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東南大学で進む学際研究 その秘訣は?

2018年7月11日 張曄(科技日報記者)、李小男、唐瑭(科技日報通信員)

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東南大学の游雨蒙教授の開発した新型分子圧電材料の水晶・薄膜デバイス(東南大学提供)

 東南大学ではこのほど、中国初の「一流サイバーセキュリティ学院建設モデルプロジェクト」の一つとなるサイバー空間セキュリティ学院が発足し、中国工程院の于全成院士が初代院長に就任した。

 東南大学は「二つの一流」(一流の大学、一流の学科)建設計画を掲げ、サイバーセキュリティを重点建設の基礎・先端・新興交差学科の一つと明確に位置付けた。同大学では近年、こうした新興交差学科の発展がしばしばニュースとなっている。呉剛・副学長は「われわれは科学技術重大プロジェクトをプラットフォームに、強みである工学を拠り所としながら、工学・理学・医学・文学など学科間の交差を促進し、新たな学科の成長分野の育成をはかっている」と語る。

各学科を強化、弱点を補強

 スマートフォンのシェイク、電池を替えずに何年も動くクオーツ時計など、日常生活になじんだ電子デバイスの機能に重要な役割を発揮しているのが圧電材料だ。

 国際学術誌のサイエンス誌に昨年7月、東南大学の熊仁根教授と游雨蒙教授の研究チームが3年余りを費やして実現した研究成果が発表された。研究者らは、圧電性能を無機材料で初めて実現した分子材料を合成、強誘電体や圧電材料の分野でブレークスルーを実現し、分子材料の圧電性能を130年にわたって制約してきた世紀の難題を解決した。

 東南大学ではもともと、「化学工学・技術」と「化学」の2学科は弱点学科だった。だが同大学に加わった熊仁根教授チームは十数年にわたって、強誘電体の基礎研究分野で「中国の奇跡」を実現し、トップレベルの国際誌に30本以上の論文を発表、2本はサイエンス誌に発表され、2017年度には国家自然科学賞二等賞を受賞した。

 東南大学は国立中央大学を前身とし、中国の著名な四大工学院の一つとされ、建築設計や土木建築、情報技術などの工学科目が強かった。「大勢で船をこぐ時のように、チームの中に強力なこぎ手が何人かいても、船はなかなか速く進まないということがある」。呉副学長によると、同校は弱点を補うため、工学・理学・文学・医学をそれぞれ強化し、重点を明確にしつつ、それぞれのカテゴリーに応じた支援を行った。

 密度は鋼材の4分の1から5分の1なのに、強度は鋼材の5倍から10倍に達し、酸・アルカリ・塩などの腐蝕にも耐性を持つ――。呉智深教授率いる東南大学都市工程科学技術研究院では、各種の繊維増強複合材料が新たな展望を切り開いている。呉教授らの研究は、関連産業の発展を促しただけでなく、中国のハイテク繊維での先進国の独占を打破するものともなった。呉教授の開発した繊維増強複合材料は国家科学技術進歩二等賞を受賞した。

 東南大学は近年、ハイレベル人材を引き付けるため、「丘成桐センター」「未来地下空間研究院」「量子情報研究センター」などの「学科特区」を相次いで設立し、関連制度を定め、若手や中堅の教師に資源を優先的に割り当て、優秀な人材の成長を助けている。

交差と融合で学科の境界を突破

 マイクロ流体チップ上で人体の生体機能を構築する、肝臓チップや肺チップ、腸チップなどの研究も進んでいる。

 今年3月には、世界トップレベルの科学誌「サイエンス・ロボティクス」に、東南大学の趙遠錦研究チームによる「変色心臓チップ」の研究成果が発表された。研究者らは、生体構造色ヒドロゲル材料をマイクロ流体チップに統合し、微小生理現象を可視化する機能を備えた「心臓チップ」を開発した。

 研究者によると、このチップを利用すれば、さまざまな薬物への心臓の反応をチップの色の変化を通じて観察することができ、動物実験や臨床試験が不要にする。セルフフィードバック機能を備えた動的なロボットなど、スマートデバイスの構築にも土台を築いた。

