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中国の電波望遠鏡「FAST(天眼)」、新たな目標へ邁進 早急な技術的ブレークスルーが必要

2018年10月2日 何星輝(科技日報記者)/李官傑、洪永(科技日報通信員)

 中国の球面電波望遠鏡「FAST」の観測力は、理論的には可視宇宙の周縁まで達するほどのレベルに達している。人々は、2年間の調整・試用期間に卓越したパフォーマンスを見せた「FAST」に、様々な期待を寄せている。将来的に、「FAST」が銀河系の外で新星を見つける可能性はあるのだろうか?「FAST」によってノーベル賞クラスの科学成果が生まれる可能性があるのだろうか?これらはすべて、「FAST」の性能を最善の状態に調整できるか否か、そして卓越したデータ処理能力を持てるか否かにかかっていると言える。

 科技日報記者は9月下旬、貴州省平塘県に位置する中国科学院国家天文台「FAST」重点実験室を取材した。科学者チームは今まさに、「FAST」の次なる観測に向けて障害を取り除くため、技術的ブレークスルーに取り組んでいた。

銀河系外の新星を見つけることは、長期的な目標

 国際スクエア・キロメートル・アレイ(SKA)プロジェクトの事務局長を務めるフィリップ・ダイヤモンド教授は、「FAST」について、「私を含む世界の多くの科学者は、『FAST』が宇宙の様々な天体の観測を始めることに大きな期待を寄せている。『FAST』はビッグバン時の信号を観測する能力を持ち、ほとんど宇宙の起源まで観測できるレベルに達している。『FAST』は我々がこれまで知らなかった事物を発見することだろう。」と語った。

 「FAST」の巨大な「観測の眼(望遠鏡)」は、500メートルの大口径を持つ。「FAST」は理論的には、137億光年より外の電磁信号を受信できる。この距離は、可視宇宙の周縁までの距離とほぼ同じであり、人類の深宇宙観測力がかつてない高度まで向上することになる。

 調整・試用期間の2年間に行われた「FAST」の「小手調べ」の観測は、世界を感嘆させた。「FAST」が初めて発見したミリ秒パルサーは、これまでに人類が発見した中で、電波フラックスが最も弱い高エネルギーミリ秒パルサーの1つであり、米国のアレシボ天文台などの国際的な大型電波望遠鏡も過去に幾度も捜索したが、見つけることができなかったものだ。

 パルサーが発見されてからの数十年間で、人類が観測したパルサーの数はわずか2700個あまりであるが、科学者らは、「FAST」が将来的に4000個のパルサーを発見できるだろうと予測している。

 深宇宙で「獲物」を探す常駐科学者らは、「FAST」によって銀河系外の新星、特に回転スピードが速く、密度が極めて高いパルサーが発見されることを強く願っている。もし「FAST」で銀河系外にあるパルサーをとらえることができれば、国際的に見ても画期的な意味合いを持つ出来事である。「FAST」プロジェクトの技術チームは、すでにそのための準備に着手しており、早ければ来年には観測が始められるという。

 中国科学院国家天文台「FAST」プロジェクト・調整チームの盧吉光氏によれば、パルサーの科学的意義は、パルサーそのものの研究だけではなく、その他の天体のプローブとしても有用である点にある。もし銀河系外のパルサーを見つけることができれば、それらを使って銀河間物質の属性を研究することができる。パルサータイミングアレイを用いて遠く離れた天体から発された重力波を観測すれば、より長い干渉アームを持つことに等しくなる。

 盧吉光氏は、「『FAST』の最大の優位性は感度の高さにあり、パルサーのシングルパルスを研究するのに非常に適している。これらシングルパルスの詳細からパルサーの放射のメカニズムを割り出すことができ、そこからパルサーの物質の三態をより一層狭め、その他の関連科学研究を推進することができる」と語る。

