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目指すはテスラ 中国新興メーカーは「量産化の壁」を超えられるか?

2018年7月6日 閔傑(『中国新聞週刊』記者)/江瑞(翻訳)

 まずは下の左図を見てほしい。ここ数年で誕生した新興自動車メーカーへの投資額を表したものだ。巨額の資金はビジネスチャンスを見越したものだろうが、一方で右図のように、発売・納車予定の期限は刻々と迫る。かねてから「量産化」が課題だったこれら新興メーカーは、その志を果たせるのか。

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 奇点汽車の共同創業者兼CEO 沈海寅(シェン・ハイイン)の起業の道は、日本から始まった。帰国後は、キングソフト副社長や奇虎360副社長を歴任、これまで経験してきた仕事はすべて、ネットがもたらした衝撃的な製品や思考法に関連している。

「これまでに大きな影響を受けたのは3回。最初は1995年に初めてインターネットに接したとき。2回目は2007年にiPod touchを手にしたとき。当時はまだスマートフォンはなかったが、あまりの衝撃に、その後発売されたiPhoneにすべての業務を関連づけた。そして3回目は2014年、友人からテスラのモデルSを借りたときだ」

 テスラは自動車業界でスマートカーの道を切り開いた、と感慨深げに語る。

 テスラが発売されたとき、市場が最も衝撃を受けたのは、クルマの動力源であるバッテリーの大容量化と長時間化を実現したことだった。

 だが、沈海寅に言わせれば、多くの人はテスラの本質を分かっていない。「テスラがもたらした本当の衝撃は、ネットの概念でクルマを再構築したことだ」

 いまのクルマはすべての機能が開発段階で決められ、組み込まれている。新たな機能を追加したい場合は、数年後のモデルチェンジの際に追加するしかない。「テスラは違う。ハードウェアは最初からプログラミング可能なプラットフォームになっている。ソフトウェアを通じて更新することで、新たな機能を追加できる」。これこそがスマートカーの核心だと彼は語る。

 両者はまったく異なる2つの思考回路を持っている。「たとえれば、従来のクルマが提供するのは調理済みの料理で、客はメニューから選ぶだけ。一方、スマートカーが提供するのは個々の素材。客はそこから必要なものを組み合わせて好みの料理をつくれる」。沈海寅のスマートカーに対する考え方も、こうしたロジックに基づいている。

 だが今日でも、業界内のスマートカーに対する理解にはかなりの開きがある。スマートカーとは、エアコンをリモート操作できたり、オンラインで地図のアップデートができたりする車だという認識の人もいる。「それは単なるコネクテッドカー。本当のスマートカーとは、成長するクルマのことだと思う」

 2014年頃にそれを悟って以降、考えはまったくブレていない。「その本質に気づき、ものすごく興奮した。それ以来ずっと考えているのは、いかにしてそれを実現するかということだ」

これまでのクルマづくりとはまったく違うアプローチ

「最初にぶち当たった壁は、人材の問題。2014年当時は『クルマをつくる』と話すと、『何を言っているんだ』という顔をされた」。同じ志を持つ仲間を探し、自動車業界からスカウトする、これが初期の最大の課題だった。

「最初は半分だまして丸め込んだようなもの」と沈海寅は笑う。しかし、潮目が変わったいま、自動車メーカーに勤める者もその変化を感じ取り、自分から履歴書を送ってくるようになったという。

 だが、クルマづくりの難しさとハードルの高さは、スマートフォンとは比べ物にならない。クルマづくりのノウハウを持たない新参者にとって、その難しさは想像を絶するものだった。

「従来の自動車産業は、完成車メーカーが動力系と車体を統合的に設計することで製品の決定権を握り、市場セグメントや販売価格、生産量などの決定権を手にしていた」

 国務院発展研究センター産業経済研究部研究室の王暁明(ワン・シャオミン)主任は、このほど発表した文章の中で、完成車メーカーのこうしたやり方が、産業形態の固定化を招いたと分析している。

