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山東省:基礎研究から産業化までの全てのチェーンをつなぐ

2019年1月9日 王延斌(科技日報記者)、馬文哲、張駿(同紙通信員)、符雪苑(編集責任者)

 基礎研究を産業化に結びつけるには、どれほどの道のりがあるのだろうか。山東省の重大基礎研究プロジェクト「大規模工業及び都市の固体廃棄物からの高性能・高付加価値エコ建材の製造(大宗工業及城市固廃制備高性能高附加値緑色建材)」による回答は「そう遠くない」というものだった。山東大学の王文竜教授が率いる研究チームは、赤泥、ずり、都市汚泥、尾鉱等の産業及び生活由来の固体廃棄物を科学的改質や合成、活性化等の処理により、硫黄・アルミニウム系の高活性材料や3Dプリンタによる建築材料、環境に優しいグラウト材等の高性能サンプルに実用化させる。「ごみを資源に変える」という類を見ない技術に引かれ、いくつもの企業が提携を協議するためにこの研究チームを訪れている。

 これは山東省の科学技術部門が基礎研究と応用開発の間にあるいわば「最後の1キロメートル」を打開するべく照準を定め、力を注ぐ最新の事例である。基礎研究の成果を高いレベルで消化して産業化のための効果的な道筋を模索し、「基礎研究—応用開発—産業化モデル」というルートの融通によるイノベーションの実現のために努力することが、現在まさに山東省における基礎研究分野の新たな特色となっている。

 12月下旬、科技日報記者が調査の中で気づいたことは、2014年以降、山東省における基礎研究支援は、重要文書で頻繁に触れられるだけでなく、実際に貴重な資金が投入されてきているということだ。たとえば、経費は2014年当時の5000万元から毎年徐々に増加し、今年は2.5億元に達している。そして、これらの資金はプロジェクト自体に狙いを定めるのみならず、プロジェクトを率いるチームリーダーや研究チームそのものの成長をより重視しており、対象の研究チームに所属する35歳前後の多くの青年科学者が急速な成長を見せている。同時に、山東省の科学技術部門では「改革」の二文字が重大基礎研究プロジェクトの実施に関するすべてのプロセスに貫かれており、(基礎研究という)いわば「源泉の供給」の時点から需要主導を強化し、「連合艦隊」とも形容される科学研究モデルを導入し、イノベーションの全プロセスを支援することとしている。また、広く「網を張る」だけでなく「有望株」の育成にも力を入れており、なかには支援額が「1千万元」級に達するものもある。記者の知る限りでは、山東省では今後も基礎研究の経費が「大幅に増加」し続けるだろう。

ハイクオリティな「源泉の供給」により、「実施」効率が向上

 シアノバクテリアはまたの名を藍藻といい、地球上で最も古い微生物のひとつである。シアノバクテリアは植物型の光合成によって二酸化炭素を各種糖質に固定、転化する。研究の結果、多くのシアノバクテリアは高塩濃度の環境下において細胞内でショ糖を合成・蓄積して逆境に抵抗することがわかっている。この生理的特徴を利用してシアノバクテリア工場を増やし、糖質分子の合成と分泌を行って二酸化炭素と太陽エネルギーをショ糖製品に直接転化することが潜在性の高い新型の糖原料供給路線となってきている。

 山東省科技庁基礎研究処の責任者によれば、中国科学院青島バイオエネルギー・バイオプロセス研究所の研究者である呂雪峰、崔球らが率いる多くの研究チームによって、山東省ではすでに合成生物学という学問分野で強みを持ち、新興産業の育成のためにも源泉となる基礎研究からイノベーションに向けた支援が提供されている。

 この重大基礎研究プロジェクトの実施により、山東省は中国全土で見ても、地方性資金援助特別プロジェクトによって合成生物学の発展をいち早く支援することとなった。また、この事例によって、以下の2つの重要な情報をさらに見て取ることができる。

