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兵器産業から転身した長安汽車

2018年7月4日

陳選

陳 選(チン セン):フリーライター

略歴

 1982年、 吉林大学日本語科卒、1986年、中国社会科学院大学院日本研究所修士課程卒、中国国際信託投資公司( CITIC)勤務。1989年来日、北海道大学法学部大学院修士課程卒、大 手商社長年勤務。中国自動車メーカーのビジネスアドバイザーでもあった。

 北京に本社を置き、四川省重慶市を主要生産基地とする長安汽車は現在、中国第四位の大型国有自動車企業である。

 ところで、長安汽車は実に150年の歴史を持ち、紆余曲折の道を辿ってきた。その前身は中国の近代産業の先駆者でもあった上海洋炮局という兵器工場であった。「洋務運動」の リーダーである李鴻章の意向に基づき、1862年(清同治元年)12月に上海郊外の松江の寺院で、設立された。

 1865年に南京に移り、金陵製造局に名を変えた上、各種の銃砲を製造することになった。1929年、金陵兵器廠(工場)とさらに改称し、1937年、中日戦争が発生した為、工場が奥地の重慶に移り、数 多くの武器を製造した中国最大の兵器工場になった。

 1951年に長安機器廠と再度改称し、1953年に早くも自動車製造業に参入し、「長江」というブランドのジープを試作し、1959年の建国記念日のパレートでデビューさせた。1 963年末に生産を停止し開発データなどを北京汽車製造廠に渡し、北京吉普(北京ジープ)というブランドに変身した。

 長安汽車はその後、1980年代、1990年代の経済改革・開放の波に乗り、数回の再編を経て「軍事産業から民用産業へ変身する」といった政府の方針に基づき、1 996年に親会社から分離し重慶長安汽車股份有限公司になった。

 2005年12 月に親会社の中国兵器装備集団公司は長安汽車を含む完成車メーカー8社と自動車部品企業二十数社について再編を行った上、中国南方工業汽車股份有限公司を設立し、その後、中 国長安汽車集団股份有限公司(略称は「長安汽車」)と改称した。

 2009年1 月14日に中央政府国務院が発表した「自動車産業調整と新興計画」では、長安汽車は上海汽車、東風汽車、第一汽車に続き、国有自動車メーカーの第一陣営に入れられた。現在、長 安汽車は完成車メーカー数社、部品メーカー数十社を持ち、欧州や日本等の自動車先進国では技術開発センターも多数設立している大型の自動車製造集団になっている。

 その他の三大国有メーカー集団と比較する場合、長安汽車の特徴は明らかである。まず、世界一流の自動車メーカー、例えば、フォードマツダ、ス ズキなどと合弁会社を設立したが外資との合弁会社の数が比較的少なかったこと、それに商用車の製造をしていないこと、また、集団全体の販売台数の7割ほどが自主ブランド車で、し かもローエンドの軽自動車であることが挙げられる。

 一方、利益構成面では長安フォードマツダが最大の貢献者である。最近、スズキが中国市場から撤退するニュースが流れた。長安スズキは日系自動車メーカーの中国での合弁会社の中では、販 売台数が12万台未満で最も少なく、合弁解消する場合に長安汽車の経営にどのような影響が出るのか、その結果に注目したい。

 言うまでもなく、長安汽車の将来に大きく影響してくるため、自主ブランド車ラインアップの車種を増やすことに長安汽車は注力している。近年来、自主ブランド車両の品質向上が顕著であり、軽 自動車以外でも乗用車やSUV等の車種も増え、ラインアップがより充実した。ただ、集団全体の販売台数が計画通りに伸びていない。2 016年に集団全体の販売台数が史上初めて300万台を突破し305万台に達したが、2017年に287.24万台に下落し前年比で6.23%減っている。

 長安汽車は上位3位の国有三大メーカーに追いつくためにいろいろと手を打ち、特に省エネ車両の開発と販売に経営資源を集中し、販売台数を伸ばそうとしている。2017年に長安汽車は自動車リース会社、カ ーシェアリング会社等を対象に省エネ自動車数万台を販売し、省エネ自動車販売実績の伸びが中国の主要な自動車メーカーの中で目立っている。

 更に中央政府自動車産業主管部門が公表した「自動車産業中長期発展計画」で2025年に省エネ車両が自動車市場全体の20%以上に達するようにと示した方針に基づき、長安汽車は2025年までに乗用車、S UV、MPV等の新型EVを21モデル、PHEVを12モデル開発、販売する計画を立てている。

 昨年10月19日に長安汽車は北京において省エネ自動車戦略発表会を開き、2020年に省エネ自動車三大専用プラットフォームを築き上げ、2025年に伝統的な内燃機関自動車の販売を中止し、ラ インアップ全車種の電動化の実現を目指すと言った野心的な発表を行った。同時にこの公表会では長安汽車は持続走行距離が350キロを達成した純電動EVのSUVをデビューさせた。今年に入ってから、投 資総額200億元の長安汽車の省エネ自動車製造工場の建設が南京市郊外の江寧で始まった。この工場は中型・大型省エネ自動車EV生産基地と位置付けられ、高 性能SUV等EV自動車の製造をするものとして2020年に量産開始、設計生産能力が24万台/年という計画を立てている。

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(長安汽車のハイエンドEV-「逸動」/小売価格30万前後、昨年の販売台数4000台弱)

 ただし、市場では人気がまだ低い省エネ車両を主力商品として、それに頼って集団全体の販売台数を伸ばそうとすることは、やや短絡的かもしれないであろう。省エネ自動車の短所、つまり割高な製造コスト、充 電ステーションの不足、電池の低容量による持続走行距離の短さなどは世界の自動車業界にとって克服すべき難題であり、長安汽車にとっても例外ではない。長安汽車の野心的な青写真の実現に対して、当 然ながら期待しているが、一方で楽観視をするわけにもいかないであろう。

(本文中のデータ等は長安汽車ホームページやネット自動車新聞サイド等による)


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