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長城汽車=着実に成長してきた民営自動車メーカー

2017年 9月25日

陳選

陳 選(チン セン):フリーライター

略歴

 1982年、吉林大学日本語科卒、1986年、中国社会科学院大学院日本研究所修士課程卒、中国国際信託投資公司(CITIC)勤務。1989年来日、北海道大学法学部大学院修士課程卒、大 手商社長年勤務。中国自動車メーカーのビジネスアドバイザーでもあった。

 北京~開封高速を南西へ3時間程走って、保定南という高速道路の出口を出たら、5分足らずで中国ナンバーワンのSUVメーカーである長城汽車の本社ビルが見えてきた。27年前、従業員が60人にも満たず、巨額負債を抱きぼろぼろの小さかった自動車修理工場は、試行錯誤を繰り返し紆余曲折の道を歩み、現在では7万人の従業員を擁する、年間100万台の車を製造する会社まで成長した。

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長城汽車の本社ビル

経営者の人物像

 長城汽車発展の歴史を顧みるに当たり、一人の優秀な経営者を語らなければならないであろう。それは現在、長城汽車を率いる総帥であり、董事長の魏建軍さんである。

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長城汽車董事長の魏建軍さん

 魏さんは軍人出身で中国の自動車業界ではユニークな経営者だと思われる。以下幾つかの事例を通じて魏さんの素顔を見てみよう。

1.組織に紀律を厳格に守らせること

 魏さんは会社経営に当たり、組織としての紀律遵守を重んじている。現在も毎日正午、昼飯を取る為、職場から食堂に向かう整然たる従業員の行列が見られる。

2.穏やかで目立たずに地味な姿勢で行動する

 「毎日少しずつ進歩せよ」と言ったスローガンに現れるように中国自動車業界では目立つことがなく、絶対大げさに物事を言ったりせずに、いつも静かに自分が目指す目標の達成に努めている。

3.不正と腐敗を絶対に許さない

 拝金主義が蔓延している中国では、会社経営で不正と腐敗を絶対的に許さない経営者は恐らく魏さん以上の人がいないであろう。社内ルールとして顧客の招待を受けてはいけないし、会社の商談室のテーブルに小さい看板が置かれ、その上に「商談に当たり、賄賂と不正を根絶しよう」とはっきりと書かれてある。

4.冷静で正しく経営の舵取りを行う。

 長城汽車の27年の成長は、会社の存亡に関わる転換点でいつも魏さんの正しい決断により正しい方向に導かれてきたものである。

 魏さんはトヨタ生産方式を手本に開発、生産管理、経営の改善を行いつつ、弛まぬ品質の向上や技術の研鑚を行ってきた。

長城汽車成長の足跡

 それでは長城汽車が歩んだ27年の歴史を振り返ってみよう。小さい自動車修理工場であった長城汽車は1990年に経営不振脱出の為、地元生まれで26歳の魏建軍氏を総経理として迎えた。当時は従業員60人弱で、三百万元の負債があった。魏建軍さんは就任当初より「腐敗や不正の撲滅」や「品質向上」を会社経営の二つの柱にした。

 まず、社風の改善に注力し、身内のみ採用する等の不正を一掃し、才能や人徳を備えた人物の採用に着手した。その次に「製品品質の向上」を掲げた。

 魏さんの強力な剛腕経営により会社は直ぐ黒字に転じた。

 当時の長城汽車は古ぼけた田舎の小さな自動車修理工場に過ぎず、自動車製造の経験も設備も人材も無かったが、会社の将来を考えて自動車修理業からマイクロバスの製造に転身するよう魏さんは試みた。

 ところが、100社以上とも言われ林立する中国の自動車メーカーを整理し、集約しようとする中央政府は、当時、「3大3小2微」と言う自動車振興政策を掲げて1994年に「自動車工業産業政策」を発表し、既に存在していた大型の国有自動車メーカーを中心に、他社の新規参入を厳しく制限した。その為、乗用車作りの道を歩んだばかりの長城汽車は政府主管部門から生産停止と命じられ、挫折した。