「自動車産業の参入障壁の高さは、その規模、ブランド効果、垂直統合の徹底度合いなどに表れており、新規参入がきわめて難しい」。だが、電動化により、大きな革命のチャンスが訪れるだろうと王主任は指摘する。

 それは表面的には駆動系の技術革新だが、長期的には生産方式を大きく変えることになる。王主任はこれにより、次の3つの変化が起こると分析している。①モジュール化生産を担う企業(特にバッテリー)が市場で独立した地位を獲得する。②ノーブランドのOEM専門企業(フォックスコン方式)が出てくる。③参入者が増えることで「コア製品」に対する再定義がなされ、市場に認められる新たな完成車メーカーが現れる。

 つまり、クルマづくりは自動車メーカーを頂点とするピラミッド型ではなくなるということだ。実際、EV時代の到来で、新規参入者にも門戸が広がりつつある。

 この見解は、沈海寅の考えと完全に一致している。

 2014年当時、中国では年間2500万台の車が売れていたが、生産量は年間4000万台にも達していた。しかも、工場はいずれもここ7~8年に建てられた、まだ十分活用できるものだった。「工場側にOEMを受ける意思はあるかと尋ねると、どこも非常に乗り気だった」

 自動車業界最大のハードルは、初期投資の段階で工場を建てなければならないことだ。「そこで、自社工場を持たず、融資を受けながら製造規模を拡大していくIT業界のやり方でクルマづくりをしてみようと思った」

 沈海寅の会社の従業員数は500人。自動車メーカーなら、開発部門だけでこれより人数が多いのが普通だ。

「社員の6割以上は自動車関連企業の出身」という奇点汽車では、完成車研究院、動力研究院、自動車デザイン、自動車工学などのチームは自動車メーカー出身、インテリジェントシステム、インテリジェントアプリケーション、テレマティクスなどのチームはIT業界出身だ。

 両者の仕事のやり方はまったく異なる。IT企業はイテレーション(短期間の開発を繰り返す)が習慣で、1週間でひとつのバージョンを完成させることも日常茶飯事。しかし、自動車メーカーでは、3年ほどを見込んで大きなプランを立て、それを粛々と実行していく。途中で変化が生じることは、彼らにとって耐えられないことなのだ。

 この2グループをどうすり合わせていくのか。「社内のスローガンは、『伝統を敬い、大胆に刷新する』。ITチームには『クルマづくりではそこまで短期の開発サイクルはあり得ない。必要なプロセスは尊重すべき』ことを肝に銘じさせないといけない。だが、もっと重要なのは、自動車メーカーチームに、『われわれのクルマづくりは従来の自動車メーカーと違い、常に変更・改良の可能性がある』のを理解してもらうこと」と沈海寅は言う。

 奇点汽車初の量産型インテリジェントEV「奇点 iS6」のプレビュー版は昨年4月13日にお披露目済みで、今年の年末までに量産化を実現する予定だ。

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写真1:奇点汽車初の量産型EV「奇点 iS6」のプレビュー版を披露する沈海寅。写真/視覚中国

「年末に量産に入るという時点まできたら、自動車メーカーならボルト1本すら変更しないだろう。でも、うちは違う」と沈海寅。たとえば、3年前の技術ではインパネのフレーム部分にはある程度の幅が必要だったが、いまは技術が大幅にアップし、かなり細くすることができる。「ぎりぎりまで変更があり得るという考え方は、従来の自動車メーカーでは絶対にできない」

必要なのは実現可能な地に足のついたスマートカー

「すでに公開されたインテリジェントコンセプトカーには、あっと驚くような技術も多いが、そのうちのどれだけが実用化され、どれだけのコンセプトカーが実際に購入できるようになるのか。実現不可能なコンセプト製品を披露しすぎたせいで、スマートカーに対するユーザーの期待や信頼にマイナスの影響が出ている」

 これは2015年のある報告会で沈海寅が語った言葉だ。彼はこの時点ですでに、乗ることも買うこともできないスマートEVはつくりたくない、と強く思っていた。「検証をおこないながら技術を改善し、細部のイテレーションを繰り返しながら完璧に近づけていく。その成果はOTA(無線ネットワーク通信)によるアップデートでユーザーのクルマに反映される。そんな地に足の着いたスマートEVをつくりたい」