観測の障害を取り除くため、技術的ブレークスルーに取り組む

 「FAST」は将来的に、現在の電波天文学の主な研究の方向性と科学的な目標を網羅することになる。宇宙における中性水素の監視から、宇宙の起源と進化の探究、パルサーや星間分子の観測、さらには地球外生命の探究まで……。「FAST」の正式な稼働が始まれば、各国の科学者がこれを共有し、相次いで利用することになる。このことは、中国の天文学に「黄金時代」をもたらすだけでなく、重要なオリジナルの科学成果が誕生する可能性もある。

 中国科学院国家天文台「FAST」プロジェクトの姜鵬・チーフエンジニアによれば、電波天文学は天文学の最先端の分野の一つであり、天文学関係のノーベル物理学賞の約半数が電波天文学の観測によるものだという。特に今最も注目を集めているパルサー分野では、すでに2つのノーベル賞が生まれている。「FAST」は将来、人類がこれまでに観測した数の2倍のパルサー(特に特殊な種類のパルサー)を発見すると予測されており、一般相対性理論と重力波観測の面で重要なブレークスルーを果たす可能性が極めて高い。

 もちろん、これらはすべて、「FAST」が性能を最善の状態に調整できるか否か、そして卓越したデータ処理能力を持てるか否かにかかっている。

 19本ビーム受信機の稼働開始後に生まれる膨大なデータへの対応について、「FAST」チームはストレージや計算力の面で「厳しさ」を感じており、データ蓄積の危険も一歩一歩近づいている。しかし、「FAST」と中国電信(チャイナテレコム)が共同で建設するデータセンターが間もなく稼働開始するほか、科学者チームも現在技術的ブレークスルーに取り組んでおり、「FAST」の次なる科学的探査の障害を取り除くため、力を尽くしている。

 貴州省政治協商会議の元副主席で、貴州師範大学副学長の謝暁尭氏は、「1日に受信するデータ量が数十倍に増えたため、データ伝送やストレージ、加速などの問題を解決する必要が出てきた」と語る。現在19本ビーム受信機で受信しているデータは38G/秒であり、1年間で96Pのデータを受信し、処理を施すと約10~15Pになる計算だ。これほどの量のデータが、速やかに計算しなければただのごみになってしまう。このため、技術的ブレークスルーが非常に差し迫った問題となっている。

膨大な量のデータが貴州にもたらした課題とチャンス

 科学的成果の産出のほか、今後30年で「FAST」のデータ量は10EBを超えるため、完全な計算処理のために新技術の発展が必要になってくる。まず、膨大な量のデータにより、天文学の研究が仮説駆動からデータ駆動へと転換する。すなわち、これまでは「この仮説を検証するためには、どのような実験をすればよいか」という思考だったのが、これからは「これらのデータから何が分析できるのか?もしほかのデータと融合させれば、今度は何が発見できるのか」を考えることになる。このほか、貴州のビッグデータ研究も多くの課題に直面することになる。

 「膨大な天体観測データは、貴州の技術と人材面にかつてない課題をもたらした」と語る謝暁尭氏によれば、貴州は「FAST」のデータ収集、伝送、ストレージ、分析などの面で、全国に先駆けて新たな政策を試行し、ブレークスルーを果たす必要があるという。もちろん、このようなデータの「富鉱」は、貴州がビッグデータの処理や分析に携わる研究人材や応用人材を育成し、招致するのにも役立つ。スーパーコンピューターの分野で重要な進展を果たすことも不可能ではない。

 これを契機として、貴州省は今、国家スパコン貴安センターと貴州科学データセンターの建設を計画している。今後、貴州省は技術リストを発表し、全国ないしは全世界の科学者を組織して膨大なデータの保存、伝送、処理能力向上に取り組み、貴州省のビッグデータの技術水準と産業発展水準を高めていく。

 注目すべきは、「FAST」にけん引される形で、貴州がすでに天文学研究のマトリックスを初歩的に構築したことである。中国科学院「FAST」重点実験室、「FAST」初期科学データセンター、貴州省電波天文学データ処理重点実験室、貴州省情報・コンピューティング科学重点実験室などの研究機関は、ハイレベルな研究者を多く引き付けており、「FAST」に人材面の力強いサポート支援している。


※本稿は、科技日報「“中国天眼”沖撃新目標 亟須技術攻関」(2018年09月26日第01版)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。


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