【17-19】タリム盆地地下7キロの応力測定に成功 将来南海トラフ巨大地震などの切迫度監視に活用期待

2017年 7月13日  小岩井忠道(中国総合研究交流センター)

 新疆ウイグル自治区のタリム盆地の地下7キロで地殻にかかる応力を測定することに中国と日本の研究者たちが成功した。地 下深部の地殻応力を知ることは石油など地下天然エネルギー資源開発など工学分野だけでなく、地震発生メカニズムの解明など地球科学分野からの関心も高い。巨 大地震の発生が近いとされる南海トラフ海域で進められている海底掘削調査にこの地殻応力計測法を活用したい、と研究チームは言っている。

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タリム盆地の位置(Google Mapより作成。林教授提供)

 京都大学大学院工学研究科の林為人教授、中国地質科学院地質力学研究所の孫東生主任研究員、米ウィスコンシン大学マディソン校の曽根大貴助教らは、天 然ガス探査のための掘削調査で得られた岩石試料を用いて、地殻応力測定を行った。地殻応力というのは、地殻を構成する岩石に力がかかったとき、それに応じて岩石内部に生じる抵抗をいう。岩 石試料を用いた地殻応力測定は難しい。今回、岩石試料を得たタリム盆地の掘削孔の深さは7,169メートル。これだけの深さになると孔内の温度は約セ氏200度にもなり、孔内での応力測定は困難となる。

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林為人京都大学大学院工学研究科教授(林教授提供)

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孫東生 中国地質科学院地質力学研究所主任研究員
(タリム盆地の実験室で。孫主任研究員提供)

 残る手段は、岩石試料を地層から取り出した後に測定する方法だ。ただし、弾性ひずみは地層から切り出した瞬間に回復してしまうので測定不能。と ころが研究チームが用いたASR法は徐々に回復する非弾性ひずみが測定できる。非弾性ひずみを測ることで地層から切り離す前に岩石試料にかかっていた力、つまり地殻応力を測定することが可能になる。今 回の研究の結果、非弾性ひずみの測定にも時間の制約があり、地層から取り出して約4日経過すると測定不能になることも確かめられた。

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タリム盆地掘削リグ(林教授、孫主任研究員提供)

 測定の結果、タリム盆地中央部 6~7 キロメートルの深度範囲の地殻応力状態は現在、鉛直方向の応力成分が最大で、水平成分が最小であることが判明した。こ れは正断層を形成するような状態であることを示す。研究チームは、盆地中央の音波探査で正断層の構造特性が観察された結果とも一致することなどを挙げて、A SR法が7キロメートルの大深度下でも適用できることが証明された、としている。

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7キロの深さから採取した岩石試料。表面にはり付けた「ひずみゲージ」で微小なひずみを測定する(林教授、孫主任研究員提供)

 地下深部の地殻応力測定を地震発生時期の予測手法として活用するためには、連続してデータをとり続けることが必要。しかしタリム盆地での研究の計測手法では、予算の制約もあり、デ ータをとり続ける定点観測は現時点では困難という。林教授は、今後、この成果を震源断層の近傍などで応力が蓄積する過程の解明に寄与する研究に活用したいと語っている。具体的には、「 南海トラフの巨大地震に向けて、この測定方法で応力(単位面積当たりかかっている力)を測り、その変化のプロセスを把握して、地震発生の“切迫度”を定量的に見いだす」ことを最終目標に据えている。

  林為人(はやし ためと)教授は中国の阜新鉱業学院(現 遼寧技術工程大学)助教を経て1987年に日本に留学、日本の大学で修士、博士課程を修了した。総 合建設コンサルタント会社を経て2003年海洋研究開発機構に移る。2016年4月、京都大学大学院工学研究科教授に就任、海洋研究開発機構の招聘上席技術研究員を兼ねる。1999年に日本国籍取得。中 国名はWeiren Lin(漢字表記は日本名と同じ)。

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