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中国の第3回農業センサス結果と農業新型経営主体の概要(その2)

2018年 2月 8日

白石和良

白石 和良:元農林水産省農業総合研究所海外部長

略歴

1942年生れ
1966年 東京大学法学部政治学科卒、法律職で農林省入省
1978年~1981年 在中国日本大使館一等書記官
1987年 研究職に転職、農業総合研究所で中国の農村問題、食料問題等を研究
2003年 定年退職 以降フリーで中国研究を継続

その1よりつづき)

(3)「農業経営単位」に関する調査結果

 「農業経営単位」を「農民合作社」と「非農民合作社」に細分した数値については、地域別分布の数値しか公表されていないので、ここでは、その数値を見てみよう。

 表5は「農業経営単位」の数とその一部である「農民合作社」の数を4大地区別に整理したものである。「農民合作社」数が「農業経営単位」数に占める比率を見てみると、全国ベースでは、44.6%であるが、地区別には、東部は46.4%、中部は48.2%であり、この両地区は、ほぼ全国ベースであると言えよう。ところが、西部は35.5%であり、東北は58.8%と、全国ベースから著しく乖離した数値となっている。しかも、両地区の乖離方向は全く逆である。換言すれば、西部は農民合作社の組織化がかなり遅れており、東北はかなり速いということである。残念ながら、その理由は把握できていない。詳細数値が公表されるまでは指摘に止めるしかない。

表5 地域別の農業経営単位数と農民合作社数(単位:万)
出所:第2号公報。
  全国 東部地区 中部地区 西部地区 東北地区
 農業経営単位C 204 69 56 62 17
(シェア) 100.0% 33.8% 27.5% 30.4% 8.3%
 うち農民合作社D 91 32 27 22 10
(シェア) 100.0% 35.2% 29.7% 24.2% 11.0%
D/C 44.6% 46.4% 48.2% 35.5% 58.8%

(4)「農業経営体」と「規模経営戸」、「農業経営単位」との比較

 「農業新型経営主体」のとしての性格、色彩が強い「規模経営戸」、「農業経営単位」と「農業経営体」全体とを比較できるデータで、公表済のものは、従事者の属性に関するものだけである。具体的に言えば、性別、年齢、学歴、従事部門である。表6は、それらをまとめたものである。なお、従事者の基準は、合計従事期間が年間30日以上であるとされ、また、兼業者も含まれるとされている(実施方案等)。以下、それぞれの属性について見てみる。

表6 規模経営戸、農業経営単位、農業経営体の従事者比較(単位:%)
出所:第5号公報。
  項    目 農業経営体 規模経営戸 農業経営単位
性別 男性比率 52.5 52.8 59.4
女性比率 47.5 47.2 40.6
年齢 35歳以下 19.2 21.1 19.7
36~54歳 47.3 58.3 61.2
55歳以上 33.6 20.7 19.1
学歴 初中以下 91.7 89.6 72.4
高中・中専 7.1 8.9 19.6
高専・大学以上 1.2 1.5 8.0
従事部門 耕種業 92.9 67.7 50.3
林業 2.2 2.7 16.4
畜産業 3.5 21.3 16.6
漁業 0.8 6.4 6.2
農業サービス業 0.6 1.9 10.6

 ①従事者の性別構成:3者とも男性の方が高いが、これは中国全体の人口が現在も女性より男性が多い実態を反映したものと思われる。しかしながら、「農業経営体」、「規模経営戸」と「農業経営単位」との間には著しい格差が存在している。「農業経営体」、「規模経営戸」の男性比率が52.5%、52.8%であるのに対して、「農業経営単位」で59.4%である。これは、「農業経営体」は個別経営が圧倒的であり、また、「規模経営戸」も個別経営の延長線上にあるものが多いのに対して、「農業経営単位」は法人経営的制約要素が強いためと思われる。卑近に言えば、前2者は情実が働き安いが、後者は組織、企業原則が強く優先されるということである。

 ②従事者の年齢階層構成:3つの年齢階層の内、最も労働能力が高い階層は「36~54歳」層であるが、この層に着目して比較してみると、この層の割合が最も大きいのは「農業経営単位」であり(61.2%)、「規模経営戸」がこれに続き(58.3%)、最も小さいのは「農業経営体」となっている(47.3%)。他方、最も労働能力が低い階層である「55歳~」層で見てみると、この層の割合が最大なのは「農業経営体」であり(33.6%)、次いで、「規模経営戸」であり(20.7%)、最小なのは「農業経営単位」である(19.1%)。これらの現象も、法人経営的制約要素が、「農業経営体」→「規模経営戸」→「農業経営単位」の順に強大になっていくことから説明できよう。