 第一に、同プロジェクトでは複数の学問分野や研究チームを束ねていることである。たとえば、合成生物学やビッグデータの実用化、バイオセンシング、分子プローブ等の新興の学際的分野においては、山東大学中国科学院青島バイオエネルギー・バイオプロセス研究所、斉魯工業大学といった合成生物学の複数の研究チームによって、同省の合成生物学分野の育成と発展が支えられていることである。

 第二に、山東省は中国国内で初の新旧原動力転換総合試験区であり、同省の2018年における重大基礎研究プロジェクト68件のうち55件が新旧原動力転換事業の「10強産業」分野に関係した。これらのプロジェクトによって国家発明特許が200件以上誕生し、イノベーションの根源としての基礎研究の提供増に効果が上がることが予想される。

 「基礎研究は科学者たちの自由な活躍を後押しするだろう。しかし我々も、彼らが特定の分野を「深く掘り下げる」ことによって、大きな成果をあげることを支援し、奨励する」と山東省科技庁基礎研究処の責任者は科技日報の記者に語った。先頃、青島科技大学のある基礎研究プロジェクトがベンチャーキャピタルから注目された事例が、「(基礎研究を)深く掘り下げた結果、宝物を掘り当てるほどの成果をあげた」好例である。

「連合艦隊」を創設し、団体モデルで科学研究の全てを網羅

 「植物の生長は幹細胞によるものだが、その幹細胞もホルモンによってコントロールされる。このため、われわれの研究の意義は、ホルモンが幹細胞を調整するための「パスワード」を読み解くことで、ホルモンを通じた幹細胞発生の制御を実現したことだ」。科技日報の記者からのインタビューを受け、重大基礎研究プロジェクトリーダーの山東農業大学教授、張憲省氏はこう答えた。

 しかし、このプロジェクトの持つブレイクスルー的な意義はこれにとどまらない。この重大基礎研究プロジェクトをめぐり、山東農業大学、山東大学、山東師範大学、魯東大学ならびに多くの農業関連企業の研究者によって構成されるいわば「連合艦隊」を創設し、小麦やトウモロコシ、林木等の多くの分野を含む、基礎研究から産業向けの開発・応用へとその範囲をカバーしている。

 チームとしての強みを発揮するために、山東省では革新的な試みとして、プロジェクトの短期的実施と研究チームの長期的発展を有機的に結びつけ、すべてのプロジェクトでチームとして取り組むモデルを採用し、プロジェクト責任者と所属する研究チームの責任者の「ダブル責任者制度」を実施することが取材を通じてわかった。基礎研究プロジェクト68件の研究チームは山東省全体の高等教育機関・科学研究機関21ヵ所と製薬企業2社から派遣されている。

 張憲省氏によれば、これらの成果をベースにすれば、今後1年から2年の間に大量の応用成果が発表されるだろう。特に、それは現在、停滞期にある林木や果樹、花卉等の経済作物の分野で広く応用できる。また、照準を定めてエネルギーを集中させ、基礎研究と応用の間のいわば「最後の1キロメートル」を打開するために、山東省では基礎研究と産業化の間に横たわるボトルネックを突破するための効果的な模索している。

 取材によれば、「植物幹細胞」プロジェクトは1千万元級の支援を獲得することができ、「基礎研究サービス経済戦線」という方向性を代表するだけでなく、「連合艦隊」を組織し、研究チームとしての最大の効果を発揮するための模索をしている点も評価に値する。

 また、「連合艦隊」におけるカギとなる研究者の役割を整理するために、「若者に大役を与える」ことが主流になっている。これは、山東省がイノベーションの体制や仕組みによって、研究チームの中で若者がなるべく早く頭角を表せるようにしていることと関係がある。間違いないのは「若者への投資は、山東省の科学技術の未来への投資である」ことである。


※本稿は、科技日報「山東:融通基礎研究到産業化全鏈条」(2018年12月20日付2面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。


 

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