 自動運転技術における彼の原則は2つ。ひとつめは、現在の条件で完全自動運転を実現するのは難しいため、「ドライブシーンの80%で起こる問題を優先的に解決する」という原則の徹底だ。

「問題の80%は、時速80㎞以上と30㎞以下、つまり高速道路や都市高速道路の走行中、そして渋滞時に起こる」。彼曰く、この2つのシーンに対応する技術は比較的簡単で、時速80㎞以上は主に車間自動制御システム(アダプティブ・クルーズ・コントロール)、時速30㎞以下は自動追従機能(クルーズ・コントロール)で解決できる。「突然障害物が出現した場合はブレーキをかければ、人にもクルマにも大きな影響はない」

 ふたつめのより重要な原則は、開放だ。「わが社の自動運転システムが世界一だとは思っていない。それゆえ、自分たちは自動運転のハードウェアプラットフォームになり、装備や機能面、アルゴリズムやデータは、すべてパートナー企業に開放したい」

 この事業モデルを採用することで、奇点汽車はプラットフォームベンダーとなり、世界最高レベルのもの、特に自動運転システムを集約させることができる、と沈海寅は考えている。

 さらに驚かされるのは、同社のユーザーが将来、シーンに応じて最適の自動運転システムを選べるようになる、というアイデアだ。「自動駐車システムでA社が優れているなら、駐車のときはA社のシステムを使い、自動追従機能でB社が優れているなら、高速道路を走るときはそれを使うという具合。この程度のことは問題なく実現できる」

「すべての戦略はこの2つの原則を核に決めている」。沈海寅の定義では、製品の強みは、ユーザーをどれだけ理解しているかにある。「単独の技術では長続きしないが、ユーザーを理解することがいったん企業のDNAになってしまえば、それは恒久的に受け継がれていく」

巨額の投資資金が新興EVメーカーに流れこむ

 新たな自動車産業革命の波で、移動のあり方やクルマの定義が大きく変わり、解決しなければならない問題が噴出すると考えられている。そんな局面の打破には、恐れ知らずのスタートアップ企業の参入が不可欠だ。

 革命の波に立ち向かう姿勢は、従来型の自動車メーカーと新興メーカーではまったく異なる。

 従来型の自動車メーカーには既得権益があるため、ゼロからやり直すことは不可能で、経営転換しか道はない。ゆえに、段階的な成長を選ぶ傾向がある、と清華大学蘇州自動車研究院の成波(チョン・ボー)院長は指摘する。

 成院長の目には新興自動車メーカーの強みも課題も明らかだ。強みは、リソースの統合力と資本運用能力の高さ、そして新しい技術やビジネスモデルを果敢に取り入れる精神だ。

 一方、製造能力は向上が待たれる。「IT系企業のクルマはデザインもクールで、アルゴリズムやアプリケーションもどんどん開発できる。しかし、将来的な競争では、クルマの品質・信頼性・コスト面での優位性が真の勝負どころになる」。これらの点については、どの新興メーカーも現時点では不完全だと成院長は言い切る。「彼らは従来型の自動車メーカーと提携し、能力を高める必要がある」

 新興自動車メーカーにとってのもうひとつの課題は、言うまでもなく資金だ。資金調達能力も、新規参入者へのハードルになっている。

 目下、最も可能性を見込まれている蔚来汽車のCEO 李斌(リー・ビン)は、「クルマづくりは非常に金がかかる。新規参入を目指すなら、少なくとも200億元以上の資金が必要」と語る。

 だが、沈海寅はこの説に同意しない。事業開始前に最も資金が必要なのは工場建設だが、OEM方式で生産をおこなえば、初期投資はせいぜい20億元ですむ、というのが彼の考えだ。

 だが、継続的な資金調達能力はやはりきわめて重要だ。特に初期段階では、大量かつ継続的な「輸血」に頼る必要があり、十分な資金を獲得できてこそ、未来を見据えることができる。

