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「ユニコーン企業」が続々 イノベーションシティ・成都の戦略

2018年5月14日 郭盼盼(文)/及川佳織(翻訳)

 「一帯一路」「イノベーション主導経済」がクローズアップされて以来、その動向が注目されているのが中国西南部に位置する成都。近年は「ユニコーン企業」が続々育っている。その秘密はどこにあるのか?

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 成都市政府の指導者たちは、わたしたちに会うと、まず『困っていることはないか?』、そして『最近の様子はどうだ?』と必ず聞いてくれる。気分が良いですよ」。人人快送の創業者でCEOの謝勤(シエ・チン)氏はそう話す。

 スマート配送アプリ「人人快送(人人快逓から2017年に改名)」は、世界初の「クラウドソーシング物流」プラットフォームだ。信用システムと安全保障システムをベースに、審査により一般の人々を「フリーの配達人」に仕立て、彼らが街中を行き来するのを利用して、リアルタイム配送サービスを提供している。従来の物流とは異なり、中継や保管、仕分けなどの中間プロセスは不要。「フリーの配達人」が移動のついでに点と点を結んで配送をおこなっているのだ。

 この1年で成都市にもニューエコノミーの波が到来し、謝氏はニューエコノミー企業の代表として各界から注目を浴びる喜びを強く感じている。現在、成都市は市場の新たな勢力に対し寛容な監督管理方式をとっており、ミスを許容する「フォールトトレランス」のスタンスで、発展初期にある新たな業態に成長の可能性を保障している。

 シェアエコノミーの一角をなす人人快送が注視しているのは、融資にかかわる環境整備だ。ニューエコノミーの発展には未来に目を向けることが重要だが、多くのベンチャー企業が資金調達で行き詰まっている。

 この問題には成都市も積極的に動いている。昨年11月30日に公布された「新産業構造の構築、ニューエコノミーの発展、新生勢力の育成に関する意見」(以下「意見」)では、企業の成長段階に応じた融資を提供するとし、2億元規模のニューエコノミーエンジェル基金と100億元規模のニューエコノミー発展基金を設立、直接投資・投資誘致・相乗り投資などの方式により、融資サービスを提供する、としている。

政府の本気度が企業を成都に引きつける

 成都市天府ソフトウェアパークにオフィスを構え、成都市「潜在ユニコーン企業」リスト31社に名を連ねるゲーム開発・運営会社の天象互動数字娯楽有限公司の市場規模は、すでに36億元に達している。

 成都市は「スマホゲーム第4の都市」とも呼ばれる場所だ。ゲーム市場が拡大を続けるなか、天象互動は研究開発力を武器に順調に成長、ドラマとコラボしたスマホゲーム『花千骨』の成功によって、業界での地位を固めた。

 現在、同社の従業員はすでに500人以上。規模の拡大にともない、今年、正式に自社本部を建設する。「成都市ハイテクパーク(高新区)に、本部となるクロスメディア・エンターテインメント産業センターを建設する予定です」。天象互動の政府業務シニアマネージャーの張嵐(ジャン・ラン)氏は語る。

 張氏は成都市を絶賛する。会社立ち上げ時のスタジオ、現在の2階建てオフィスやテンセントと協力して設立したテンセント西部イノベーションセンター、さらには新しい本部まで、成都市は彼らに強力なサポートを提供してくれたからだ。

 成都市は「意見」の制定過程で、座談会を何度も開いて企業のニーズを聞き取り、支援策を実施してきた。天象互動も座談会にたびたび出席している。「市政府の奉仕の精神をとても感じた。彼らは奉仕者に徹して、企業の拡大・成長をサポートしてくれる。本気でユニコーンを育成したいと思っているのです」(張嵐氏)

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昨年の中国のシェアカー発展指数は160%増。成都は、「北上広深(北京・上海・広州・深圳)に次ぎ、全国5位の伸びだった。写真は、シェアカーをブライダルカーに利用している風景。撮影/『中国新聞週刊』記者 安源

「微信で各級政府のリーダーと手軽に意思疎通ができる」

 昨年6月、インテリジェント製造サービスプロバイダーの洪泰智造は、北京から成都に来て、この地に初の地域子会社を設立した。現在、高成長を続ける企業群が同社のサポートを受け、たくましく発展している。たとえばドローン開発の疆域智能や、大型連動式ライトアップ技術で現在市場価値1億5000万元超えとなった智尚極光などだ。

