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マニピュレーター絶対位置決め精度キャリブレーションの主要技術概観(その3)

2017年 8月31日

高 涵:河北工業大学 機械工程学院博士課程大学院生

 主要研究テーマはモバイルマニピュレーターキャリブレーション技術。

張 明路:河北工業大学 機械工程学院教授、
ハルビン工業大学 ロボット技術・システム国家重点実験室

 博士課程指導教員。主要研究テーマは特殊ロボット機構。

張 小俊:河北工業大学 機械工程学院教授

 主要研究テーマは特殊ロボット制御システム。

白 豊:河北工業大学 機械工程学院博士課程大学院生

 主要研究テーマはロボットビジョン。

その2よりつづき)

3 キャリブレーションの主要技術

 一般的に言って、マニピュレーターの絶対位置決め精度は、ロボットの自主開発や航空・宇宙産業における組み立ての分野で非常に重要な意義を持つ。一方、キャリブレーション技術の良し悪しは、マニピュレーターの絶対位置決め精度を直接決定するものとなる。このためマニピュレーターのスピーディーで精確なキャリブレーションを打ち出すことは、将来的に到達が望まれる目標となる。この目標を実現するためには、以下の5つのカギとなる技術の面でブレークスルーを実現する必要がある。

3.1 誤差モデルの構築

 精確なパラメーター誤差モデルは、キャリブレーション結果に决定的な作用を及ぼし、誤差補償と絶対位置決め精度向上の土台となる。このモデルは、誤差の性質に応じて、マニピュレーター自身によって引き起こされる幾何学パラメーター誤差モデル[31]、末端の負荷の変化によって引き起こされるコンプライアンス誤差モデル[32]、温度変化によって引き起こされる誤差モデル[33]などに分けられる。以下では、3種の誤差モデルのモデリング方法をそれぞれ説明する。研究者らは、それぞれの需要に基づき、相応の誤差モデルの構築することができる。

3.1.1 幾何誤差モデルの構築

 マニピュレーター幾何学パラメーター誤差は、加工誤差や組み立て誤差、部品摩耗などの要素の影響を受け、実際のパラメーターと理論パラメーターとの間に一定の偏りが生まれることを指す。直列マニピュレーターについて言えば、各リンクパラメーターの誤差はいずれも、末端の位置運動の不精確を生む可能性がある。このため適切な運動学モデルを選択し、各関節間の変換関係を精確に表現させ、ふさわしい誤差モデルを構築する必要がある。

 ロボット運動学モデルの構築には現在、主にD-H法が採用されている。Mooring[34]は当初、隣り合う2つの関節軸線が平行でない時、D-Hモデリングを採用すると、幾何学パラメーターの変化が大きくなり、ヤコビ行列に特異点が出現することを発見した。上述の問題をめぐって、一部の研究者は、枠外のパラメーターを加えることによってこの欠点を克服した。Hayati[35]は、既存の運動学モデルを土台として、y軸回転変数βを導入することによって、隣り合う2つの平行軸間の偏りを記述し、従来の方法でのモデリングによって引き起こされる特異性の問題を除去した。Stoneら[36]は、2つの枠外のパラメーターを導入した。この2つのパラメーターは、それぞれの座標系が関節の軸線をめぐって任意の回転と平行移動を行うことを許す。Whitneyら[37]は、6つのパラメーターによるマニピュレーターW-Lモデルの構築を打ち出した(図7)。y軸を関節の軸線方向と規定し、隣り合う座標系はYOZ平面に位置し、それぞれZ軸とY軸、X軸のまわりをローリング・ピッチング・ヨーイングする。次の公式で表される。

式

 このうちθiは関節角度の変化量、yiは関節軸沿い、ziはリンク運動の平行移動量、γはZ軸をめぐる回転角度、αはY軸をめぐる回転角度、βはX軸をめぐる回転角度である。