 新興自動車メーカー数社のうち、いちばん資金集めに長けているのは蔚来汽車だ。獲得した融資は、これまで計5回140億元以上に上る。同社の創業者には、京東(JD)の劉強東(リウ・チアンドン)、テンセント、シャオミ創始者・雷軍(レイ・ジュン)の順為キャピタルなどが名を連ねており、これに加え、著名投資家やバイドゥからも融資を受けている。

 奇点汽車も一昨年11月に6億ドルの融資を受けており、以前のエンジェルラウンドとシリーズAを加えると、調達した資金は総額7億ドルに上る。

 100億元単位の資金がIT系EVメーカーに流れ込んでおり、そこには当然ながら、バイドゥ、アリババ、テンセント=BATも一枚噛んでいる。「新興勢力によるクルマづくりブーム」におけるBATの動きは非常に積極的で、新たなインテリジェントハードウェアとなった自動車業界が、すでに3社の戦いの場になっていることがうかがえる。

課題は「量産化」。最終的にはメーカーの淘汰も起こり得る

 自動車業界では目下、新興自動車メーカーが雨後の筍のごとく誕生している。だが、業界関係者は、最終的にかなりの数が淘汰されるとみている。

 新興インテリジェントEVメーカーにとっての最大の課題は、コンセプトをいかに量産化に持ち込むかだ。

 コンセプト先行のクルマづくりの代表といえば、楽視汽車だ。CEO賈躍亭(ジア・ユエティン)は2014年12月に楽視SEEプロジェクトを発表、スマートカーFF91を今年末に量産化すると謳っていた。だが現在、彼は深刻な資金難に陥っており、勝負をかけたクルマづくりの実現には大きな疑問符がついている。

 新興自動車メーカーのうち、蔚来汽車、小鵬汽車、奇点汽車は今年中の量産化実現を目指している。だが、その道は、想定外の出来事に満ちていた。

 蔚来汽車初の量産車ES8は今年前半の完成と納車を掲げていたが、ここにきてパートナー江淮汽車との「離婚」が伝えられた。江淮とフォルクスワーゲンとの合弁契約中に排他条件があるためとも言われたが、蔚来側はこれを否定している。

 また、こんな例もある。2014年に開発チームを立ち上げた遊侠汽車は、わずか1年後に製品発表会を開き、「50人のチームが482日でテスラなみのEVを完成」と喧伝した。しかし、このやり方は「プレゼン(だけ一流の)メーカー」と揶揄され、革命ではなく不遜だとの批判を浴びた。昨年同社は湖州市と生産基地建設の契約を結んだが、計50億元の資金を調達後もなお、工場は完成していない。

 期限内に量産化を実現し、市場を切り開けるか否かが、新興自動車メーカーの生死を分ける。現状、「量産化」は新興勢力にとって、「融資」にかわるキーワードになっている。

 だが、新興自動車メーカーの製品はいまだ正式発売されていない。どのメーカーも、量産化という難題を前にもがいている。

 こうした状況が、彼らを利益共同体にし、「同病相憐れむ」心境にさせるかもしれない。「新興自動車メーカー各社は、初期は同盟関係として、市場啓蒙という任務をともに果たさなければならない」と沈海寅は言う。

「わが社が困難に陥ったら、仲間の誰かが助けてくれるはず。新興勢力のどこかがだめになれば、市場に与える不安が大きく、支援に費やすよりもっと大きな代償が待っているだろう」

 だが、スマートカーの旗を掲げて資金を集めておきながら、真剣にクルマづくりをしない輩に対しては容赦ない。「そんな企業は新興市場を害するだけ。まさに『腐ったミカンの方程式』」「『楽視汽車が失敗すれば、ライバルが減るのでは?』と取材で聞かれたこともある。だが、楽視にはうまくいってほしい。成功すれば業界に注目が集まり、投資も増えるから」。沈海寅はきっぱりと言った。


※本稿は『月刊中国ニュース』2018年8月号(Vol.78)より転載したものである。


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