 成都の発展について、洪泰智造副総裁の李強強(リー・チアンチアン)氏は感慨深げだ。彼にとって成都は包容力のある開かれた都市だ。「地方政府が資本誘致する場合、子会社設立より本部移転を歓迎するものだが、ここにはそんな偏見はなかった。各級政府のトップとも微信で手軽にコミュニケーションが取れる。彼らもわれわれを尊重し、認めてくれている。これこそ都市の勢い、開放の活力だと思う」

 李氏は成都の製造業を、両端が大きく真ん中が細い鉄アレイにたとえる。一方の端は研究開発と技術力の強さ。ファーウェイの研究所や電子科技大学などがその例だ。もう一方の端は電子情報産業を始めとする大規模な製造業。トップ500社の多くの企業の生産基地がある。そして、中間の弱い部分が開発、商品化、産業転換のサイクルだ。この段階で生き残りに失敗する企業が多い。この段階での「サポート+投資」が洪泰智造の強みだ。

 多くの企業にとって、成都は無視できない市場だ。昨年はテンセントのパートナー大会が開かれ、ネットサービス大手・58集団が「58新経済産業パーク」設立計画を打ち出した。IBMやデル、ファーウェイなど世界の有名企業も拠点を置いている。

「起業に関して、『意見』では設備や機器を創業者とシェアすることを支援・奨励している。これはわれわれのビジネスモデル。わが社にとって大きな自信になった」と李氏は言う。

 シェアエコノミー分野のサービス企業である洪泰智造は、成都市の政策サポートと相互補完関係にあり、潜在的ユニコーン企業によりよいサービスを提供できるだけでなく、より整備されたサービス環境確立を促すこともできる。現在、同社は成都の企業300社以上にサービスを提供、うち36社には投資もしている。成都のユニコーン企業育成計画について李氏は、「自社の取引先企業から2社は出したい」と期待を寄せている。

成長した企業が牽引するエコシステムの確立が目標

「ニューエコノミーは、入れ替わりの激しいのが特徴。市党委員会や市政府は最適な環境を提供するだけでいい。多くの場合、権限は企業に託すべきだろう。市場のことをいちばんわかっているのは彼らなのだから」。成都市ニューエコノミー委員会政策研究所の周成(ジョウ・チョン)所長は話す。

 極米科技は、李氏や周所長が名を挙げる注目企業だ。高性能多機能プロジェクターやレーザーテレビメーカーの同社は、成都で発展した地元ハイテク企業。設立からわずか4年あまりだが、すでに業界トップの位置にいる。「成都は居心地がよく、効率のいい都市だからです」。成都で創業した理由を聞くと、創業者でCEOの鐘波(ジョン・ボー)氏はそう答えた。「ほかの都市と比べ、企業をとりまく環境も地に足がついている。起業向きなんですよ」。成都を離れようと思ったことはないという。彼にとって同社の成功は、市のサポートと切り離せないものなのだ。「いまや製品やブランドも国内外で認知されていますが、それだけでなく、故郷のために何かしたいと思っています」

 最高の技術と品質を追求しようとの志で業界トップに上り詰めた同社だが、現在、生産能力の供給不足という問題に直面している。これは成都の新型ディスプレイ産業にとっても課題だ。

 鐘氏によれば、極米科技は次世代のディスプレイ技術を担う中核産業の配置を目指しているという。「グローバル次世代ディスプレイ研究開発センター」や「精密光学機部品製造センター」を設立し、昆山や台湾の光学機器メーカーの成都への移転や、さらには合同出資や自社発注を通じての企業誘致も考えている。「極米科技は産業チェーンづくりを牽引できます。当初はわが社が発注を出してそうした企業を育てれば、彼らも成都の多くの企業にサービスを提供できるようになる。彼らがサービスを提供したベンチャー企業が発展すれば、さらに多くのサプライヤーが参入してくる。そうなれば、エコシステムが確立されるでしょう」

 また、極米科技は今年、百度と人工知能分野での協力を強化しようとしている。AI技術によって高機能プロジェクターの発展を後押ししようというのだ。

 鐘氏に代表される成都の企業家たちがいま考えを巡らせているのは、変化する産業に対する理解と判断といった、実に大きな問題だ。彼らはみな、強い牽引力と先見性を持っている。彼らには、すでにユニコーンの気質が備わっているのだ。


※本稿は『月刊中国ニュース』2018年6月号(Vol.76)より転載したものである。


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