 その後、魏さんは外遊を通じタイのピックアップ市場の盛況をヒントに政府の管理も緩く、技術水準も割に低いピックアップを製造すると決意した。この決断は市場ニーズにぴったりと合い、ピックアップがヒット商品になり、90年代後半、中国で最も人気のピックアップになった。

 ピックアップの製造成功により、魏さんは自信が高まり、遂に再び本格的に乗用車の製造を行うよう考えることになり政府の厳格的な自動車産業政策に抵触しないようにする為、熟慮の上、乗用車に属しない「賽弗」(SAFE)という初代のSUVを開発し2002年に発売を開始すると、翌年、年間3万台の販売台数に達し、中国でまだ馴染みの無かったSUVという分野で成功を収め、その後の長城汽車の急成長の土台を作り上げた。

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長城汽車の初代SUV「賽弗」(SAFE)

 このように積み重ねた業績が認められ、2003年に、長城汽車は香港証券市場H株の上場を果たし、民間企業として資金調達が難しい状況を解消し、発展と成長のチャンスを掴んだ。間もなく、長城汽車の素晴らしかったパフォーマンスは漸く政府主管官庁に認められ、2007年に乗用車製造の資質を有する企業として認定された。

 その後、長城汽車は茨の道を歩む。小型の乗用車やMPV等、幾つかの車種の開発が失敗し、世界一流の自動車メーカーとの間で発生した知的所有権の係争などもあり、日本自動車工業会では「模倣車メーカー」としてブラックリストに載せられた等のエピソードがあった。魏さんはこのような幾重の困難に臨み、素早く市場に照準を合わせ、ヒットしそうな商品を作ろうとするよう車種開発計画を繰り返し調整した結果、2008年の金融危機を契機に長城汽車の車が爆発的に売れるようになった。その後、魏さんは思い切ってSUVメーカーに特化し、SUV分野で世界ナンバーワンのメーカーになるまで乗用車の新車開発をしないと宣言した。2012年に発売した新型SUV「HAVAL6」は大ヒットし、単一車型月間販売6万台を突破した。

 長城汽車は中国国内では勿論、海外でも中国系自動車メーカーとして、輸出台数、地域等が常にトップクラスであった。1998年、ピックアップの中近東への輸出を皮切りに長城汽車の海外進出が始まった。発展途上国のみならず、チリ、ロシア等の新興国や、更にイタリア、イギリス、オーストラリア等先進国への輸出を果たした。

 長城汽車は2003年に香港H株上場に続き、2011年に上海A株市場にも上場した。昨年年末の資産総額が923.09億人民元になった。現時点で、地元保定の三工場、天津の一工場の合計四工場でSUV、乗用車、ピックアップを製造している。さらに40数社の子会社を有し、エンジン、トランスミッション等重要保安部品の内製化も実現した。

 中国の中堅レベル以上の自動車メーカーの中で唯一外資自動車メーカーとの合弁をせず、長城汽車は中国ナンバーワンのピックアップとSUVメーカーとして発展してきた。ピックアップは19年連続、SUVは14年連続、国有や外資系自動車メーカーの合弁会社を抑えて販売台数と市場シェア首位を一度も譲らずに維持してきた。良好なコストパフォーマンスで口コミも良く、昨年、100万を突破し、107万台の販売記録を作った。成長率は中国自動車業界の平均年間伸び率を上回り、収益力もトップクラスで株価も安定している。

