【18-12】中国の活力を日本の活力に 通商白書が経済変化詳述

2018年7月12日 小岩井忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 拡大するデジタル貿易や急速に変化を遂げる中国経済について特に詳しく分析した通商白書を経済産業省が10日、閣議に報告し、公表した。新産業の躍進がめざましく、活発な創業活動が目立つ中国の現状をさまざまなデータを基に紹介している。日本が中国国内でのビジネス展開を図ることに加え、第三国での企業同士の協力も進め、中国の活力を日本の活力につなげる必要を強調しているのが、目を引く。

 中国で国内総生産(GDP)の業種別成長率が突出して高いのは情報通信・情報技術サービスで、年26.0%の伸び。電子商取引(EC)は、2016年に約23兆元(約375兆円)と世界一。シェアリングエコノミーの市場規模も2017年は前年比47.2%増の約4兆9千億元(約82兆円)と急速に拡大―。こうした中国経済の急速な成長ぶりと、成長を牽引する産業の変化の激しさを白書は詳述している。

 2017年に創業した企業の数が607万に上り、開業率(全体の企業数に対する創業企業の割合)は25%弱と、米国(約10%)、日本(約5%)と比べてはるかに高い。ベンチャー企業に対するベンチャーファンドの投資金額も2016年に約2兆2,000万円と米国(約7兆5,000億円)に次いで世界第2位―。非常に恵まれた資金環境下で活発な創業活動が続く中国産業界の状況も明らかにしている。

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(2018年通商白書から)

 対外貿易の現状からも、中国の占める役割の大きさは明らか。2017年に中国を最大の輸入相手国とする国は世界の約30%、57カ国に急増し、世界一になった。中国を最大の輸出相手国とする国も世界の約16%(30カ国)と、米国に次ぐ多さとなっている。中国の輸出を担う企業としては、国有企業のシェアが低下し、代わりに外資企業が大きな役割を果たす時期が2000年代中ごろまで続いた。しかし、その後民間企業が徐々に力をつけ、2015年からは民間企業のシェアが外資企業を上回っている。

 輸出を牽引する産業も、繊維産業から電機・光学機器産業へと変化がみられる。さらに注目されるのは、「付加価値比率」にも明らかに変化が現れていること。付加価値比率とは、輸出品が国内でどれだけ付加価値をつけられたかを示す数値。2000年の時点で中国の電機・光学機器産業の付加価値比率は約30%でしかなかった。半導体や液晶パネルなど多くの部品を外国からの輸入に頼っていたためと考えられている。しかし、2014年には付加価値比率は約50%に上がっている。国内で調達する部品も増えて、電機・光学機器産業の付加価値化が進んだことを示している。さらに2010年代には、中国企業による先進国の工業・ハイテク企業の買収が活発になり、欧米諸国の警戒心を強める事態が生まれている。最近は中国企業の投資を規制する各国の具体的な動きが見られるまでになった。

 白書は、日中間の最近の変化も詳しく紹介している。2017年の日本の対中輸出額は、過去最高の14兆9,000億円に上った。総輸出額の約2割に相当し、最大の輸出国である米国とほとんど変わらない。中でも半導体製造装置の金額、伸び率の高さが目立つ。中国国内の半導体生産需要の急増を反映しているとみられている。また、省力化、合理化投資によるとみられる工作機械の伸びも大きい。化粧品、医薬品、玩具や旅行など娯楽関係品、幼児用品といった消費財の輸出額、伸び率も大きく増えている。

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(2018年通商白書から)

 最近、特に目立つのが、電子商取引(EC)により中国の消費者が日本から購入する商品の多さ。購入額は年々、伸びており、2016年には1兆 366億円、 さらに2017年には1兆2,978億円(前年比25.2%増)に達したと推定されている。

 白書は、中国の一人当たり消費額は今後も伸び続けるとみており、環境問題への中国政府の積極的な取り組み姿勢から、環境関連市場の拡大も見込まれるとしている。消費者の支出増が期待されるのは、交通・通信、教育・文化・娯楽、健康・医療関連で、環境分野では、優秀な環境技術を有する企業にとってビジネスの機会が拡大するとみている。さらに日本企業のビジネス展開は中国国内に限らず、第三国での日中企業協力も進めることで、成長を続ける中国の活力を日本の活力につなげていく必要がある、と指摘している。

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講演する阮湘平駐日中国公使参事官(2017年9月4日、科学技術振興機構で)

 中国経済の変化に伴い日本との関係でも新たな展開を期待する声は、日中両国の外交官や研究者からも最近、相次いで聞かれる。昨年9月、科学技術振興機構中国総合研究・さくらサイエンスセンター(CRCC)主催の研究会で講演した阮湘平駐日中国公使参事官は、「日本が持つ技術の価値を高めるため、日本の企業が中国で共同実験を試みてほしい」と、特に日本企業との科学技術協力の拡大、充実を呼びかけた。

 また、日中双方の科学技術政策に詳しい周瑋生立命館大学政策科学部教授は、今年4月のCRCC研究会で、中国が力を入れているアフリカ諸国との協力を例に挙げ、優れた省エネ技術を持つ日本が中国と第3国で協力する効果の大きさを訴えた。

 さらに5月に同じCRCC 研究会で講演した瀬口清之キヤノングローバル戦略研究所研究主幹(元在中国日本国大使館書記官・元日本銀行北京事務所長)は、「商人としての能力が高い中国人と、職人として力を発揮する日本人が組むと、産業競争力の強化は確実」と、日中協力、特に日本企業の積極的な中国進出を強く促した。「中国の発展は日本の発展、日本の発展は中国の発展」。瀬口氏は「通商白書」に出てくる表現と似たこのような言葉でも、日中協力の意義を強調している。

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