図7

図7 W-Lモデル

 同時に一部の研究者は、関節スクリューの方法を用いて特異性の問題を克服した。高文斌ら[38]は、指数積分公式を用いてロボットの運動学パラメーターをキャリブレーションし、回転関節と移動関節を統一記述しただけでなく、2つの隣り合う関節の軸線が平行に近付いた時には、運動学パラメーターの変化は滑らかとなり、特異点の問題は出現しなかった。このほかZhuangら[39]が提起した完全でパラメーター的に連続したモデル(Complete and Parametrically Continuous、CPC)、Kazerounianら[40]が発表したゼロ基準位置誤差モデル、王偉ら[41]が打ち出した四元数に基づく誤差モデルなどはいずれも、ヤコビ行列の特異性の問題を異なるレベルから回避したものである。実際の必要に基づき、合理的なモデリング方法を選択することが望まれる。

3.1.2 コンプライアンス誤差モデルの構築

 負荷の高い組み立てや運搬操作においては、非幾何学的要素(関節や連結棒の変形など)が末端精度に対して主導的な作用を及ぼし、幾何学パラメーターだけのキャリブレーションでは往々にして不十分となる。このため非幾何学パラメーターに対するモデリングと同定が必要となる。現在、マニピュレーターコンプライアンスモデルの構築には主に、有限要素解析(Finite Elements Analyses、FEA)とマトリックス構造解析(Matrix Structural Analyses、MSA)、仮想関節法(Virtual Joint Modeling method、VJM)の3種の方法がある。

 FEA法の基本的な発想は、構築した物理モデルをいくつかの小さいピラミッドまたは立方体のユニットに分解し、離散化によって、力またはトルクの各ノードにおける変形量の間の関係行列を獲得し、行列中の対応する要素が求めるものを得られる剛性行列を取得する[42-44]。有限要素解析は、ロッドと関節の形状をありのままに反映することができ、計算精度は高いが、有限要素の数の増加につれて、コンピューターのメモリーと高次元の逆行列の導出がとりわけ重要となる。Klimchikら[45]は、CADソフトウェアを利用して各連結棒の3次元モデルを描き出し、連結棒末端の各方向に力とトルクを絶えず加え、連結棒に変形を発生させた。この変形エリアには、力またはトルクの作用に対応する連結棒のコンプライアンス情報が含まれており、この中から取り出すことによって連結棒の剛性行列を得ることができる。アルゴリズムのフローチャートは図8の通りである。

図8

図8 FEAに基づくアルゴリズムフローチャート

 MSA法は、有限要素の思想と結びつけ、構造をいくつかの部品に分解し、これらの部品を有限要素に離散化し、要素の分析をすることによって外力とロッドの変形量との関係を獲得し、部品の剛性行列を取得し、最後に、重ね合わせの原理を利用してもともとの構造全体の剛性行列を獲得するものである。この方法はしばしば、パラレルリンク機構の剛性行列の解を求めるのに用いられている[46-48]

 VJM法の基本的な発想は、マニピュレーターの関節に枠外の仮想弾性ねじりバネを加え、従来の運動学モデリングを土台として、マニピュレーター剛性モデルを構築するというものである(図9)。FEAやMSAと比べると、この方法は操作が簡単で、計算量が少なく、マニピュレーター構造モデルが簡略化されており、ロボットの剛性モデル構築において幅広く応用されている。Dumasら[49]は、連結棒が十分な剛性を備えていると仮定し、各関節を1次元の弾性ねじりバネとみなし、柔性行列と末端の変形量との間の関数関係を取得した。

図9

図9 仮想弾性ねじりバネマニピュレーター構造

3.1.3 温度誤差モデルの構築

 マニピュレーターの温度の絶え間ない変化は、連結棒と関節の膨脹変形を招き、ロボットに温度誤差を発生させ、モデルのパラメーターを改変し、位置決め誤差を増大させる。上述の2種類の誤差とは異なり、熱誤差は一種の動的な誤差であり、熱平衡状態に到達するまでは変化を続ける。このため温度誤差モデルをオンラインで構築し、その誤差補償を行う必要がある。