 長城汽車は2004年以来、「中国企業上位500社」、「中国で最も価値のあるブランド500社」、「中国上場自動車メーカートップ10」、「2014年世界自動車ブランド100社」等に選ばれ、成長のポテンシャルが国内外で広く認められるようになった。さらに中央政府の関連主管官庁によって「輸出推薦ブランド」、「国の自動車完成車輸出基地企業」に選ばれた。また、次第に世界でもその名を馳せ、7、8年前に影響力のある日米の自動車誌では「将来、世界という大きな舞台で一流自動車メーカーと競争できる唯一の中国自動車メーカーである」と評価された。

長城汽車の新たな挑戦

 近年来、中国の消費者に週末レジャー型のライフスタイルが定着しつつある為、自動車に対する消費志向もそれに相応しい変化が起こり、乗用車よりもSUVへの関心が大きくなった。中国市場において自動車の年間販売台数にSUVの占める比率は十年前では5%に過ぎなかったが、昨年、37%に達した。中国に進出している世界の一流自動車メーカーの合弁会社も、中国国内の民族系自動車メーカーも例外なくSUVの生産を踏み切り、激しい競争を展開している。今後も更に厳しい競争に臨む為、魏建軍氏は待たずして新たな挑戦を試みた。

 次のステップとして会社全体のグレードアップを考えて、五、六年前より魏さんは先手を打った。生産能力の拡大と先進設備などの新規導入に注力し最新鋭設備を導入し徐水工場を建設し、そこで10億元を投入し、76種類の様々な路面状況を人為的に作り出し、長さが45キロメートルである国内最大級、最高水準の自動車テストコースを作った。

 一方、技術人材の充実と自社技術開発レベル向上の為、50億元を使い、敷地面積が26万㎡に達する国内でトップレベルかつ最大級の新技術センターを建てた、また外国人技術者専用のマンションを建設し、世界各国から一流の自動車開発技術者を高給で100名以上雇用した。

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新技術センター

 様々な周到な準備の上、ドイツ人、日本人、イタリア人技術者等が開発に参与した下で、昨年、高級SUVである「WEY」の開発に成功し、今年発売を開始し、順調な船出になった。「WEY」とは魏という文字の中国語発音と同じなので、そのように名付けた魏さんの自信と野心が伺える。

 魏さんの思惑は「WEY」を通じて中国民族系自動車メーカーのローエンドのイメージを変えるのみならず、高付加価値車両のコストパフォーマンスで熾烈なSUVの市場争奪戦で勝ち残り、会社の収益力を高める為でもあった。

 この車は中国民族系自動車メーカーの自主ブランド車の低価格、低品質のイメージを一掃し、世界の一流自動車メーカーの車両に少しも遜色ない外観、内装、高機能部品、標準装備、性能などをもって、ハイエンド市場への参入を実現し、世界のトップメーカーへの挑戦を敢行した。

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高級SUV「WEY」

 現在、ドイツのフランクフルトで開催中のフランクフルトモーターショーで、長城汽車が出展した「WEY」のVV5sは、ポルシェ911GT3、アウディAICONコンセプトカー、本田Urban EVとSmart EQと共に地元の有力週刊誌「FOCUS」により今回のモーターショーで最も成功した車の一つとして高く評価された。

 魏さんが率いる長城汽車は27年の歳月を経て、地味な努力で着実に車作りを行い、品質向上や技術の蓄積をしてきた。十年前、長城汽車は韓国車をベンチマークとして追い越そうと努力してきた。現在、世界の自動車の舞台では中国自動車メーカーの雄として、本格的にデビューし、頭角を現し始め、よりレベルの高い日本車やドイツ車に追いつくよう世界ナンバーワンのSUVメーカーという壮大な目標に向かって、邁進している。今後さらに数多くの奇跡を見せてくれるのか楽しみである。

2017年8月の販売状況
(本文に使うデータや写真は長城汽車が公表した上場企業の報告書等によるものである)
  2017年 2016年 前期比
ピックアップ 73,494 67,812 +8.38%
SUV 522,883 502,704 +4.01%
乗用車 7,092 21,791 -67.45%
合計 603,469 592,307 +1.88%

お見舞い

 

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