 この成果は、臨床と理論・基礎が緊密に融合したものであると同時に、多くの学科の交差の進行の表れでもある。多学科の交差・融合はすでに、東南大学の新興学科の成長、優勢学科群の発展、重大革新の飛躍の重要なポイントとなっている。

 今年5月に東南大学が設立した学術特区「脳科学・知能技術研究院」は、学部や専攻の境界を突破し、まったく新しい人事任用や査定、実験室管理、研究管理などの体制を導入した。研究院は、脳ニューロンのデジタルな再現の分野で独自の成果を築いている。東南大学・アレン研究所共同センターの彭漢川センター長は「われわれの開発したこの人工知能ソフトウエアアルゴリズムの効率は極めて高く、脳ニューロンのデジタルアトラスを3日から4日で作成できる。すでに40近くのニューロンのデジタルな再現を完了した。今後は、新たな技術により、効率を数十倍さらには百倍以上に高められる見通しだ」と語る。

 近年、東南大学・ウィスコンシン大学交通インターネット研究院(Joint Research Institute on Internet of Mobility)、宇宙科学・技術研究院、司法ビッグデータ研究センターなど、5つの交差学科機構と8つの新型研究機構が相次いで設立され、文科・理科・工科の交差、工科・理科の結合、医科・工科の融合の実現は進んでいる。

共同研究の推進、経済効果を高める

 南京市江寧区に「ワイヤレスバレー」が形を現しつつある。ここではわずか数年の間に、次世代情報ネットワーク技術産業の1千億元級の産業クラスターができあがった。

 ワイヤレスバレーの核心をなしているのが、東南大学の実力派の学術チームだ。移動通信国家重点実験室の尤肖虎室長の研究チーム、ミリメートル波国家重点実験室の洪偉主任の研究チーム、情報科学・工程学院の崔鉄軍教授の研究チームは、第5世代(5G)移動通信や次世代移動衛星通信、ブロードバンド無線アクセス、ミリメートル波通信、マイクロ波「電磁ブラックホール」などでブレークスルーを実現し、開発した技術は同バレーで企業と緊密な連携をはかることになっている。

 近年来、東南大学は世界の科学技術の先端を目指し、国家重大戦略のニーズをターゲットとし、経済を主戦場として、国家の経済・社会発展の重要な戦略的科学技術のニーズを十分に配慮し、学術的な浸透力を持つ研究の実現をはかっている。東南大学の張広軍学長は「大型プロジェクトをターゲットとし、大型プラットフォームを立ち上げ、大型のチームを育成し、大きな成果を生み出し、いくつかの分野でリーダー的地位を実現し、美しく感動を与える東南大学の物語をつづっていかなければならない」と語る。

 2015年、東南大学の呂志涛院士が率いて完了したプロジェクト「現代プレストレストコンクリート構造キー技術革新・応用」が国家科学技術進歩一等賞を受賞した。プレストレスは、大型土木プロジェクト建設の核心技術であり、同プロジェクトの成果は、国内の大型インフラ建設に応用されたほか、世界20カ国以上に導入された。呂教授のチームが打ち出した一連の理論革新は、世界のプレストレスの中心を欧州から中国へと移した。

 科学研究をより一層地に足の着いたものとするため、東南大学は、▽70%の収益で「クリエーター」を奨励する▽学生が3年以内に知的財産権の無償許可によって科学技術成果を使用することを許す――などを含む18本の新措置を打ち出した。科学研究経費の管理では、東南大学は毎年、1600件以上の革新・起業訓練プロジェクトを支援し、「大衆創業、万衆創新」(大衆による起業、万人によるイノベーション)実践活動に参加する教師と学生全員のカバーを実現し、研究実績の評価とも結びつけ、プロジェクト責任者の間接費用の管理権と自主権の開放をはかっている。

 これらの研究体制による奨励の下、東南大学はここ5年で、技術委託団体として、97件の江蘇省科学技術成果転化特別資金プロジェクトに参加し、省の割り当てた関連経費は10億元を超え、江蘇省の大学のトップとなった。さらに9カ所の科学革新協同センターと100カ所余りの産学研共同研究開発センターを共同建設し、江蘇金智科学技術股フン有限公司や途牛旅游網などを代表とする350社のハイテク企業を育てた。


※本稿は、科技日報「鼓励学科“谈恋爱” 这所高校有秘籍」2018年6月2日付,第08版を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。


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