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研究成果を市場へとつなぐ「便利なルート」

2018年8月10日 王建高(科技日報記者)

―大学教授から企業経営者へ、「象牙の塔」から企業へ

 山東辰星膠業科技有限公司と青島大学は7月19日、微細加硫粉末ゴムの技術研究と応用に関する協力協定を結んだ。協定によると、双方は青島大学高分子材料研究所を拠点とし、共同で青島大学—辰星微細加硫粉末ゴム応用技術研究院を設立する。初年度は辰星膠業公司が研究院研究資金として200万元を拠出する。

 青島大学の研究成果転化センターは今年に入ってから大いに人気を集めている。同センターの崔言民・董事長(理事長)は科技日報のインタビューに対し、「研究成果の転化や協力に関する相談のために、山東・江蘇・河南など中国各地の地方政府や企業の関係者が相次いで大学を訪れている」と語った。

 青島大学党委員会の胡金焱・書記は、「国のイノベーションシステムの重要な一部分である大学は、知識イノベーションの源であり、研究成果を産出する重要なキャリアでもある。イノベーション駆動の発展戦略を推進するうえで、大学は重要な役割を担っている。大学は今、産出する成果は多いものの、転化されるケースは少なく、普及が難しいという窮状を抱えているが、どうすればこの窮状を乗り越え、研究・イノベーションの成果を『象牙の塔』から外に出し、より大衆に近づけ、真の生産力へと転化することができるのか?青島大学はこのための取り組みとして、学科型企業(訳注:その大学が強みを持つ学科や研究内容と深く結びついた研究活動を行い、産学官連携を実現し、研究成果の転化を行う企業)を設立したほか、青島大学による研究成果の自主的な転化という新モデルを模索し、『青島大学研究成果転化弁法(規則)』と『青島大学学科型企業管理弁法(規則)』を打ち出し、青島大学産業管理委員会、青島大学株式投資管理有限公司を設立し、青島青大技術移転センター有限公司を立ち上げた。さらに、研究成果を産出した人(もしくはチーム)の純利益の割合を、最大で90%、最低でも70%以上にすると規定した」と述べたほか、学校―地域、学校―企業の多方面による協力を通じて、産学研用(企業・大学・研究機関・実用化)の緊密な連携を推進したと指摘した。

大きな市場を秘める小さな海藻

 今年初旬、青島源海新材料科技有限公司が設立された。青島大学海洋繊維材料研究院院長の夏延致教授が率いる海洋繊維研究チームは、海藻繊維のゲル紡糸技術など10件の発明特許権によって7200万元という金額で資本参加し、パートナーと共同で登記資本金1億2千万元の青島源海新材料科技有限公司を設立した。同社は設立からわずか半年あまりだが、その製品は引く手あまたで供給が需要に追いつかない状態だという。

 海藻繊維の産業化・普及について、夏延致教授は「中国は世界一の海藻養殖大国であり、海藻由来の繊維が量産化され、多くの分野で応用されるようになれば、世界的な『海洋の棉畑』を創り上げることができる。これにより、棉繊維原料の供給難の問題が解決でき、大いに将来性が見込まれる」と語る。

 青島市即墨区の恒尼智造(青島)科技有限公司の張玲・行政人事総経理はインタビューに対し、「夏延致教授のチームが開発した海藻繊維が大変気に入り、さっそく協力を申し出た。当社は海藻由来の繊維を肌着に応用した、世界で唯一の海藻繊維肌着スマート製造企業となった」と語る。

 研究成果の転化が難しいということは、大学と企業の連携が不十分であることを示している。ほとんどの企業は、実際の生産プロセスにおいて、すぐに効果が表れるような研究成果を必要としている。一方の大学にとって、研究成果の一部はまだ「半製品」、ひいてはコンセプトの段階であり、さらなる研究成果の応用と開発のために、資金や市場からの支援を必要としている。張玲・行政人事総経理は「こうした状況の中では、企業と大学が密接に連携することで、より良い成果を上げることができる。なぜなら市場を最も理解しているのは企業であり、企業が何を必要としているかをよく理解しているからだ」と語る。

大学教授が企業立ち上げ、企業と大学を隔てる垣根を飛び越える

 青島大学の董蒨教授の研究チームは今年1月、3件の特許出願権を「初期費用+歩合」という形で青島万福集団股份有限公司に譲渡した。これは同大学にとって、デジタル医学の研究成果転化の新たな成功例となった。

 董蒨教授の研究チームは昨年7月、登記資本金300万元で青島青英デジタル医学イノベーション研究院有限公司を立ち上げた。うち、大学側が30%の株式を、董蒨教授のチームが70%を保有する。青島大学の特色であるデジタル医学学科およびデジタル医学・コンピュータ支援手術研究院の研究開発力に目を付けた山東英吉多健康産業有限公司は100万元を投資して董蒨教授のチームから株式の10%を購入した。

 青島大学研究成果転化センターの崔言民・董事長は、「近年、大学教授が創設した企業の成功例が多く生まれている。教授らは自らの技術面の優位性と大学の研究環境の優位性を十分に活用し、これまで企業と大学を隔てていた垣根を上手く飛び越えたのだ」と語る。「象牙の塔」からハイテク企業へ。教授らが創設した企業はある意味、新たな技術や新たな研究成果を市場へと転化・移行するための便利なルートを提供したと言える。

 青島大学が開発したあまり目立たない特許の多くも、中国国内の多くの企業から注目されている。江蘇省呉江市の企業9社(呉江赴東揚程化繊有限公司、羽奇隆特種絲科技(蘇州)有限公司、金倫(蘇州)織造有限公司など)は昨年12月、価格協議の末、青島大学紡織服装学院の郝龍雲教授、陳韶娟教授ら8人が開発した特許計23件を購入した。

 このような小さな特許が、青島大学の研究成果の転化という大きなプロジェクトを成功に導いている。青島大学が支援する青島新旧運動エネルギー転換活動が7月4日に始動した。青島大学の夏東偉学長によると、同校はチップの設計と製造、空間情報とグローバルビッグデータ、ロボットとスマート製造など12の重点プロジェクトを打ち出して地方経済の発展を後押しし、大学―地域のさらなる互恵・ウィンウィンを実現していくという。


※本稿は、科技日報「譲科研成果走向市場這裏有条“便捷通道”」2018年7月26日付,第06版を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。


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