 ③従事者の学歴階層構成:低い順から「初中以下」(概ね中卒以下)、「高中・中専」(高校、専門学校卒)、「高専・大学以上」(概ね大卒以上)の3つに区分されているが、それぞれの割合については、「初中以下」では、「農業経営単位」→「規模経営戸」→「農業経営体」の順で増大しているが、「高中・中専」、「高専・大学以上」では、「農業経営体」→「規模経営戸」→「農業経営単位」の順で増大している。このような状況になっている原因も、法人経営的要素が、「農業経営体」→「規模経営戸」→「農業経営単位」の順に強大になっていくことから説明できよう。なお、「初中以下」の階層は、実は「未就学」、「小卒」、「初中」の階層区分を合計したものであるが、ここで、紹介しておきたいことは、小学校へも上がったことが無い「未就学」の割合が、「農業経営体」で6.4%、「規模経営戸」で3.6%、「農業経営単位」で3.5%も存在していることである。中国政府は、小学生の就学率はほぼ100%であると豪語し、中国の最高権威の統計書である『中国統計年鑑2017』でも小学生の2016年の就学率は99.9%と記載されている。中国の小学生の就学率は、『中国統計年鑑』によれば、1981年に93.0%を記録し、1985年に96.0%に達し、その後はほぼ一貫して上昇し、昨今は99.9%ラインを維持している。問題は、今回のセンサスで明らかになった小学校にも上がっていなかった「未就学」従事者の割合と『中国統計年鑑』の小学校への就学率との大きな乖離をどのように理解するかである。「未就学」従事者の年齢別構成が公表されれば、この問題の解決は容易になると思われる。

 ④従事者の部門別従事状況:耕種業、林業、畜産業、漁業、農業サービス業の5部門への従事比率が公表されている。「農業経営体」全体では、主として地面を相手にする耕種業が92.9%を占めており、その他の部門の従事者は微々たるものになっているが、これは、中国農業が小規模、多数、脆弱の農家群から構成されている実態を示す数字的証拠である。ところが、「規模経営戸」、「農業経営単位」になると、地面を相手にする耕種業は顕著に減少し、替わって畜産業、漁業、林業の従事者の割合が著増し、「農業経営体」とは様変わりの従事者構成を示しているのである。なお、「農業経営単位」の林業部門の従事者の割合が16.4%と著しく高いが、これは、国営林場(日本の国有林組織に近い)の従事者が含まれているためと思われる。

 表7は、以上のような部門別従事者の配置割合が実際の農林水産業の生産とどのような関係にあるかを見るために、作成したものである。表7の部門別の生産額の割合は、2016年の「農林牧漁業総生産額」の部門別生産額の割合(『中国統計年鑑2017』から計算)である。さて、表7を見てみると、部門別生産額の割合に最も近似しているのは、「規模経営戸」の配置割合であり、「農業経営単位」がこれに次ぎ、「農業経営体」は全くの無関係であることが読み取れる。一般的に言えば、各部門の生産額割合と従事者の配置割合が近似している方が労働力配置は合理的なのである。このことは、「農業経営体」の耕種業への従事者の配置割合が92.9%であるのに、耕種業の生産額割合が52.9%に過ぎないのは誰が見ても不合理と感ずることが証明している。つまり、「規模経営戸」、「農業経営単位」の方が労働力配置は合理的に行われていると言えるのである。このことも、「農業新型経営主体」の育成、増大が中国農政の喫緊の大きな課題となっていることの理由なのである。なお、「農業経営単位」の林業従事者から国有林場の従事者を除外して、部門別従事者割合を算出すれば、部門別生産額の割合に一段と近似したものになるであろうことを付言しておきたい。

表7 部門別生産額の割合と農業経営体、規模経営戸、農業経営単位の従事者の部門別従事割合の比較(単位:%)
出所:第5号公報、『中国統計年鑑2017』。
  農業 林業 畜産業 漁業 農業サービス業
部門別生産額 52.9 4.1 28.3 10.4 4.3
農業経営体従事者 92.9 2.2 3.5 0.8 0.6
規模経営戸従事者 67.7 2.7 21.3 6.4 1.9
農業経営単位従事者 50.3 16.4 16.6 6.2 10.6

3.おわりに

(1)センサスで判明した「農業新型経営主体」関連数値

 以上、紹介してきたが、今回センサスの公表結果で明らかにされた「農業新型経営主体」に関連すると言える数値は、「規模経営戸」の総数、地区別数、従事者数、「農業経営単位」の総数、地区別数、従事者数、「農民合作社」の総数及び地区別数、「規模経営戸」と「農業経営単位」の従事者の属性(性別、年齢、学歴、従事部門)だけである。専業大戸、家庭農場、農業産業化経営の龍頭企業の数字は全く未公表であり、期待外れの甚だしい内容であった。