 Liら[50]は、有限要素理論に基づいて温度モデルを構築し、温度モデルに基づいてマニピュレーターの各軸の熱分布と熱変形状況を計算した。大量の実験研究によって、熱変形に対しては6つの運動学パラメーターの影響が大きいことがわかり、この6つのパラメーターに対してオンラインでの熱誤差補償を行った。補償後、末端位置決め精度はいくらか高まった。Lubranoら[51]は、干渉計とロボットに設置した11個の白金抵抗温度計を利用してロボット本体と環境の温度の変化をモニタリングし、これを入力として温度誤差に逆補償を行った。こうした方法は、温度場と位置決め誤差の間の関数関係を直接構築できるものの、ロボット上に大量の温度センサーを設置して温度誤差モデルの精度を高めなければならず、センサーの位置を合理的に選択することが誤差補償精度を高める最大の問題となる。関連する実験結果[52]によると、センサーを温度場の極大値付近または熱源周辺に近付けると、比較的良好な誤差補償精度を得ることができる。

3.2 誤差補償

 ロボットの誤差補償は、キャリブレーション過程において最もカギとなる一歩である。同定後のパラメーターの真値をコントローラーに反映することによって位置決め精度の向上という目的を達成する[53]。幾何学パラメーターの誤差補償に対しては主に、オンラインとオフラインの補償という2種の方法がある。それぞれソフトウェアに調整・当てはめを行ったマニピュレーターモデルと参考軌跡に基づき、制御アルゴリズムを修正する。オンライン誤差補償について言えば、図10(a)に示すように、期待される軌跡tdをコントローラーに入力し、実際幾何モデルf(td,π+Δ)逆運動学モデルによって関節角度qを求める。このうちπは名目上の幾何学パラメーター、Δは同定後の幾何学パラメーター誤差である。同時にロボット上の関節エンコーダーによって読み取られた実際の関節角度qと比較し、コントローラーによる計算を経て補償後のデカルト座標、つまり実際の軌跡を導出する。例えば文献[54]は、識別したパラメーターによって名目パラメーター値の誤差補償を行い、反復によって最適のパラメーター誤差を獲得したものである。オンライン誤差補償の方法では、ソフトウェアに調整・当てはめを行うマニピュレーターモデルが必要となる。だが実際の応用プロセスにおいては、制御ソフトウェアはオープンソースのものではなく、ユーザーがプログラムの修正を行うことはできない。

図10

図10 2種類の幾何学パラメーター誤差補償

 上述の状況から、オフラインの誤差補償は、工学的な応用により適している。図10(b)が示すように、その基本的な原理は、実際の幾何モデルに基づいて逆運動学を求め、関節の角度を通じてデカルト座標における位置tmを取得し、tmの関節角度値の解を求め、マニピュレーターのアクチュエーターの実際の値と比較し、修正軌跡を獲得する。

 非幾何学パラメーターの誤差補償[55]に対しては、コントローラーにコンプライアンスモデルがないため、オンライン誤差補償は非幾何学パラメーターの誤差補償は適合せず、オフライン誤差補償だけしか用いることはできない(図11)。期待される軌跡上の点からf(td,kθ)逆運動学モデルによって関節角度qを求め、qのデカルト空間における位置を名目順運動学モデルによって取得し、一連のデカルト空間における位置点から名目逆運動学モデルを通じて関節角度q'を獲得し、マニピュレーターの各関節エンコーダーの角度と比較して、修正後のデカルト空間における位置を取得する。

図11

図11 非幾何学パラメーターオフライン誤差補償

その4につづく)

参考文献:

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※本稿は高涵, 張明路, 張小俊, 白豊「機械臂絶対定位精度標定関鍵技術綜述」(『計算機応用研究』2017年第34巻第9期)を(『計算機応用研究』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司


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