. MMWR Morb Mortal Wkly Rep, 2004;53(4):145-148.

[7]. 相云, 尚暁云. 益生菌在児童哮喘防治中的作用. 国際児科学雑誌, 2012;39(6):545-553.

[8]. 姜麗亜, 郭震, 戴景斌等. 益生菌治療成人特応性皮炎療効評価. 中国麻風皮膚病雑誌, 2014;30(4):205-207.

[9]. 張清照, 朱魯平, 程雷. 益生菌対変応性疾病的防治作用. 中華耳鼻喉頭頚外科雑誌, 2013;48(7):604-608.

[10]. 康白. 双岐桿菌. 大連:大連海事大学出版社, 1998:1-2.

[11]. 武其文, 陳其御. 幾種人源乳酸桿菌的免疫調節及抑瘤作用. 基礎医学與臨床, 2007;2(2):183-186.

[12]. 托婭, 張和平. 一株分離自内蒙古伝統酸馬奶中的乳酸桿菌Lactobacillus casei. Zhang対小鼠免疫功能的影響. 中外医療, 2008;27(11):39-42.

[13]. Goyal N, Shukla G. Probiotic Lactobacillus rhamnosus GG modulates the mucosal immune response in Giardia intestinalis-infected BALB/c mice. Dig Dis Sci, 2013;58(5):1218-1225.

[14]. Kawase M, He F, Kubota A, et al. Inhibitory effect ofLactobacillus gasseri TMC0356 and Lactobacillus GG onenhanced vascular permeability of nasal mucosa in experimentalallergic rhinitis of rats. Biosci Biotechnol Biochem, 2006;70(12):3025-3030.

[15]. Morita H, He F, Kawase M, et al. Preliminary human studyfor possible alteration of serum immunoglobulin E production inperennial allergic rhinitis with fermented milk prepared withLactobacillus gasseri TMC0356. Microbiol Immunol, 2006;50(9):701-706.

※本稿は沈曦,李鳴,石磊,齢南,何苗,王舒悦,何方「乳酸杆菌的免疫調節及抗過敏作用研究」(『四川大学学報(医学版)』第47卷第2期、2016年、pp.192-196)を『四川大学学報(医学版)』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司


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