(2)現実に使われている数字との比較

 センサス結果の公表が期待外れであったことに加えて、中国の行政や報道で使われている数字との整合性にも問題があることが顕著に示された。農業部の葉貞琴副部長が昨年12月15日に公表している「農業新型経営主体」の数字は、2016年末で、家庭農場44.5万、農民専業合作社(法令に基づき登記済のもの)179.4万、農業産業化経営の龍頭企業13万、農業サービス組織115万となっている。家庭農場は「規模経営戸」の398万戸に含まれているので、そのまま置くとしても、農民専業合作社と「農民合作社」は数字が違い過ぎる。「農民合作社」の数字の方が農民専業合作社より大きければ、まだ、屁理屈の付けようもあるが、逆であり、これでは如何ともしようがない。農業センサス結果の詳細値の早急な公表と、農業部の数字との整合が待たれるところである。

参考説明:「中国農業の再編、再組織化と農業新型経営主体育成政策」

(1)農業生産責任制の実施とその限界

 中国は、1978年末の第11期3中全会以降、改革開放政策に転じたが、農業政策面での展開は、人民公社制度の集団農業の弊害を克服するための農家単位で実施される農業生産責任制(生産請負制)の導入、展開であった。この政策は、当初は大きな成果を上げたが、その後は、発展の勢いが逓減するとともに、多くの問題点に直面する状況となっている。元々、この政策が大きな成果を上げたのは、集団農業が制度的に抑えてきた農家の生産積極性を解放し、労働の成果と労働報酬を直接リンクさせる方式へ転換したためであった。このため、農家の生産積極性がある程度発揮されてしまうと、さらなる農業発展のための推進力が弱まり、農家単位で行われる農業生産責任制が持つ特徴が逆に農業生産の発展を阻害していると認識される状況となってしまったのである。具体的には、「経営規模の過小さがもたらす低労働生産性、低土地生産性」(李克強総理の2014年10月のFAOでの発言)であり、未組織の弱小農家群による方向性の無い無計画生産である。他方、中国経済の発展に伴って、農産物需要も大量化、多様化、高度化していることから、小規模生産と大規模需要との矛盾、食品安全性の確保等の多様な問題が惹起されており、これらの問題への早急、的確な対応が求められている。こうした問題への抜本的対応には、中国農業の再編、再組織化が必要とする認識が高まっている。

(2)中国農業の再編、再組織化政策の展開

 このため、中国農業の再編、再組織化のための政策が推進されているが、その政策は2本の柱からなっている。第一は、分散、小規模農家群の再組織化を促進させる政策であり、第二は、実際に農業を行う農業経営体の足腰を強化させる政策であり、特に個別経営の規模拡大を含めた農業新型経営主体の育成、増大を推進する政策である。

 具体的政策は、先ず、第一の、再編、再組織化の促進政策では、農民専業合作社への加入による組織化、龍頭企業を含む農業産業化組織による生産農家の組織化が主要なものである。第二の実際に農業を行う農業経営体の足腰を強化させる政策、特に個別経営の規模拡大を含めた農業新型経営主体の育成を推進する政策では、専業大戸、家庭農場、農民専業合作社、農業産業化龍頭企業等の育成、強化が掲げられている。

(3)農業新型経営主体の育成政策の具体的展開

 第一の再編、再組織化の促進政策は、農民専業合作社法が2006年10月に制定され、2007年7月から施行されており、さらに、上述のように2017年12月末に改正され、今年2018年7月1日から施行されることになっているように、着々と、かつ、強力に推進されていると言えよう。他方、第二の農業新型経営主体の育成のための政策は、この政策のための特段の法律、通達等は制定されず、他の通達等への相乗りの形で行われてきたが、これでは不十分と感じたのか、2017年5月末に、「政策体系の構築を加速して、農業新型経営主体を育成することについての意見」が中共中央办公庁、国務院办公庁の共同通達の形で発出された。その後、昨年12月13日で李克強首相が主宰した国務院常務会議でも、「農業新型経営主体を一段と支援し、育成して、現代農業の発展を推進させること」が決定されている。法律の制定までには至っていないが、中共中央办公庁と国務院办公庁の共同通達は極めて権威の高い通達であり、加えて国務院常務会議での決定は、農業新型経営主体の育成政策の重要度を示すものである。

 上記通達と国務院常務会議の決定の中身は、農業新型経営主体に対する優遇措置(補助、税制、金融、保険、研修、農地転用等)であるが、詳細は省略する。なお、これらの通達や決定で注目されるのは、農業新型経営主体の育成も、「農村の土地の集団所有制を堅持し、家族経営が基礎であることを堅持する」上に成り立つものであることを明確にしていることである。また、農業新型経営主体に昇格できない普通の農家や貧困農家に対する配慮を怠ってはならないことも強調されている。農業新型経営主体の育成が土地の私有化へ進むものではなく、また、中国全土が農業新型経営主体のみになることも無いと言うことである。まだ、地に足が着いていると言えよう。

(了)


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